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森見登美彦さんがはてなを訪問!新作『ペンギン・ハイウェイ』の紹介も



この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ
はてな

■まずははてなの社内を見学

<オフィスランチに興味津々>

はてなでは、ブックマークチーム、うごメモはてなチーム、ダイアリーチームなど、それぞれのチームをブースで区切って作業しています。マーケティング担当id:kiyoheroのガイドで、はてな社内をぐるりと見回す森見さんの目にとまったのは、「おからハンバーグ」や「春雨スープ」などが書かれたホワイトボード。はてなでは週に3回、まかないスタッフid:sacco0627によるオフィスランチが提供されています。それを聞いた森見さんは「いいなあ、うらやましいです」とオフィスランチに興味津々のご様子でした。


<9マス=四畳半の世界!はてなダンジョン>

続いては、エンジニアチーフid:onishiによる「はてなダンジョン」の紹介。はてなでは時折、普段の仕事から離れ、インターネット環境のある施設で開発を行う「開発合宿」を行っています。この「はてなダンジョン」も先日の開発合宿で発表されたもので、ダンジョンを経営・攻略したり、作ったダンジョンを他のユーザーが遊べるソーシャルゲームです。手がけたのは、id:onishi、デザイナーid:nagayama、エンジニアid:motemenの3人。まだリリースなどの目処がたっていない開発段階のサービスですが、9マス(四畳半)で繰り広げられるゲームということで、『四畳半神話大系』を執筆された森見さんに見ていただきました。

「普段の仕事から離れてアイデアを出すというのは、とてもいいですね。僕も合宿で各社の編集者さんのアイデアを集めて、“森見賞”とかを渡してみたい。(笑)」

<代表・近藤と初対面>

と、そのとき、会議を終えたはてな代表・近藤淳也(id:jkondo)が登場。今回が初対面ということで、最初は「緊張します…」と言っていた森見さんでしたが、お互いの母校である京都大学の話に花を咲かせていました。

「森見さんの作品は自分が知っている固有名詞がどんどん出てきて、他人事じゃない気がします」と話すid:jkondo


■森見さんの“ブログ観”

さて、2005年12月より、はてなのブログサービス「はてなダイアリー」を利用している森見さん。どうしてブログを始めたのか、なぜはてなダイアリーを選んだのかを、CTO・伊藤直也(id:naoya)が質問しました。


<このままでは忘れられてしまう>

――まず、どうしてブログを始めたんですか?
 『四畳半神話大系』の単行本を出したあと、しばらく本が出ない期間があったんです。『夜は短し歩けよ乙女』『有頂天家族』『新釈 走れメロス』など、連載している作品はいくつかありましたが、彼らが書籍として世に出るのはずいぶん先の話だったんです。そのときに、とある編集者の方に「森見さん、このままじゃ世間に忘れられてしまいますよ」と言われたんです。その人にブログを勧められたのが、そもそものきっかけですね。ただ、抵抗はありました。

――「抵抗」と言うのは?
お金をもらって文章を書いている“小説家”が、仕事でもないのに文章を書くことですね。僕、小説家はある程度読者と距離をとるもの、というイメージを強く持っていて。ブログというものに自分が垂れ流しになって、読者との距離が近くなりすぎることに抵抗があったんです。

――なるほど
 でも、それは三人称による“森見登美彦の観察日記”という体裁にすることで、解決しました。あと、僕、平気で数ヶ月放置したりして、気張らずに書いてますしね(笑)


<僕はブログを書いていない>

――どうしてはてなダイアリーだったんですか?
 作家の平山瑞穂さんが以前、はてなでブログを書いていたのがきっかけですね。平山さんは僕と同じ「日本ファンタジーノベル大賞」の受賞者で、そのつながりではてなダイアリーのことを知りました。ブログを始める上でまず考えたのは、僕がコントロールできるのは自分の文章だけなので、「デザインがカッコいい!」とかではなく、テキストをありのままに見てもらいたいということでした。はてなダイアリーはデザインがすごくシンプルだったのが嬉しかったですね。単に、他のサービスを知らなかったというのもありますが…。

――(笑)。実際にブログを始めて、どう感じましたか?
 最初に心配していた距離感は、近いようで遠いんだなと感じました。ただ、本来ブログって何かの文章を引用したり、世の中の出来事を取り上げたりして、自分の意見をぶつけてそれが第三者へと膨らみ、誰かとつながっていくツールだと思うんです。でも僕はそうしていないし、そうできない。だから、本来の意味で僕は“ブログ”を書いていないんですよね。


