目標は100万DL ジャンプ編集部が本気で作る電子書籍アプリ「ジャンプLIVE」の狙い

特集「電子書籍マンガ/Webコミックの新潮流」

集英社は8月1日、新しいマンガ雑誌「ジャンプLIVE」をスマートフォンとタブレット端末向けのアプリとしてリリースしました。同社が新しいマンガ誌をアプリとして配信するのは初めて。『週刊少年ジャンプ』や『ジャンプSQ.』などで活躍するマンガ家の描き下ろし作品や、「DRAGON BALL」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」といった作品の復刻連載などを中心に、8月1日から31日まで、毎日新しいコンテンツが更新されます。アプリのダウンロードは無料。250円の有料パスを購入すると、すべてのコンテンツが閲覧できます(8月7日までは100円で提供)。対応OSはiOSとAndroid OSです。

「ジャンプLIVE」の構想が生まれたのは、2013年2月。「デジタルならではの雑誌」にこだわり、約6ヶ月の間に用意されたコンテンツは、マンガ、動画、小説、ミニゲームと多岐にわたります。「ジャンプLIVE」の担当者で、『週刊少年ジャンプ』の副編集長を務める細野修平さんに詳しいお話を伺いました。

「ジャンプLIVE」iPad版のトップ画面 (c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.

週刊少年ジャンプアプリ増刊 ジャンプLIVE | 集英社 週刊少年ジャンプアプリ増刊 ジャンプLIVE | 集英社

■ デジタルでできることを“実験”する

――まずは「ジャンプLIVE」について詳しく教えてください。

細野 「ジャンプLIVE」は“デジタル増刊”ですね。『週刊少年ジャンプ』では、『ジャンプNEXT!』や『ジャンプVS』などの増刊号を恒常的に出していて、それをデジタルで作ってみたらどうなるか“実験”しようと思い、発表しました。

――定期的に継続する予定は?

細野 読者の反応を見て判断しますが、おそらく不定期に発売することになるかと。反応がよければ、年内にもう一度リリースしたいと考えています。

――「250円」という価格は、どうやって決まりましたか?

細野 『週刊少年ジャンプ』は特大号で250円、紙のコミックスは420円、電子版のコミックスは350円が基本です。一般的に、雑誌はコミックスより安いイメージがあるので、250円だと読者に受け入れてもらえるんじゃないかなと。

――なるほど。

細野 以前、ジャンプのマンガが買える「ジャンプBOOKストア!」というアプリで、「電子書籍にいくらお金を払えるか」というアンケートをとったところ、「300円くらいまでだったら」という声が10代の読者に多くて。もちろん、少しでも安くという方もいらっしゃると思うので、8月7日(水)までは特別に100円で。100円だったら買ってくれるのではと。

どれくらいのユーザーが無料ダウンロードをしてくれるのか、そのうち何人がお金を払ってくれるのかを測る“実験”だとも思っています。

――値段からは予想できないほど、たくさんの作品が予定されています。

細野 新人作家の作品を10作掲載するほか、『週刊少年ジャンプ』連載作品の番外編があります。また『ジャンプSQ.』で「新テニスの王子様」を執筆されている許斐剛先生や、さまざまな雑誌で活躍されているCLAMP先生といったゲスト作家もいます。

例えば許斐先生は、以前発表した「COOL」の続編となる「LADY COOL」を掲載します。この作品は、読者に展開の選択肢を提示し、より多くの読者が選んだ方へストーリーが進む、“許斐メソッド”というマンガ界初の試みを採用しています。投票によってストーリーが変わるので、8月中にどれくらい更新されるかは我々もまだわかっていません。

――なぜ「COOL」だったんですか?

