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ひきこもり勇者を救え! 『リアルRPG』体験レポート



京都国際マンガミュージアムについては、以前もはてなブックマークニュースで紹介したことがある。
芝生に寝転がってマンガを読める、「京都国際マンガミュージアム」に行ってきた
この京都市最大のビジネス街にでんと構えるミュージアムの奥に、勇者はひきこもっているという。ちょっと羨ましいぞ、勇者。それはともかく、京都の平和のために、何としても我々は勇者に「脱・ひきこもり作戦」を実行しなければならない。

まずは宿屋へレッツゴー



勇者に会うために、われ先にと受付へ向かう人々。ちなみに、我々以外にも先月27日・28日の2日間で総計約500人以上の人間が勇者を励ましに向かったそうである。

とは言え、いきなり励ましに行ってはダメらしく、まずは冒険者の受付に行かねばならない。そこで我々は冒険者の証として身体に印鑑を押されることに。

ちなみに、案の定と言うべきか、額に印鑑を押してもらっている人を見かけた。何だか小学校の休み時間に戻った気分である。

受付で手続きを済ませた後は、「旅人の宿屋」に向かうことに。ここが出発地点のようだ。

宿屋に着くと、まずはスタンプカードが4枚配られる。この4枚のカードのどれを選ぶかで、我々の職業が決定されるようである。職業は「戦士」「魔法使い」「盗賊」「漫画家」の4つ。取り敢えず筆者は、目の前にあった魔法使いのカードを選択した。ちなみに、このカードには各モンスターの特徴や、攻略のヒントが記されている。

その後、我々は簡単なガイダンスを受けた。宿屋でヒントが3回だけ貰えること、戦闘不能になったら宿屋に帰ってくれば回復できること、などなど。つまりは、閉館時間までは何度でも挑戦できるし、ヒントもそれなりに貰えるということのようである。

まずは最初の謎解きから


4枚のスタンプカードに記された道順を見るに、ゴーレム、サラマンダー、ケルベロス、ドラゴンの順番で倒していけば勇者に会えるようになっているようだ。
ともかく、まずはゴーレムのところへ行かねばならない。戦士のカードを見ると、吹き抜けのスペースの絵があり、そこの柱の4本に番号が振られていた。おそらく庭の横にある吹き抜けの読書スペースのことであろう。とりあえず、まずはそこへ。

これは……! どうやら盗賊のシルエットらしい。

横にある柱を見ると、今度は戦士のシルエットが。
ここでカードに記載されたゴーレムのデータを見るに、どうやらゴーレムを倒すには、攻撃の順番を工夫する必要があるらしい。ふむふむ。と言うことは、この4つの柱に貼られたシルエットの番号が、攻撃の順番を表していると考えるのが自然だろう。
そんな仮説を胸に、第一の扉の奥に潜むゴーレムの所へ我々は向かったのであった。

ゴーレムは縦笛を持った女の子だった



階段を登ると、縦笛を持った小柄な女の子がいた。

「はい、私がゴーレムです。じゃあ、戦闘を始めちゃいますね!」
煉瓦みたいな身体をして大きく息を吸い込んだりする光景を想像していたので、ちょっと拍子抜けしていた我々に、ゴーレムはいきなり攻撃を仕掛けてきた。
「よーし、攻撃しちゃいますねー。えい! 」
ゴーレムは縦笛を振り回した。えっと、えっと、これは攻撃されたということなのだろうか……などと筆者が戸惑っていたら、いきなり自分の横にいたメンバーがウウッと声を上げて、うずくまった。おお、なるほど! こういうノリで楽しむイベントなわけね。
「次は皆さんのターンです。誰が攻撃しますか?」
順番から行けば、1番目は戦士である。彼は架空の剣で「エイヤッ」と大声を上げて、ゴーレムに一太刀を浴びせた。 ちなみに、ゴーレムの方はと言うと、「ああっ」と脱力感溢れるため息を漏らしただけ。何という温度差。でも、このヌルい雰囲気は、結構いいかもしれない。
ともかく、そんな調子で3人が順番に攻撃して、最後に漫画家が攻撃すると……
「ああ、もう!! 皆さん、容赦ない攻撃ですね。ゴーレムは倒されちゃいました~」
ゴーレムはお腹を押さえて、ハアハア息を切らしてみせた。とりあえず、よく分からないままに我々はゴーレムの退治に成功したようである。

ポーズを探せ!


