リクルートコミュニケーションズ×はてな座談会は、このはてなニュースで3回目の登場。優秀なエンジニアが挑戦できる風土を作り上げようとさまざまな取り組みを続けてきたリクルートコミュニケーションズでは、ここ1年で、エンジニアがより自由に新しい領域に挑戦する雰囲気がさらに盛り上がっている様子です。「量子アニーリングで共同研究」「ディープラーニングを使ったゲームAIとコードバトル」「開発合宿でドローン」――同社は何を目指してこのような取り組みを進めているのか? はてな サービス開発本部長 チーフエンジニアの大西(id:onishi)とアプリケーションエンジニアの山家(id:yanbe)が聞きました。構成はITジャーナリスト 星 暁雄です。記事の最後にはプレゼントのお知らせもあります!
座談会出席者(上写真、左より):はてな 大西康裕、山家雄介、リクルートコミュニケーションズ 棚橋耕太郎さん、上田和孝さん、阿部直之さん、大石壮吾さん
(※この記事は、株式会社リクルートコミュニケーションズ提供によるPR記事です)
■ 「ソフトウェアによる量子アニーリング」って何ですか?
――まず、はてな側から自己紹介をお願いします。
大西 1回目の座談会(2011年)から3回連続でお世話になっている大西です。はてなで今サービス開発本部長とチーフエンジニアをやっています。エンジニアの採用やキャリアパスを考える仕事もしています。
大石 壮吾さん
株式会社リクルートコミュニケーションズ ICTソリューション局アドテクノロジーサービス開発部 部長
山家 はてなでアドテクを中心に担当している山家(やんべ)と申します。アドベリフィケーションサービス「BrandSafe はてな」の立ち上げや、全社的な認証基盤など、いろいろとやっています。
――山家さんは座談会初登場ですね。リクルートコミュニケーションズ(以下、RCO)の皆さんお願いします。
阿部 もともとはアプリケーションエンジニアで、今はエンジニアを半分やりつつ、今年からマネージャーをやっています。座談会の出席は2回目です。
棚橋 新卒で入社しました。今は、アドテクでいうとDSP†1のデータを作ったり、バナーの最適化のクラスタリングアルゴリズムを作ったり。あとは早稲田大学との共同研究で機械学習のアルゴリズムを作っています。
阿部 早稲田大学と共同で、量子アニーリング†2
をソフトウェアで行う研究を始めました。彼にはそこに関わってもらっています。
▽ 量子アニーリングを用いたデータ分析で、マーケティング・コミュニケーションを最適化させる – 早稲田大学 (2015年11月25日付)
上田 はてなニュースの座談会の出席は3回目で、入社16年目になります。最近やっていることは、なにがなんだかよく分からなくなってきたのですが――「100億件のMySQLのDBは作れるのか」と考えながら、横でHTMLやCSSを書いたり、なぜかバナーを作ったりしています(笑)。
大石 前回の座談会から変わっていませんが、相変わらず部長をやってます。エンジニア組織を作ったり、「エンジニアの給料はどうやったら上がるか」について一生懸命考えたり、エンジニアが働きやすい環境を整えたりしています。リクルートグループ全体でのエンジニアの働き方、組織作りに対してアドバイスすることもあります。
※1回目、2回目の座談会の様子はこちらの記事を参照
Perlの自作フレームワークで作る、アジャイルなWebサービス
Webサービス開発で培った風土でアドテクを手がけ、秒間5万リクエストに挑む! リクルートコミュニケーションズ×はてな座談会
阿部 実は、山家さんとは学生時代に2~3回会ったことがあって。
山家 え、そうだったんですか?
阿部 山家さんと私がそれぞれ学生時代に所属していた研究室の指導教官が、2人とも東北大学の白鳥研究室出身。研究会の聴講や発表の場でご一緒していたんです。
山家 なるほど、そうでしたか! 近い分野の研究をしていたんですね。
阿部 直之さん
株式会社リクルートコミュニケーションズ ICTソリューション局アドテクノロジーサービス開発部アドテクノロジーグループ マネジャー/テクニカルリード
阿部 今は仙台にお住まいだと聞きました。
山家 はい。仙台で、東京・京都の拠点とつなぎながらリモートワークで働いています。
――奇遇ですね。ところで「ソフトウェアによる量子アニーリング」って一体なんですか?