細野 許斐先生に執筆を依頼したとき、『テニスの王子様』の女性版か『COOL』の女性版、どっちがいいかと聞かれまして。最初は前者だったのですが、結局後者になりました。

? に入るセリフを読者が選べる (c)許斐剛/集英社

細野 他にも、たくさんの作品があって、描き下ろしだけで1,000ページ以上、再録などを含めたら2,000ページ以上あります。絵が動くマンガや、タッチすると変化するマンガなど、デジタルならではの演出を取り入れた作品もあります。作家と相談しながら、より面白いシステムが作れるといいなと思っています。

――なるほど。石田スイさんの「東京喰種トーキョーグール」は、特にデジタルならではの見せ方にこだわっているように見受けられます。

細野 石田先生は、Webコミック出身の作家なんです。『週刊ヤングジャンプ』編集部が声を掛けて、「東京喰種トーキョーグール」を描いてもらうことになって。「ジャンプLIVE」のことを伝えたら、「東京喰種トーキョーグール [JACK]」という番外編を描いてくださいました。1話目だけで80ページ以上になります。

――えっ、ヤングジャンプの原稿を執筆しながらですよね!?

細野 はい。ヤングジャンプの連載を1週も落とすことなく。もともと僕は、Webコミックにはずっと前から注目していて、描いてもらいたいと思う作家もいましたが、形にはならなくて。

 

コマの配置や空白を工夫した石田さんの原稿 (c)石田スイ/集英社

――ヤングジャンプのWebコミック媒体「となりのヤングジャンプ」では、ONEさんの「ワンパンマン」を連載していますよね。

細野 「ワンパンマン」はもともと、作画を担当されている村田雄介先生が、Twitterを通じてONE先生と仲良くなったのをきっかけに「となりのヤングジャンプ」に掲載することになったそうです。「ジャンプLIVE」でも、「ワンパンマン」の番外編を掲載します。

――「ジャンプLIVE」のリリースが続けば、各作品の単行本化も?

細野 もちろん、考えています。電子書籍として発売するのか、紙で発売するのかはまだわからないですが。実際、8月だけの連載でコミックス1冊分ほど描いている作家もいます。例えば、天野明先生の「エルドライブ【ēlDLIVE】」は、フルカラーで170ページほどあります。

天野さんの「エルドライブ【ēlDLIVE】」は看板作品の1つ (c)天野明/集英社

――「ジャンプLIVE」には動画もあるんですね。

細野 「JOJO's Kitchen 荒木飛呂彦 パスタを作る」ですね。「ジョジョの奇妙な冒険」の荒木飛呂彦先生にパスタを作ってもらい、「暗殺教室」の松井優征先生が食べてルポマンガ「松井優征 パスタを食べる」として発表します。

荒木さんは料理好きとして知られる。右は松井さん (c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.

――なぜパスタを作ることに……。

細野 せっかくデジタルでやるので、マンガ以外に何ができるか試そうかと。荒木先生にお話ししたら、「じゃあ俺パスタ作る。またはボーリングする」と言われまして。パスタかボーリングだったら、パスタかなあと。ほかにも小説やミニゲーム、投票企画、アニメ「黒子のバスケ」の声優さんの対談動画などがあります。

■ ジャンプの“アンケートシステム”は健在

――狙っている読者の年齢層が、いつもより高い気がします。

細野 何らかの電子デバイスを持っていないと読めない雑誌なので、中高生以上が対象だと考えています。「ジャンプBOOKストア!」のアンケートでは、iPod touchを持っている中高生が多かったんです。なので、中高生はiPod touchで、大学生以上はスマートフォンなどで読んでもらえたらと思います。どんな年齢層がどれくらい買ってくれるのかも“実験”ですね。

8月下旬に「ジャンプLIVE」全体に関するアンケートを行う予定です。どんな内容になるかはまだ未定ですが。あと、新人作家の作品に関するアンケートもあります。

――やっぱりアンケートやるんですか!?

