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リアル脱出ゲームの作者に聞く 株式会社SCRAPインタビュー(前編)



ひきこもり勇者を救え! 『リアルRPG』体験レポート - はてなブックマークニュース
“脱出”の次は“リアルRPG” 京都で参加型イベント「ひきこもり勇者と4つの扉」が開催 - はてなブックマークニュース

「一周回って、またブームが来てるんかな」

―― まず、リアル脱出ゲームを始められた経緯について教えて戴ければと思います。
f:id:kiyohero:20090713113531j:image:w260:right加藤 SCRAPの会議で次の企画を練っていたときに、その中にいた一人の女子大生が、「わたし最近、リアル脱出ゲームにはまっているんです」と言いだしたんですね。それで、「あれ、脱出ゲームって最近来てるんや」と。
2004年にタカギズムさんの『クリムゾン・ルーム』が出て、ネットで話題になりましたよね。その時に自分も夢中でやっていたのだけれど、ずっと遠のいていたんです。彼女が話してくれたのは2006年だったので、「一周回って、またブームが来てるんかな」と思いましたね。
ただ、脱出ゲームを作る技術は僕らには無かった。でも、「ポエムイベント」みたいなイベントならばやっていたから、僕らに出来るところで、「部屋に色々と謎を作って、それを解いたら脱出できる」というイベントにしようと考えたんです。
―― と言うことは、実はWebで作りたかったのだけど難しかったから、リアルでやってみたという感じだったのでしょうか?
加藤 いや、そもそもWebの技術は無いですから、Webで作りたいという意識も特に無かったんです。でも、「脱出ゲーム」は面白かったし、好きだった。そして、それを自分たちなりに表現しようとなった時に、フリーペーパーとイベントしか僕らは持ってなかったから、誌面で宣伝して、空間を作ってイベントにした。自分たちの持っているリソースで出来ることをしたんです。

わざわざ新潟から来てくれた人もいた

―― リアル脱出ゲームの、ネットでの反応はとても良いものです。はてなブックマークでも非常に話題になりました。実際に主催者の側に届いている声は、どのようなものでしょうか?
加藤 「またやってください」かな。もうひたすら、「またやってください」みたいな(笑)。
―― それは、やっぱり全国からですか?
加藤 最初、京都の小さなギャラリーでやった時に、mixiにあった「脱出ゲームコミュニティ」に、「こんなイベントあります」と、ちょろっと書いたんですよ。そしたら、本当にもう、ばーーっと驚くほどの量のレスがついて。内容は、「東京でもやってください」「行きたいけど、京都は遠い」という感じでした。結局、フリーペーパーが配布されているのは京都だけだから、参加者のほとんどが京都の人ではあったのですが、わざわざ新潟から来てくれた人もいましたね。
―― 一発目から、遠いところから人が来るような大ヒットだったわけですね。
加藤 いや、これはもう俺、一発目から金脈掘ったな、と(笑)
―― (笑)

イベントに来る前に、文脈が出来てしまっている

―― 先日、京都国際マンガミュージアムのリアルRPGに参加したのですが、いきなり受付で手にハンコを押されて、冒険者の宿に連れて行かれて、という感じでパーッとすぐに中に入り込めて、ちょっと感激したんです。プレイ中も、館内では近所の女子高生やおじさんが漫画を読んでいるのに、ほとんど気になりませんでした。そういう、リアルのイベントで、その中にプレイヤーを引き込む仕掛けについてお聞かせ戴けますか?
加藤 特にリアルRPGがそうなんですが、イベントに来る前に、既にプレイヤー達の頭の中に文脈が出来てしまっているんですね。例えば、お金は円じゃなくてゴールド、手にハンコを押したらそれは紋章のことというのが、共通認識としてあるんです。
実は、今回のRPGのコンセプトは、「空間には手を加えない」ということだったんです。マンガミュージアムには手を加えないし、基本的には着ぐるみも着ない。もちろん予算的な問題もあったわけですが、素材に手を加えずに、そこにシステムだけを持ち込んで人を動かすというコンセプトがあった。