さて、次はサラマンダーである。カードに書かれた説明を見ると、どうもサラマンダーを倒すためには、彼の前で何かのポーズを取って「氷の呪文」を発動させなければならないようだ。
そう言えば、第一の扉を出る前にスタンプを押してくれたお兄さんが、サラマンダーを倒すためには4つの場所で手がかりを集めて来なければいけないと言っていた。カードには各職業のシルエットとマンガミュージアム内にあるどこかの場所を示す絵が描かれている。その場所に、その職業の人間が取るべきポーズの指示があるということだろうか。

やっぱり。なぜ半身なのかはよく分からないが、とりあえず、これがポーズであるのは間違いない。

館内の人工芝の庭の奥にある石碑。これには戸惑った参加者が多かったようだ。ともかく、方々探し回って4つの手がかりが集まった。半身の謎は気になるものの、思い切って突っ込んでいってみることにしよう。

入ってみると、やけに元気の良い大声のお兄さんが。どうやら、彼がサラマンダーらしい。

「じゃあ、今から僕は魔法使いを攻撃します!!」
ところが、攻撃しようとするたびに、何故かサラマンダーはくしゃみをしてしまうのである。ここでシルエットにあったポーズを取ればいいのだろうか。そこで、我々はシルエットにあったポーズを半身だけ取ってみたのだが、サラマンダーはくしゃみを続けたままであった。
あれっ!? じゃあ全身でこのポーズを取ってみればいいのだろうか。だが、もう半身も同じポーズを取ってみても、やはりサラマンダーはくしゃみを続けているだけで、一向に「氷の呪文」が発動する気配はない。何故だ!

カードをよく見よう


「……ハイ。ズバッ、ビシッ。魔法使いは倒されてしまいました。サラマンダーを倒すには4人いないと無理なので、宿屋で回復してきて下さいね」
どうやら時間切れになってしまったようである。我々はとぼとぼと宿屋に帰るしかなかった。
宿屋で回復するとすぐに、我々はカードを眺めながら作戦会議を開いた。
「あれ、このカードの模様って、全員違うよね」
あれやこれやと考えあぐねていると、ふとメンバーの一人が声を上げた。
確かに、よく見ると、各々のカードに書かれた模様はひとり一人違っている。しかも、それはよく見ると、人間の半身のシルエットだ。なるほど、どうやらもう半身は、各々のカードに記されたシルエットのポーズを取ればいいのだろう。

かくして、我々は無事に「氷の呪文」を発動させ、サラマンダーを倒すことに成功した。しかし、何という恥ずかしいポーズなのだ。特に漫画家などは、顔を真っ赤にしてポーズを取っていた。

犬耳娘・ケルベロスの攻撃で、いきなり全滅


三番目のモンスターは、ケルベロス。
だが、困ったことにカードにはヒントが一つもないのである。ここはヒントが一つもないということ自体を、メッセージと捉えるべきなのだろうか。ならば、今回もこのまま突っ込んでしまおう。どうせ何回全滅したっていいのである。

細長い階段の踊り場には、犬の耳をつけた娘がいた。猫耳娘というのは聞いたことがあるが、犬耳娘というのは珍しい気がする。

「あの、皆さんを攻撃してもいいですか?」
いきなりの問いかけに「えっ、あ、はい」などと間抜けな声を出している我々に、犬耳娘は容赦なく攻撃を仕掛けてくる。
「ズバッ、ビシッ。は~い、皆さんは全滅しました。宿屋に行って回復してきて下さいね」
予想通りと言えば予想通りだったが、全滅するのはそれ自体ちょっと悔しいものである。

失われた唄を求めて



宿屋に戻ると、宿屋のお姉さんから「ケルベロスは倒せないので、このミュージアムに伝わる『失われた唄』を歌って眠らせて下さい」とのアドバイスが戴けた。

実は、このミュージアムは龍池小学校という小学校を改築して作られている。「失われた唄」と言えば、もちろんその小学校の校歌のことに違いない。
ちなみに、宿屋のお姉さんの助言は、ヒントの数に入っていなかったようである。要はこれ、強制戦闘で全滅することで先に進めるイベントだったわけだ。これは面白い! ……いや、でもやっぱりちょっと悔しいかな。



「あ~ん、もうケルベロスは寝ちゃいました~。この隙に皆さんは上の階に行けますよ~」
部屋に入るなり、ケルベロスの前で校歌を歌い始めると、間延びした甘い声を出しながら、ケルベロスは床に寝転がった。余談ながら、六月末ともなれば、京都市はすっかり真夏並の気候である。窓が無い上に細長い間取りのこの空間は、トンでもない温度になっている。扇風機があるとは言え、勇者を守るのも大変である。
階段の上に行くと、屋上へと通じるガラス扉に貼り紙があった。

そういえば、ゴーレムのいた階段の下に武器屋があったのだが、そこでこの言葉を言えばいいのだろうか。

扇風機に前髪をなびかせたケルベロス。我々は、心の中で「頑張ってください」とひたすらエールを送りつつ、サウナのような状態と化した真昼の階段を立ち去ったのであった。

ラスボスの前に


武器屋で「伝説の剣」のかたちをした紋章(スタンプ)と、「ヒッサツワザ」という名の漫画家専用の必殺技を戴いた我々は、遂にこのRPGのラスボスであるドラゴンに立ち向かうことになった。

