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「ジョゼ」の渡辺あやさん脚本 京都が舞台の映画「カントリーガール」


■ 京都が舞台!映画「カントリーガール」とは

京都の高校生ハヤシは、自分の街の伝統に全く興味がない。
そればかりか同じ高校に通う仲間たちと、外国人観光客から金を騙しとる毎日を送っているのだった。そんなある日、伝統の世界に生きる見習い舞妓にハヤシが恋に落ちたのをきっかけに、全てが少しずつうまくいかなくなってゆく。
――「カントリーガール」あらすじより

渡辺さんと小林さんが知り合ったのは、2007年に小林さんが短編映画「少年と町」でグランプリを受賞した「第10回京都国際学生映画祭」です。渡辺さんは最終審査員を担当しており、小林さんの作品の世界観にほれ込んでしまったそうです。この出会いをきっかけに作られた「カントリーガール」は、2010年7月に、ニューヨークで行われた映画祭「NewFilmmakers」にも出品されています。

小林さんはもともと自主映画の世界で活動。「カントリーガール」でも演技経験のない俳優を起用したり、すべてのセリフに英語で字幕が入っていたりと、既成概念にとらわれない作品に仕上がっています。撮影はすべて、小林さんの出身地でもある京都で行われています。音楽は向井秀徳さんがプロデュースするバンド「SuiseiNoboAz」が担当し、躍動感のあるメロディーで、作品の魅力を増幅させています。


http://www.youtube.com/watch?v=3m5RUS1_Z0Y

■ 大盛況!立ち見も出た先行上映

2010年11月に京都市下京区の映画館「京都シネマ」で行われた先行上映では、想定よりもはるかに多い観客が押し寄せ、通路も立ち見客で埋め尽くされていました。上映後は、渡辺さんと小林さんのトークショーが開催されました。
 
プログラムが終了したあと、お二人に作品の裏側や一緒に作品を作った感想などを伺いました。

■ 「監督に必要な才能や強運を持っている」――脚本家・渡辺あやが無名の新人監督にほれ込んだ理由とは?

<「カントリーガール」というタイトルが意味するもの>

――今回のストーリーは、何から生まれましたか?

小林 友達が英語で話しているときのテンションが日本語で話すときと全く違うということに興味を持ったのが最初です。普段ブスッとしている二人が、外国人の方が入ると英語ですごく楽しそうに話していて。英語を話すことが演技になる、そういう映画を撮りたいと思いました。

――ストーリーはすべて小林さんが考えたんですか?

小林 ストーリーというより、設定の断片のようなものを考えました。まず初めに“京都を舞台にして少ないスタッフで映画を撮る”と決めたとき、京都には外国人の観光客が多いので“外国人をだましてお金を貯めている人の話”が浮かびました。その段階では、主役が男子高校生ということも決まっていませんでした。「舞妓」というキーワードは渡辺さんのアイデアです。

渡辺 私が他の監督と組むときはテーマがあるんです。“恋愛”と“友情”とか、二人の関係はこう変わっていく、とか。でも今回は、“京都の街”という画に何が必要なのか、という視点からストーリーを組み立てました。

――「カントリーガール」という映画のタイトルは、どうやって決まったんですか? 

小林 「舞妓」を映画に出そうという話になったとき、僕には舞妓に関する知識も興味もゼロだったんです。唯一浮かんだのが、「田舎から出てきている女の子が多い」というイメージだった。京都の外の人から見ると舞妓はすごく象徴的だけど、中にいる人にとってはそうじゃない。同世代の舞妓のことを雲の上の人だとは思わず、田舎出身だということでちょっとだけ馬鹿にしている。そういう男子高校生の自意識を「カントリーガール」というタイトルで象徴できないかな、と思いました。あと、映画のことを考えているときに、友達がカラオケでプライマル・スクリームの「Country Girl」を歌っていて、"舞妓でカントリーガール"っていいな、と思ったのもきっかけの1つです。

<ほとんどの俳優が演技未経験>

「カントリーガール」の1シーン

――今回、主要キャストの俳優さんは全員演技経験がないんですよね。

小林 見習い舞妓の役の藤村聖子さん以外はそうです。主人公の男子高校生は、友達や友達の弟など、僕の身の回りにいる人たちです。

渡辺 藤村さんは「天然コケッコー」で漫画を描く女の子を演じてくれた関西出身の女優さんなんです。私が紹介しました。

――演技経験のない人を起用した理由はなんですか?

小林 主人公に起用した「ハヤシ」役と「チバ」役の子は、自分で脚本を書こうとしていた段階でイメージしていた二人なんです。渡辺さんに脚本をお願いする際に、二人のイメージを引きずって説明していたら、全然伝わらなくて。渡辺さんと二人を引き合わせたら、初めて脚本が動いたんです。

――作中では、不器用な「ハヤシ」が苦労して好きな女の子に近づいたのに、器用な「チバ」が難なく仲良くなってしまう描写がすごくリアルでした。

渡辺 ニューヨークでの上映で、アメリカの方が「日本の映画を見て、自分の青春時代を思い出すとは思わなかった」って言っていたそうなんです。気になる女の子といい感じで話していたのに、来てほしくないヤツに邪魔されたらしく。

――そういう経験って日本人だけじゃないんですね。

小林 ただ、自分たちだったら殴りあってるって言ってました (笑)。

――渡辺さんは、演技経験のない俳優さんが演じることに戸惑いはありましたか?

渡辺 素人の方と俳優さんとは、できることが微妙に違うんです。演技が“日常”ではない人が、セリフを与えられて発言するときの危うさや役に対してのアプローチに魅力があると思っています。もちろん、素人なら誰にでも生み出せるものではなく、やっぱり限られた人しかできないんです。今回、オーディションを実施している役もあるので、最終的には気持ちを引きつける力がある人たちが出ている。プロも素人も、どちらが良いということはないですよ。

――今回は、素人の方が合っていたと。

渡辺 そうです。逆に「小林君がプロの俳優を使って作品を撮ったらどうなるんだろう」と、気になっています。

<台本では書けない才能>

――上映後のトークショーで行われた質疑応答では、「感情表現がなさすぎでは」「映画なんだから感情表現はなくてもいいし、十分にあったと思う」という意見が観客の間で飛び交う場面もありました。上映を終えた感想を聞かせてください。

小林 シビアな意見を言ってくださる方が見に来てくれたのはうれしかったです。自分が「こういう人が見たら面白いかな」と想定した以外の人がたくさん来てくださって、この作品が自分の間口を開いてくれていると感じました。


渡辺 小林君は、最初はしどろもどろの危ういトークをしていたのに、最後に表現の描写について観客が議論になったとき、「僕にしか撮れない映画の方法だった」という一言で、きれいに締めくくったんです。それであのトークショーのすべてが小林君に集約されて、「そういう流れを作れるのはやっぱり監督の才能だな」と思いました。

小林 …僕、そんな事言いましたっけ…?

渡辺 え、忘れたの?

――(笑) 

渡辺 映画の現場は、たくさんの人がいたり天候に左右されたり、いろいろな要素が複雑に絡み合っているんですが、監督という存在はそれをまとめられる才能や強運を持っている人です。今日は、“魅せるために場を動かせる力”を持っている人なんだと再確認できて、嬉しかったです。ああいうのは台本じゃ書けないですしね。


映画「カントリーガール」は、京都シネマで3月19日(土)からスタートしました。今後の公開予定は以下の公式サイトをご覧ください。

映画『カントリーガール』公式サイト | トップページ
京都シネマ

文: タニグチナオミ

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