リアルRPGイベントで使用されたアドベンチャーシート
その時に、アドベンチャーシートをいかにもゲーム的なデザインにするとか、RPGのよく使われる言葉で「まず始まりの宿屋に行ってください」という言葉を言わせてみる。あるいは、別にベッドも無いんだけど、「いらっしゃいませ、ここが始まりの宿屋です」と強弁する(笑)。そこでプレイヤーが知らないものは無くて、そのまま中に入っていけるんですよ。特に、共通認識になっているワードが大きいですね。
―― 日本のサブカルチャーが蓄積してきた資産を、上手く利用しているんですね。確かに、そういう共通知識を通じて、僕らは主催者とコミュニケーションできてしまいますね。
加藤 まあ、サブカルというよりも、ドラクエに端を発するJRPG(編集部注:日本産RPGのこと)の知識ですけどね。
―― 確かに、ドラクエがここまで人口に普及しているというのは大きいでしょうね。
加藤 そう。だから、リアルRPGには、ユーザー候補生が500万人いるんですよ。
やっぱり、ルールを覚えて貰うまでに1時間かかるゲームは、誰もやらないんですよ。それがどんなに面白いゲームでも。出来たら2分か3分で分かって貰わなければいけない。だから、脱出ゲームは非常にシンプルなルールになっているし、そこで強いコンテキストの上にも乗っかかるというのも一つのコツになるんですね。
―― それに、マンガミュージアムという場所の特異性も大きかったと思います。あの非現実的な空間が、ゲームの世界に入り込むのを助けてくれた気がします。SCRAPさんのイベントを見ているとBAR探偵や廃校のような、非常に特殊な空間を選んでイベントをされていますね。「空間の持つ力」を借りている面もあるのではないでしょうか。
加藤 そうですね。でも、そこでラッキーなのは、僕らからガツガツ場所を探しに行かなくても、力を持っている空間から声をかけてもらうことが多いんですよ。
――マンガミュージアムの場合は、どうだったのでしょうか?
加藤 先方から最初のお話をいただきました。僕らが発信しているコンテンツの力を評価していただいたのだと思います。

リアル脱出ゲームでは、ミスリードはつくらない

―― もう少し、リアルの謎解きゲームの作り方について、お聞かせ戴ければと思います。謎解きをコンテンツにする難しさとして、参加者の振る舞いをいかに制御するかがあると思います。例えば、本格ミステリ小説ならば、文章で「ここはいかにも手がかりですよ」という書き方が出来るけど、リアルで謎解きをする時にはそれは出来ません。そこで参加者が迷い道にはまり込んだりはしないでしょうか?
加藤 リアル脱出ゲームをする上でのルールがあって、それは「ミスリードはしない」ということなんです。全然謎解きに関係ないんだけど、あえてここに手がかりっぽいものを置いておくというのはしないんです。
その理由は、そんなことをしなくてもナチュラルなミスリードが沢山出てきてしまうからなんです。何せ、空間ですから。実際、最初にやった時など、開催した店の人が「それ、どこから出してきたんですか?」って驚くようなものを、参加者が勝手に見つけ出してきてしまったんですね。
それで、手がかりを分かりやすくする方法を具体的に言うと、まず、答とヒントをなるべく近いものにするように心がけることですね。それから、もう一つはアイコンです。例えば、手がかり同士に三角をつけておくことで、つながりが見えてくる。複雑化したかったら、例えば三角と四角が連動してると言うことを示してみたりするのかな。参加して戴けると分かるんですが、僕らのイベントは、何の脈絡もなくつながっているものはないんですよ。必ずどこかでつながりが分かって、「あっ」となる瞬間が来る。

