読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

豪華絢爛、あでやかな京都・細見美術館の「春画展」へ行く 北斎や歌麿の有名作品も



イギリス・大英博物館で、春画をテーマにした大規模な展覧会「春画 日本美術の性とたのしみ」が開催されてから約2年。日本初の「春画展」が、東京・永青文庫と京都・細見美術館でついに実現しました。

会場となる美術館探しについて、春画展日本開催実行委員会の代表を務める淺木正勝さんは「かなりいい線まではいくものの、最終的にはだめになってしまった」と説明。20館以上から断られ、開催までに2年以上かかったと明かします。そんな中、永青文庫からの「狭くてアクセスが悪い所でもよければ」という言葉で、念願の東京開催が決定。2015年9月から12月までの約3ヶ月間で、計21万人が来場しました。

「作品については、大英博物館で展示された以上のものを集める自信がありました」と語る淺木さん。「日本で生まれた春画が海外では展示されているのに、なぜ日本ではできないのか。そこに風穴を開けたいという思いで本展を企画しました。永青文庫では日に日に来場者が増え、春画の素晴らしさを十分に理解していただけたと実感しています。春画そのものの展覧会が日本で初めて実現できたことは、春画における“元旦”を迎えられたようなもの」と喜びを表しました。

東京だけでなく京都でも開催したい、というのは、企画段階からの強い希望だったそう。「京の都で春画が展示されたときに、京都の方たちからどのような反響があるかは大変勉強になると思っている。京都でも大勢の方に見に来ていただきたい」と呼び掛けました。

細見美術館では、京都ならではの春画を堪能できる特別コーナーを設置。ここでしか見られない13点の作品を用意したことで、新たな春画の世界が楽しめるようになっています。展示作品数は、東京会場とほぼ変わらない134点。展示構成は「肉筆名品」「版画の傑作」「豆版の世界」の3つです。

■ 春画はここから始まった 「肉筆名品」の数々

肉筆とは、版画のような印刷技術ではなく、人の手によって線と色が描き出された書画のこと。春画の始まりは肉筆の作品とされています。古くは鎌倉時代に制作された作品も。第1室「肉筆名品」では、浮世絵師の春画だけでなく、徳川将軍や大名家の絵画制作を担った狩野派の作品も紹介しています。

蹄斎北馬「相愛の図屏風」
平戸千里ヶ浜温泉 ホテル蘭風蔵【前期展示】(京都展限定展示)

京都会場限定として前期展示されている蹄斎北馬の「相愛の図屏風」は、縦139.2cm×横169.4cmの肉筆春画。江戸時代に制作された春画の中でも最大級の大きさです。屏風(びょうぶ)仕立ての春画は珍しく、二曲一隻の全面に人物が描かれています。北馬の春画はこれまでに数点しか報告されていないことから、肉筆春画史においても重要な作品といえるそうです。

林守篤「画筌」
亨保6年(1721年)刊行

江戸幕府の御用絵師を代々務めた狩野派の絵手本で、全6巻からなる「画筌」。第5巻「和人物」の最後に「好色春画之法」という項目があり、男女の性器の着色法や春画を必ず12図で構成する由来など、春画の描き方が記されています。江戸時代を通じて、春画は武家の間で子孫繁栄、嫁入り道具、武運長久を願う家宝として享受され続けていたそうです。

今回の春画展では、肉筆と版画の両方が見られます。「肉筆と版画、どちらにも魅力がある。非常に良いものを厳選したので、春画の精髄を見てもらいたい」と語るのは、春画展日本開催実行委員会の委員を務める浦上満さん。「永青文庫と細見美術館で春画展を開催できるというのは、ようやく日本でも春画が市民権を得たのだと思っています。この展覧会を通じて、日本が世界に誇るべき素晴らしいアートを発見していただきたい」ともコメントしました。

展示室には作品の拡大パネルも

男女の交合場面を12図にわたって描いた月岡雪鼎の「春宵秘戯図巻」。画面いっぱいに人物が大きく描かれており、雪鼎の筆力が伸びやかに発揮されています。同作で描かれている女性のほとんどは、お歯黒をした人妻。大きめの顔に三日月形の目、筋の通った鼻など、表情に特徴があります。