さて、カードに記載された情報によると、ドラゴンは全員の力を合わせることでしか倒せないようである。
実は、モンスターを一匹倒すごとに、我々は一つずつ能力を手に入れている。戦士の「かばう」、魔法使いの、ドラゴンの時を止める呪文「ザ・ワールド」(!)、そして盗賊の、閉じられた鍵の番号をのぞき見るという謎の能力「ミルミル」。
おそらくだが、この三つを上手く組み合わせて、最後に漫画家が「ヒッサツワザ」を発動させてドラゴンを倒す、という寸法になっているではないかと思われる。ちなみに「ヒッサツワザ」とは、「伝説の羽根ペン」なる道具を持った状態で使うことにより、漫画家が自分の選んだマンガの必殺技の載っているページを相手に見せさえすれば、その技を繰り出すことが出来るようになるという代物らしい。
さて、漫画家はどんなマンガを選ぶのだろうか……ふと横を見ると、どういうわけか彼の表情は妙にウキウキしていた。

ラスボス登場



で、ドラゴンが登場。
「じゃあ、僕は魔法使いを攻撃しますね」
魔法使いは、体力が弱い。おそらく一発の攻撃で死んでしまう。それでは「ザ・ワールド」が使えない。と言うことは、つまり戦士が「かばう」のであろう。ドラゴンの攻撃を浴びて、戦士は戦闘不能状態に陥った。
次はこっちの攻撃ターンである。ここはもちろん魔法使いである自分が「ザ・ワールド」を唱えるのだろう。すると、瞬く間にドラゴンの動きは止まった。その隙に、ミルミルを唱えた盗賊が錠の鍵番号を盗み見て、宝箱を開けると……

伝説の羽根ペンを発見。なるほど、これで漫画家が「ヒッサツワザ」を出せばいいわけだ。
「『DEATH†NOTE』のライトの必殺技を使います」
おもむろに大学ノートを取り出す漫画家。
「氷の呪文のマンガ家のポーズを撮ったあと、写メを撮られて心臓マヒで死ぬ」

思えば「氷の呪文」のポーズはどれも恥ずかしかったが、その中でも特に恥ずかしかったのが、いま勝ち誇った顔でノートを広げている漫画家のポーズであった。
「えっ?」とドラゴンは一瞬戸惑っていたが、快くポーズを取った後に倒れてくれた。

写メで撮影された死に際のドラゴン。漫画家の完全勝利……でいいのかな。
ちなみに、後で聞いたところ、デスノートを使ったのは二組目だったらしい。ちょっと悔しいが、考えることはみな同じということだろうか。

ついに勇者と対面



こうして、我々は遂に勇者と対面することになった。ひきこもり勇者って、どんなのだろう。ドキドキ。

……なるほど、確かに引き籠もっている。そして、のっそりと起き上がると、眠そうな顔で勇者は我々に指示を出してきたのであった。

「僕がヤル気が出るような漫画を持ってきて下さい。そしたら、京都を守れるようになるかも」
勇者からそう言われたものの、具体的にどんな漫画を持っていけばいいのか、特にヒントはなかった。
何だろう、梶原一騎の『男の条件』でも持っていけばいいのだろうか。でも、『美味しんぼ』を山ほど積んでたし、料理マンガが好きなのかもしれない。元気の出る料理マンガと言えば、やっぱし……あの漫画かなあ。

感動(?)のフィナーレ

「これはどんなことをするマンガですか? 」
え、えーと……説明するんですか!?――我々はとても恥ずかしかった。

鉄鍋のジャン (1) (MF文庫)

鉄鍋のジャン (1) (MF文庫)

  • 作者:西条 真二
  • 出版社/メーカー: メディアファクトリー
  • 発売日: 2004/12
  • メディア: 文庫
元気の出る料理マンガと言えばこれだが、他人に説明して最も恥ずかしい料理マンガも、やっぱりこれである。恥ずかしすぎるので、どんな内容説明をしたかは書かないが、「元気が湧きました。これで京都を守ることが出来ます。ありがとうございました!」と勇者には感謝してもらえたようである。めでたし、めでたし。

感想


このイベントは、リアル脱出ゲームなどのイベントを手がけてきた株式会社SCRAPが主催したものである。

今回は、京都国際マンガミュージアムという、大人から子どもまで様々な年齢層が来る場であることを考慮してか、誰もが楽しめる謎解きを目指していたようだが、もっとヘビーな謎解きのイベントも手がけているようだ。
4つの職業の全員が活躍できるように上手く問題が配置されていたこと、京都国際マンガミュージアム全体を回れるように謎解きが設計されていたことなど、非常によく配慮が行き届いたイベントになっており、筆者の周囲の参加者たちも大いに満足していたようである。
ちなみに、今後も「くるり × SCRAP PROJECT「京都1000人の宝探し’09」」「ボードゲームとタイ料理の宴」「ぴゃーっと言葉つなぎBAR」といったイベントが控えているとのこと。刺激的なイベントを体験してみたいという方は、ぜひ参加されてみてはいかがだろうか。

文: 稲葉ほたて

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