スタート時に、参加者ひとり一人がすることは想定している

―― 脱出ゲームのレポートやSCRAPさんのブログでは、ゲーム内でコミュニケーションをしていく内に役割分担が生まれて、プレイヤーの中にリーダーの役割をする人が出てきたり、協力が生まれて最後には一体感を感じて盛り上がっていくということが書かれていますね。そういう、複数プレイヤーのゲーム内での役割分担やコミュニケーションというのは、どの程度まで意図的に設計しているのでしょうか。
加藤 誰がリーダーになるかのような役割分担は、そもそも出来てしまうものですよ。例えば、複数の人数で飯を食いに行こうとなったときに、最終決定をする人は絶対に必要ですよね。ですから、そこでの意図はありません。
でも、スタートした時に、参加者ひとり一人がすることがあることは想定しています。30人の内5人は、ここで折り紙を折らなくちゃいけない、10人は探索をしなくちゃいけない、もう10人は本を読んでいなくちゃいけない、残りの5人は何となく全体を見渡していなくちゃいけない。そうでないと、効率的に最初の10分を過ごせないように、作ってあるんですね。
―― それは、最初の段階で「こういう動き方をしてね」と指示を出すわけではなくて……
加藤 いや、それはもう自由。
―― 完全に自由だけど、ゲームに参加した人たちは、そのように振る舞ってしまうということですか?
加藤 もちろん、必ずではないですよ。でも、多少の誤差はありますが、大体そうなりますね。

負荷と解放の気持ちよさ

―― もう少し、ゲームにおけるルールの設計について、考えをお聞かせ戴けると嬉しいです。
加藤 ゲームというのは、まず人間にストレスがかからないといけないんですね。例えば、脱出ゲームならまずは部屋に閉じ込められるし、RPGならまずは魔王に自分の村が滅ぼされたりするわけです。
そこで重要なのは、その最初のストレスのさじ加減なんですよ。ストレスが強すぎるとヤル気が起きないし、軽すぎると簡単になってしまう。そのジャストのストレスを与えるのが、ゲームの――特に空間ゲームのキモだと思うんです。

そして、そのストレスを与える時に必要なのが制約、つまりルールなんです。何をやっちゃいけなくて、何が起こっているのか。そのストレスを跳ね返すにはどうしたらいいか。そこでのルールの作り方が、一番大切なんです。
例えば、散歩とかテニスって、それだけで気持ちいいじゃないですか。それで、快楽が徐々に上がっていって、「ああ楽しかった」となって終わるでしょ。それに対して、ゲームは一旦快楽がマイナスになって、最後に一挙にグワーンと元に戻るだけなんです。部屋から脱出してもRPGでエンディングに辿り着いても、後からふり返ってみれば何も良いことが起きていない。
―― 秩序が回復するだけですね。
加藤 でも、この一挙にマイナスからゼロに戻る、この伸び幅の急激さが気持ちよくって、だから次も脱出ゲームで閉じ込められたくなるんですよ。その負荷と解放の気持ちよさを知っている人は、たとえ解けなくても必ずまたやってくるんです。そういう負荷と解放を生み出すルール、そしてタイミングが大事なんです。

エンターテイメントとしてのクリエイティブ

―― そう言えば、Recommuniのインタビューで、「世界は限りあるんだと認識して、自分なりのルールを作れば、その枠の中に無限の可能性を具体的に詰め込める」という話をされていました。
加藤 例えば、「うごメモはてな」なんて、僕はまさに傑作だと思うんです。あれは凄く制約だらけなのに、その制約の中に可能性が秘められている。ルールは滅茶苦茶に狭まっているのに、使い方は広い。
だから、ああいうツールが一番クリエイティブなことをしてるような感じを与えてくれると思うんですね。エンターテイメントとしてのクリエイティブを最も楽しめるツールだと思います。
―― あれは任天堂の開発者の方によると、『「メモ帳」を超えないようにする』というルールを決められていたそうです。メモ帳を超えてしまうと、大手のペイント系ソフトとの勝負になってしまうので。
加藤 なるほどね。
―― そういうクリエイティブの可能性を広げる制約について、何か考えがあったりしますか?
加藤 うーん。まあ、いつも制約のことばかり考えていますけどね。それは、どう抑圧するかということだけど。デメリットを与えたらちゃんとメリットも与えないといけないし、何かを解放するためにはリスクを与えないといけない……まあ難しいね。

