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読書術だけじゃなく本への愛も感じられる一冊―『カリスマ編集者の「読む技術」』



カリスマ編集者の「読む技術」 (新書y)

カリスマ編集者の「読む技術」 (新書y)

  • 作者:川辺 秀美
  • 出版社/メーカー: 洋泉社
  • 発売日: 2009/01/07
  • メディア: 新書

著者は編集者で、ベストセラーになった『夢をかなえるゾウ』の著者・水野敬也さんを最初に見出した方です。本書の帯には「川辺さんは、何十社から断られた『ウケる技術』の持ち込み原稿を最初に見てくれた人。本を見る目は確かです!!」という水野さんのメッセージが書かれており、読む前から著者の読書法へ期待が高まります。才能ある作家を見出す力はどうすれば得られるのでしょうか。
本書は「私は読書をすることによって人生を変えてきた」という川辺さんの読書体験を元に書かれています。著者は「名著などというものは存在しません。勝手に誰かが決めていることです」「なぜかといえば、情報というものは各人にとってそれ相応の価値があるもの」だからと述べ、情報の受け皿となる「自分軸」の必要性を説きます。「自分軸」ができると、「その情報が基礎になって、あらゆることを精査することができるようになる」とのこと。そうすれば、周りの情報に流されず、無名の新人を発掘することも可能になるのですね。本書は「情報というものは各人にとってそれ相応の価値がある」という前提のもと、情報化社会を生き抜く「読む技術」が記されます。

300冊を越えるあたりから感性がするどくなる

私が部下教育をした観点から言わせていただくと、最低300冊を読破したあたりから、感性が鋭くなってきます。      (73頁)

すると、良書か否かを見極める力が付く、とのこと。日々様々な本を読む編集者には大事な力です。ただ、編集者でなくともこの力は欲しいものです。読む本の良し悪しは、自分の力で判断できるようになりたい。書評家の文章に流されたくありません。しかし300冊……。
月に10冊読んで2年半かかります。一日中仕事をしている身には、毎月10冊というのは不可能のように思えます。それに対し、本書は「月に10冊読む」ためには真面目になるな、と述べます。人間は忘れやすい生き物だから、「1冊につきワンフレーズでも役に立つ、もしくは心に響く言葉を拾うことができれば御の字」というスタンスで読書をすればよいのでは、と提唱します。確かにそれなら仕事をしつつ毎月10冊読めるだろうなぁと分かるものの、割り切れない自分がいます。一度試してみる価値はありそうです。

1分間で良書を選ぶ方法

最低300冊の読書を推奨する著者は本の選び方にも言及します。それらはどれも編集者にしかできないような選び方です。例えば本の外見についてこう語ります。

気を付けてほしいのは、パッケージングが上手なことと中身(クオリティー)とは比例しない、という事実です。ただし、パッケージングが上手いということは編集力があるということでもあるので、ある程度の中身との整合性は担保されます。      (138頁)

本屋であてもなく探していると目に留まるのはカバーが素敵な本。良い本を見逃さないように、「カバーだけで決めない」という視点が肝心ですね。しかし、どうすれば良い本に巡り合えるのでしょうか。そこで著者は「1分間で良書を判断する方法」を提唱します。

・最初に著者プロフィールを確認してください(15秒)
・次にあとがきを観てください(10秒)
・その後に目次を観てください(10秒)
・残りの時間を使って本文を眺めてください(25秒)
さあ、いかがでしたか?最後の25秒が大きなポイントになります。ここであなたがビビッドに感じたキーワードが3つ以上抽出できていたら本を買ってください。      (144頁)

なるほど!こういう方法があるのですね。いずれも編集者が本の中で重要だと思うポイントなのでしょう。為になります。(しかも、この方法なら1時間で60冊の本と巡り会えますね。)

本に人生をかける生き方

筆者の体験を元に語られる本書の言葉は、読む人によって受け止め方が違うと思います。「なるほどー!そういう読み方があるのか。いいこと知ったなぁ」と本書を楽しむ人がいる一方で、「経験から出た言葉ばかりで、根拠がないじゃないか!」と本書を投げ捨てる人がいるでしょう。著者の考えに共感するか否かで読後感が大きく異なる本かもしれません。しかし、お待ちください。この本で語られるのは「読む技術」だけではないのです。
本書は編集者の読み方を紹介する本ですが、それ以上に読み手に伝わるのは著者の読書への思い。この著者は読書で道を開いてきた人です。だからこそ読書への思いも人一倍強い。読書に人生をかけているようにも見受けられます。そのような生き方を知れるのは稀有なことではないでしょうか。人生を変えるような読書、私もそんな読書を目指したいと思います。読書の悩みが少し消えました。

文: 北村さらら

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