細野 アンケートはやります! 新人作家のマンガ10作品の中から、どれが一番面白かったか決めてもらい、1位を獲得したら『週刊少年ジャンプ』に掲載する「新人マンガ・バトル」という企画をやります。各作品に、読者の反応がわかる「いいジャン!」ボタンや、Twitterと連携したコメント投稿欄も設置していますし、ジャンプっぽいアンケートシステムは、デジタルでも健在です。

各作品の詳細ページで読者の反応がわかる

――「ジャンプLIVE」は、新人を育てる場所ということでしょうか。

細野 はい。「ジャンプLIVE」は今はまだ“実験”ですが、本気でやって、新人をきちんと育てたい。自社も含めて、今まで出版社が電子書籍の分野でやってきたことって、“実験”だけで終わることが多かった。ちょっと失礼ですが「本気じゃないんじゃないの」と。ジャンプといえば新人作家なので、きちんと発掘と育成をすることが、ジャンプの本気の示し方だと考えています。

本誌掲載を懸けた“本気のバトル” (c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.

■ ジャンプ本誌の電子書籍化は?

――7月に『週刊少年ジャンプ』の33号を電子書籍化しましたが、今後も継続して電子化する予定はありますか?

細野 現状、予定としてはないです。33号はちょうど45周年の節目の号ということもあり、デジタル化がどれくらいでできるか試したくて製作しました。電子書籍版はとてもよく売れて、かつ紙の雑誌の販売部数には影響がありませんでした。

――既存の読者ではなく、新規の読者が動いた?

細野 はい。我々は、デジタルの分野に新しいお客さんがいるんじゃないかと考えています。今ジャンプを買っていない人の中にも、買いたい人は必ずいるはずなので、電子書籍化しても面白いかなと。市場の状況に合わせてやっていく感じですが。

33号の電子書籍版はKindleストアなどで300円で配信された  (c)SHUEISHA Inc. All rights reserved.

――コミックスの電子書籍化も積極的にされています。

細野 2012年10月から本格的にはじめました。他社がすごくやっていたので、うちも負けずにどんどんやんなきゃって。

――矢吹健太朗さんの「To LOVEる -とらぶる-」(脚本は長谷見沙貴さん)、電子書籍版売れていそうですね。

細野 売れてますね。

――「ジャンプLIVE」にも番外編が掲載されるようですが、その……審査とか……。

細野 「ジャンプLIVE」の掲載作品は大丈夫です。すごく健全な内容です。……あ、あえて大丈夫じゃないですって言ったほうがいいのかな……。

――(笑)

■ 「ジャンプLIVE」の目標は100万ダウンロード

――マンガ雑誌の中で最も販売部数が多いといわれている『週刊少年ジャンプ』が、あえてWebコミックや電子書籍の分野に挑戦する理由は?

細野 大きなきっかけは「ジャンプBOOKストア!」でした。『週刊少年ジャンプ』を読んでくれている読者が、「ジャンプBOOKストア!」でもマンガを買ってくれて、ジャンプ読者にも電子書籍に興味ある人がいると気付きました。デジタルに置き換えるというより、デジタルに新しい場所があるのなら、“実験”してみてもいいんじゃないかなって。

――1人の編集者として、今後の出版業界はどうなると思いますか?

細野 今まで、デジタル化や電子書籍化は大変なものかのようにいわれてきました。でもこれからは、淡々とやっていくんだろうなと。この1年、爆発的に電子書籍が増えたので、さらにドカンと爆発することはないと思います。

紙が電子に置き換わるということも、しばらくはないと実感しています。日本は書店がたくさんあって、コンビニでもマンガが買えて、値段もそんなに高くないですし。もし変化が起こるとすれば、デジタルネイティブで100万部の作品が作られたときでしょうか。

『週刊少年ジャンプ』の編集は、新人作家に100万部以上の作品を作ってもらうことを狙っています。なので、「ジャンプLIVE」でも100万ダウンロードの雑誌を作っていきたいですね。

―― なるほど。ありがとうございました!

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