「飾る」という発想は持たない

加藤 そうですね。ファミコン時代のゲームって、8ビットという制約があったじゃないですか。そこから生まれたものって、凄いと思うんです。『バルーンファイト』が出てきた時、そこに初めて「慣性の法則」がゲームに生まれたと思う。そして、それがマリオに活かされた時に、ダッシュしたら急には止まれなくなった。あの感覚はね、僕は本当に凄いと思うんですよ。そういう風に、限られた制約の中で、いかに現実空間のような慣性や重力を表現するかみたいな話は、常に考えていたいですね。
―― 「現実の模倣」というのが、わりとコンセプトとしてあるのでしょうか?
加藤 ある。だけど、全部取り入れちゃったらつまらないから、そこは取捨選択していきますけどね。それは、そもそも僕が編集者だからかもしれない。いっぱい集めてきたモノの中から、面白いものをピックアップして集めるという仕事をずっとしてきたからかもしれないね。
―― ちょっと面白いなと思うのは、「現実とは別の空間を作り上げたい」というわけではないんですよね。
加藤 そう。それに、「飾る」という発想は持たない。「いまインタビューを受けているこの空間でゲームを作れ」と言われても、装飾物は持ち込まない。
―― 確かに、今回のリアルRPGがそうでしたね。敵キャラも、ゴーレムなのに、全然ゴーレムの格好をしていない。でも、下手にゴーレムの格好をしようとしていないから、いいのかなとも思うんです。
加藤 まさにそう。「ゴーレムと言い張れ!」みたいな感じです。

リアルRPGイベントのボスキャラ『ゴーレム』
――庵野秀明監督が大学時代に、着ぐるみなどを使わずに、TVシリーズの音をそのまま使っただけで、ウルトラマンのパロディ映画を作ったという話を、島本和彦先生が描いていたのを思い出しました。
加藤 「戦いごっこをやってるんです」ってヤツね(笑)。『アオイホノオ』だよね。いや、でもあれは象徴的なシーンですよ。綺麗な話だと思います。

子どもの頃から、ずっと物語の中に入りたいと思っていた

―― ところで、先ほどから「空間」というキーワードが出ているのですが、その空間への拘りは、どこから来ているのですか?
加藤 まず音楽の経験が大きくて、CDよりライブが好きだったというのがあります。あと、子どもの頃から、ずっと物語の中に入りたいと思っていて、当時は少年探偵団なんかを作っていたんです。でもね、事件が起きないんですよ。だから、もう凄く平和を憎んでいた(笑)。それで、その後に、ゲームブックとかテレビゲームとかが出てきて、自分が主人公を操作して謎を解いていくことに熱狂したりもしたけど、それにも飽きてしまっていたんです。
でもね、ある年齢を過ぎたときに、「あ、俺いま『物語空間を作る材料』を全部手にしているんじゃないか」と思った瞬間があったんです。「既に自分はメディアを持ってるし、色々な空間も知っている。だから、物語の空間を作れる」と思ったんですね。
―― ブログ等で、平面と空間の話をされているのを見ていて、フィクションとリアルみたいなことを指しているのかと思っていたのですが、そういうわけではないんですね。
加藤 僕の中では、フィクションとリアルはつながっていてあまり境目がないんですよね。それは認識だけの問題だから。
―― それよりは、単に平面と空間という区別の方がしっくり来る?
加藤 要は、「物語比率」が5パーセントか90パーセントかという話ですよ。
―― 平面というのは、小説やゲームブックの紙面だとかゲーム画面を映したディスプレイのことですよね。傍観者として物語に関わるか、それとも自分が中に入って動けるかという区別かなとも思うのですが。実際の体験に拘っていらっしゃるのかな、とここまでお話を聞かせて戴いて思いました。
加藤 まあ、そうなのかなあ(考え込む)……そうかもしれないですね。



加藤氏が、リアルゲームを作る際の工夫やルールについて自分の言葉で語る姿には、物作りへの拘りが感じられた。
ところで、ここまでの加藤氏の話で筆者が印象的だったのは、「現実とは別の空間を作りたいというわけではないんですね?」という問いかけに、イエスと返してきたことである。
ゲームブックにもTVゲームにも物足りなさを感じていた加藤氏にとっては、私たちが今いる「この世界」で「この私」に何か面白いことが起きなければならないのかもしれない。そして、それはありふれた現実と虚構の二分法とは、全く違った認識の構えから生まれた発想であるように筆者には思えた。実際、彼は「僕の中では、フィクションとリアルはつながっていてあまり境目がない」と述べている。
本インタビューの後編では、加藤氏が経営している株式会社SCRAPの、リアルゲームイベント以外の活動についても話を伺った。


株式会社SCRAPインタビュー 後編はこちら

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