人物だけでなく、その背景も春画で注目したいポイント。行為をのぞく怪しい男の姿、男女の足元でくつろぐ猫の姿などを見ていると、物語性や時間の流れを感じます。

「地獄草紙絵巻」(絵師不詳)や勝川春英の「春画幽霊図」のように、設定に工夫を凝らした作品もあります。「地獄草紙絵巻」で描かれているのは、仲の良い夫婦が閻魔(えんま)大王の前で裁きを受け、淫乱の罪で罰せられて六道の各界を巡り、最後は阿弥陀の来迎によって極楽浄土に成仏するという物語。ここでの六道は「色道」に見立てられており、各図には性的な戯歌(ざれうた)が書き込まれています。「春画幽霊図」は、男の幽霊と女の幽霊の振る舞いを取り合わせた二幅対の春画。この世とあの世の境を越えた、性への衝動や執着が描かれています。

■ 著名な浮世絵師も手掛けた「版画の傑作」

印刷技術が盛んではなかった時代には上層階級の人々だけが享受してきたと思われる春画ですが、江戸時代に入ると、浮世絵版画とともに普及し始めました。このころの春画は非合法の出版物だったそうです。第2室「版画の傑作」では、菱川師宣、鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、葛飾北斎ら著名な浮世絵師が手掛けた版画・版本を展示。医学書や世界図をパロディー化したユニークな春画も登場するなど、自由奔放で創作意欲と才能にあふれた作品の数々を楽しむことができます。

菱川師宣「枕絵組物」
延宝年間(1673~1681年)後期【場面替】

格狭間模様枠の12枚組で構成された「枕絵組物」は、絵だけでなく見た目からも甘い雰囲気が漂っています。性交のない「すねた女(戯れへのいざない)」「よりそう男女」の2図は、春画としてでなく師宣の美人画として紹介されることも。屏風や襖(ふすま)、畳の縁を巧みに用いた華やかで奥行きのある空間が、二人の行為を引き立てています。

左:西川祐信「夫婦双乃岡」
正徳4年(1714年)国際日本文化研究センター
右:鳥居清長「袖の巻」
天明5年(1785年)ごろ 12枚組物のうち 国際日本文化研究センター

小野小町、和泉式部、紫式部、清少納言など、「百人一首」でも知られる平安期の有名女性歌人12人を主人公とした艶話からなる「夫婦双乃岡」。この女性たちが繰り広げる交合シーンが見どころとして取り上げられています。

春画史を飾る名作の一つとして挙げられている、鳥居清長の「袖の巻」。横長の画面に男女の交合図を描いた11図、円相の中に三相の局部拡大図を描いた1図、序文で構成されています。画面からはみ出すほどダイナミックに描かれた人物は、余韻にゆったり浸る男女、手習い中の少年少女、腹帯を締めた妊婦などさまざま。その表情にも、愉悦や困惑、安息など、多種多様な感情が漂っています。

展示されているそれぞれの作品には、一つずつ説明が添えられています。作品のサイズが想像と違った、ということもあるかもしれません。浦上さんは「美術品というものは、やはり本物を見なくてはいけない。印刷物ではなく、本物の持つ迫力やオーラを直に感じていただいて、初めて良さが伝わるんです」と語ります。同展では、そんな浦上さんが所蔵している、かの有名な葛飾北斎の春画「喜能会之故真通」も展示。タコが海女を襲っている絵、と聞くと、ぴんとくる人もいるのではないでしょうか。

葛飾北斎「喜能会之故真通」
文化11年(1814年)浦上満氏蔵【前期展示】

「喜能会之故真通」の特徴として挙げられるのは、画面の余白を埋め尽くすほど書かれた文字。男女の愉悦の声や音などを執拗なまでに書いているというこれらの文字は、北斎自身が手掛けたという指摘もあるそうです。その7年後に当たる文政4年(1821年)に制作された「万福和合神」は、上中下の3冊にわたって展開する長編物語の春本。金持ちの家に生まれたおさねと、貧しい家に生まれたおつびという2人の女性主人公の性の遍歴を交互に描写しており、少女から大人になるまでの波乱に満ちた人生ドラマが対比的な構造になっています。春本への情熱が燃え尽きてしまったのか、同作以降、北斎の春本は確認されていないそうです。