棚橋 どこから説明すればいいのか――全部話そうとするとだいぶ長くなってしまうんです(笑)。量子アニーリングはカナダのD-Wave Systems社が作った量子コンピュータで使われている手法です。同社のコンピュータはNASAやGoogleが採用して話題になりました。従来の量子コンピュータは「素因数分解を実時間でできる」といった期待で盛り上がっていたのですが、量子アニーリングはそれとは違うアプローチで、量子力学を利用して「組み合わせ最適化問題」に対してそこそこいい値を高速に出してくれる手法です。古典的なアニーリング法(焼きなまし法)と違って、巨視的にエネルギーの壁をすり抜けてより速く最適解に到達します。
D-Waveは量子アニーリング法のための専用ハードウェアを作ったのですが、それとは別のアプローチとして、量子的な状態を普通のコンピュータを使ってモンテカルロ法でシミュレーションするやり方があります。その研究をしていた早稲田大学の田中先生(編注:早稲田大学高等研究所の田中宗助教)と、共同研究をしています。量子コンピュータを使わずに普通のコンピュータを使うやり方で、“そこそこ”いい結果が出るんじゃないかというところまで来ています。この手法を機械学習の問題を解くところまで落とし込めたらいいなと思っています。
――ほとんど基礎研究のような内容に聞こえました。
棚橋 量子物理学の話から見ると応用研究なんですよ。
阿部 今年はこれまでと違って、最先端の技術を使う段階から、新しい技術を作り出す段階を目指しています。
上田 和孝さん
株式会社リクルートコミュニケーションズ ICTソリューション局アドテクノロジーサービス開発部アドテクノロジーグループ ソフトウェアアーキテクト
大西 それはアドテクへの応用という文脈で、ですか?
大石 そうです。最適化という観点で。
阿部 量子アニーリングも、ビジネスに適用する方向で見立てています。
――前回、前々回の座談会でも独自実装による技術にこだわっている様子が伝わってきたのですが、今回はさらに進んで、研究段階の技術に取り組んでいるわけですね。
阿部 データサイエンスの取り組みを進める中で、既存のツールを活用するだけでなく、新たな手法を作り出す人材も増えてきています。
上田 社内勉強会で旬の論文を読むということもやっています。私も、アプリケーションを作るのと、データサイエンスの論文を読むのを同時に進めている感じです。
棚橋 上田さんはもともとデータ分析の担当ではなかったんですけど、論文の輪読会に一緒に入って、論文の紹介をしてくれています。
大石 今までWebサービスをメインに作ってきたエンジニアが次の段階へ進化するよいモデルだなと。上田さんはもう40歳近いんですけど、すごいなと思います。
- ^1 DSP(Demand Side Platform)
- 広告配信プラットフォームの中で、広告主を支援する仕組み。利用者のターゲティングや広告枠の買い付け、出稿などをまとめて管理し、広告効果を最大化する。メディアを支援して広告収益最大化を図るSSP(Supply-Side Platform)と対になり、インターネット広告のリアルタイム入札(RTB、Real-Time Bidding)を実現する。
- ^2 量子アニーリング(Quantum Annealing)
- 組み合わせ最適化問題の解法の1つ。1998年、東京工業大学の西森秀稔教授と当時大学院生だった門脇正史氏による論文で提案された。西森教授による量子アニーリングの解説ページはこちら。
■ 40代を過ぎても技術を追求する人をサポートしたい
大西 会社として、上田さんのように、年齢が上がってもエンジニアとしてキャリアを続けられるようにサポートしている形ですか?