■新作『ペンギン・ハイウェイ』について

5月30日(日)に京都も学生も登場しない新作『ペンギン・ハイウェイ』をリリースする森見さん。今回の作品について、お話をお伺いしました。

――今回の作品を一言でまとめると?
 京都が舞台でもなく、学生が主人公でもない。自分のウリが全部なくなった作品です。

――新境地ということでしょうか
 新境地…のはず…ですね。

――連載作が単行本化されるんですよね?
 そうです。『野性時代』という雑誌で1年半前まで連載をした作品を、加筆・修正しました。僕の10番目の子供です。ようやく2ケタですね。

――加筆や修正は、かなり大幅に?
 はい。僕、書きながらストーリーや展開を考えるので、連載が苦手なんですよ…。今回も、自分が思った形に近づけられなかったので、出版社の方に書籍化を待っていただいたんです。で、つい最近まであれこれ直しを入れて、「とりあえずはまあOKでしょう、よく頑張ったでしょう」というところまで持って行って、無事本が出版されることになりました。

――1年半前に連載終了ということは、かなり長い時間をかけられたんですね
 いえ、どうしようか悩んでいたり、他の仕事があったりで、ずーっと書いていたわけではないんです。去年の秋ごろに、ようやく修正と加筆の方針が決まって、そこからですね。京都も出ない、学生も出ないという今までの作品と違うスタイルなので、勢いだけで書くことができず、慎重に筆を進めました。正直言うと、今でも面白いのかどうかすごく不安なんです。


――学生も京都も選ばなかったのはどうしてですか?
 もともと、郊外を舞台にして書きたかったんです。大学時代、“くされ大学生もの”の前に書いた二つの長編小説は、どちらも郊外を舞台にしていて、両方とも失敗してしまったんです。それから「なんで失敗したのかな?」というのをずっと考えていて、結局わかったのが郊外=がらんとした場所に、思春期の悩みのような薄暗いものを入れるから、後味が悪い変な小説になってしまったんだな、ということでした。それから「郊外という場所を健康的に書けないかな」と考えつつ他の小説をいくつか書いているうちに、「今度はうまいこと行くんじゃないのかな」と思えるようになりました。

――タイミング的に「今、郊外だな」というのはあったんですか?
 『野性時代』で森見登美彦特集があった時に「何か書いてください」と言われた時ですね。特集のために単発の読み切りを1話を書いてみて、良ければ連載、ダメそうだったらそのまま終わってしまおうと企んでいました。で、いざ書いてみると、そのままの路線でいけば書けそうな気がして、そのまま連載になって。ただ、せっかく『四畳半神話大系』がアニメ化になって、新しい読者が僕のことを“くされ大学生ものの森見登美彦”として認識し始めている時に、全然違う毛色のものが出るのは「いいのかな?」という感じですね。

――“くされ大学生もの”って実体験に基づいて書かれていると思うんですが、時間が経つにつれて書きづらくなるのでは?
 そうですね。大学入学したのが12年前なので、もう書けないと言いつつ、無理やり書いてます。だからと言って、僕の作品が京都の話や学生の話ばっかりになると、ちょっと厳しい。読者にとって『ペンギン・ハイウェイ』が、「全然ダメ」「おもしろくない」となってしまうと、新境地を開く道が険しくなるので、そういう意味でも緊張しますね。

――次のステージに行くための1冊ということですね
 はい。できるだけ面白くなるように努力はしたんですけど、過去に失敗した“郊外を舞台にする”ことに思い入れが強くて、僕の目が冷静になってないんじゃないかな、と。……いや、面白いはずです!たくさんの人に、面白いと思ってもらいたい作品ですね。

――最後に読者の方にメッセージを
 うーん…。この作品に新境地が開拓できるかがかかっているので、ぜひとも応援を宜しくお願いします。


森見さんの最新作、『ペンギン・ハイウェイ』は5月30日(日)発売です。“新たな森見ワールド”を体感してみてください。

『ペンギン・ハイウェイ』(角川書店)

ペンギン・ハイウェイ

ペンギン・ハイウェイ

  • 作者:森見 登美彦
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/05/29
  • メディア: 単行本
『ペンギン・ハイウェイ』は、わかりやすくいえば、郊外住宅地を舞台にして未知との遭遇を描こうとした小説です。スタニスワフ・レム『ソラリス』がたいへん好きなので、あの小説が美しく構築していたように、人間が理解できる領域と、人間に理解できない領域の境界線を描いてみようと思いました。郊外に生きる少年が全力を尽くして世界の果てに到達しようとする物語です。自分が幼かった頃に考えていた根源的な疑問や、欲望や夢を一つ残らず詰め込みました。(森見登美彦)


森見さん、ご来社ありがとうございました!



文: タニグチナオミ

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