歴代の浮世絵師の中で最も多くの春画を手掛けてきた渓斎英泉。「あぶな絵 炬燵」(文政年間・1818~1830年)では、炬燵(こたつ)の中で足を交差させる男女の様子から、2人の親密さがうかがえます。「あぶな絵 若衆と髪結う女」(文政年間・1818~1830年)で描かれているのは、鏡の前で髪を結う女性と、本を読み飽きて女性にちょっかいを出す若衆の姿。くしをくわえ、若衆に対して何か言いた気なそぶりを見せている女性の視線がなまめかしく感じられます。このように男女の交合だけでなく、恋人同士のじゃれあいを表すような物語性のある作品も春画の見どころの一つです。

喜多川歌麿「歌まくら」
天明8年(1788年)浦上満氏蔵【前期展示】

喜多川歌麿の枕絵を代表する画帖である「歌まくら」。身体の一部がはみ出すほどクローズアップされた構図に加え、抑揚のある太い描線や肌色を意識した細い色線など、多様な描線が組み合わさっています。口づけを交わす二人の男女を描いた絵は、はだけた着物や表情の隠れ方からも艶やかな雰囲気を感じます。

展示作品の中には、これまでの春画・春本の概念を打ち崩すような作品も。初代・歌川豊国の春本には、死や病といった、それまでの春画・春本にはほとんど見られなかった人間の一側面を描いた図がしばしば登場します。「絵本 開中鏡」(文政6年・1823年)にも、血しぶきが飛ぶ凄惨(せいさん)な心中現場の様子、骸骨と交わる男性の姿などが。美しさとかけ離れたグロテスクな描写は、当時の読者にとっても衝撃的なものだったかもしれません。「御覧男女姿」(寛政元年・1789年)は、奇抜な場面が多い勝川春英による唯一の春画。漁夫がエイと、キツネが女性と交わる姿もあり、倒錯する性を描いています。

■ 手の中に凝縮された「豆版の世界」

品格や値段という視点で見た春画の頂点が肉筆春画なら、その対極にあるのが「豆版春画」かもしれません。大きさは縦約9cm×横約13cm。8枚・12枚など組物として売られたものが多く、値段も手頃なものだったそうです。文政期(1818~1830年)ごろから盛んに作られたという豆版春画は、携帯して持ち歩くのにも適したことから、新年には登城した大名たちがその年の暦を記した豆版春画を交換し合ったとか。この伝統は近代に入ってからも長らく続き、日清・日露戦争の際には、戦地に赴く兵士に持たせることもあったそうです。

同展で展示されている豆版春画は、いずれも初公開のもの。それぞれの絵師が凝らした趣向が、小さな判型の中に凝縮されています。

男女を一組ずつ配した「豆判 欠題春画」(江戸時代)は、現代にも通じそうなチェック柄の背景が目を引きます。水色と白色、薄紅色と白色と灰色、濃淡のねずみ色と白色といった粋な色使いにも注目です。

「豆版絵暦 戯画の春画」(江戸時代)は、滑稽(こっけい)さを前面に出した“笑える”春画絵暦だそう。福禄寿が弁財天に迫る様子も描かれており、信仰の対象であるはずの七福神までも、春画の世界ではパロディーの題材になるということが分かります。

■ 京都を舞台にした特設コーナー「京都と春画」

細見美術館では、京都ならではのテーマ「京都と春画」として、京都の大きな寺院などを舞台にした春画作品を用意。「性を真正面から捉えようとした春画という日本文化を育んできたのは、古くは平安時代、京都なのではないか、というのを提示したい」と、国際日本文化研究センターの名誉教授である早川聞多さんは説明します。

谷文晁模写「小柴垣草紙 模本」【場面替】(京都展限定展示)

「小柴垣草紙」(別名:野々宮草紙)は、日本最古の古春画とされている作品。谷文晁の模本では、各場面が絹本に精巧な筆致と濃厚な彩色で描かれているほか、各絵図の間には秋の草花や蝶々を金銀泥(きんぎんでい)で手書きした優雅な料紙が使われています。

西川祐尹「春画帖」【場面替】(京都展限定展示)

西川祐尹は、江戸錦絵に大きな影響を与えたとされる京都の絵師・西川祐信の長男。女性のふっくらとした顔つきや男性の厚い唇などは、父の筆使いを受け継いでいるそうです。描かれているいずれの人物も、うっすらと頬を赤らめているのが特徴。肉筆春画ならではの紅差しの表現技巧を堪能できます。

■ 最後は、春画の魅力により深く迫る特設ショップへ

展示をじっくり楽しんだ後は、春画の魅力をさらに知ることができるグッズを手に取ってみましょう。用意されているすべての商品は春画展特設ショップでのみ購入でき、通信販売は行われていません。「図録」は4,000円(税込)で販売。永青文庫で出品された作品のみの掲載ですが、一つ一つの作品を大きく紹介しているだけでなく、専門家による丁寧な解説、絵師の説明なども収録されており、読み応えも見応えも十分な1冊といえます。こだわりの包装にも注目です。

男女の愛だけでなく、さまざまな性や愛の形をあらためて知ることができる同展。色使いを楽しむも良し、巧みなパロディーにクスッと笑うも良し。「恋三味線」「ねがひの糸口」「花の色香」などの美しいタイトルから、絵に込められた物語を想像してみるのもいいかもしれません。さまざまな春画の楽しみ方が、この「春画展」で見つかりそうです。

■ 鑑賞券を3組6名様にプレゼント

※募集は終了しました。ご応募、ありがとうございました。

細見美術館で開催されている「春画展」の鑑賞券を、抽選で3組6名様にプレゼントします。応募方法は、この記事をTwitter連携ではてなブックマークに追加し「プレゼント欲しい」とコメントするだけ(文のどこかにあればOK) 。詳しくは、下記の応募要項をご覧ください。(※応募は18歳以上の方に限らせていただきます)

応募要項

  • 応募期間
    • 2016年2月25日(木)から2016年3月10日(木)24時まで
    • ※期間を延長しました
  • 賞品と当選人数
    • 「春画展」の鑑賞券を3組6名様
  • 応募方法
    • 「プレゼント欲しい」のコメント付きでこの記事をはてなブックマークに追加する
    • ※Twitter連携なしでも可
    • ※プライベートモードでご利用の方は対象となりません
  • 当選発表
    • はてなにて厳正な抽選を行います。当選発表は発送をもって代えさせていただきます
  • 賞品発送
    • 当選発表後、はてなよりメールをお送りし、送付先情報(送付先住所、受取人氏名、電話番号)をお聞きします
    • 発送は2016年3月14日(月)以降(後期期間中)の予定です
  • ※プレゼントの発送は日本国内に限らせていただきます
  • ※期日までに当選者様からのご返信がない場合は、再抽選の上、繰り上げ当選者様を決定いたします。その場合、発表は、はてなからの当選連絡をもって代えさせていただきます

■ 「春画展」京都会場概要

春画展

春画展 | 京都 細見美術館

  • 開催期間:2月6日(土)~4月10日(日)
    • 前期:2月6日(土)~3月6日(日)
    • 後期:3月8日(火)~4月10日(日)
  • 会場:細見美術館(京都市左京区)
  • 開館時間:午前10時~午後6時(入館は閉館の1時間前まで)
    • 3月18日(金)以降の金曜日・土曜日は午後8時まで開館
  • 休館日:毎週月曜日(3月21日は開館)
  • 入館料:1,500円

※18歳未満の方は入館できません。受付で年齢確認をされる場合があるので、身分証などを持参してください。


文: あおきめぐみ

関連エントリー