上田 実はある時期、現役のエンジニアを続けるのかどうか、自分のキャリアで迷ったことがあります。「エンジニア35歳定年説」なんていう話もありますが、当時は今よりももっとその風潮が強い時代で。その時に「マネージャーは嫌だ」という結論を出しました。
大石 エンジニアはプログラムを書くことに最大限集中すべきだと考えています。エンジニアが最もパフォーマンスを出すのはプログラムを書くことであるわけで。上田さんは技術を高める方向に決断してくれたので、組織として彼をサポートしていきます。
私たちの考え方としては、組織として優秀なエンジニアをリスペクトし信頼した上で、エンジニアが取り組む仕事の価値を上げていければ、エンジニアの価値とキャリアは付いてくるはずだと。それをしっかりやっていこうとしています。
棚橋 耕太郎さん
株式会社リクルートコミュニケーションズ ICTソリューション局アドテクノロジーサービス開発部アドテクノロジーグループ エンジニア
――エンジニアを支援する方向で組織を運営しているのですね。1年半前の前回の座談会ではアドテクへの取り組みが中心的な話題だったのですが、今はどういう領域に注力していますか。
大石 前回お話ししたアドテクというのは広告配信の範囲が多かったのですが、今はもっと広い領域で「アルゴリズムで最適化」する仕事全般に取り組んでいますね。
阿部 データサイエンスの比重が高まってきて、データサイエンス領域をコアにしたアプリケーション開発をする、といった仕事が増えています。去年ごろからその辺りが融合してきました。
上田 広告だけじゃなくなっています。if文で分岐しないような、double(倍精度浮動小数点数)が出てくるプログラムも書き始めていて。ユニットテストが書きづらいですね(笑)。
大西 それは具体的にはどんなプログラムなんですか?
上田 レベニューマネジメント(収益最適化)と言われる分野です。例えば、物販のサイトで、競合サイトで同じようなものを売っている場合、プログラムが判断して値段を下げに行く、みたいなものです。
大石 需要と供給を予測して、他社の値付けはいくらだから自社はこの価格にしようと。収益を最大化するアルゴリズムです。
山家 刻一刻と状況が変わっていくのを学習するという感じですか?
上田 学習というより、マッチングする分類器に近いですね。それがだんだん賢くなっていく。
――アドテクで培った技術の横展開のような形でしょうか?
大石 広告配信以外にもエンジニアの価値が活きる場所を広げていく結果として、こうした取り組みをしています。反対にWebサービスを作る仕事は一定量に抑えています。
上田 ピクセル単位で直すのとか、あれはあれで割と好きなんです(笑)。Webアプリには完成というゴールがありますが、データサイエンスはゴールがないんですよ。
■ 他人のパフォーマンスを上げるマネージャーの“やりがい”
――阿部さんは、マネージャーになってみていかがですか?
阿部 「他の人のパフォーマンスを出す仕事に興味ある?」と言われて、「興味ある」って言ったらその後いきなり内示がきて。“やりがい”は、あるなと思っています。もともと雑用が好きなんです(笑)。
先ほど話題に出た量子アニーリングの共同研究も雑談の中から出てきたアイデアが実現したものだったりします。会社の中で、エンジニアの活躍の領域がどんどん広がっていて、そこに結構やりがいを感じています。一方、コードを書く時間はだいぶ減りました。自分でコードを書く仕事を作り出すしかないなって(笑)。
大西 DevOps的なものの延長としてマネジメントがあることは、よく分かります。
阿部 「全体のパフォーマンスを上げるには」「動きやすい組織を作るには」など考えながらやっています。自分が組織を変えるというより、エンジニアが動きやすくする。やりたくないことは、やらなくていいようにする。そして、会社として利益を出す仕事をマッチングさせることで結果的に組織が変わる、と思っています。
広々としたデスクが六角形に配置され、いつでも話せるようになっている。
口頭でのコミュニケーションもフランクに。
大西 例えば勉強会の開催は、単純に考えると業務時間というリソースを食われますよね。そこに対してマネジメント層の理解が得られないとできない。
阿部 そういう機会がないと組織として新しいものが導入されないのでだめだろう、という発想をしていますね。
大石 勉強会のような、エンジニアが主体的に自分の価値を高められる場は必要だと考えています。
上田 アプリケーションを作りながら、英語の論文で数式がごちゃごちゃ出てくるようなものを訳して来週勉強会で発表しなきゃ、さてこれ明日リリースだけどどっちをやればいいんだ……みたいな感じでやっています。両方やるのはなかなか大変ですが。数学って大事だなと(笑)。
阿部 一番の価値は、メンバーの成長です。成長にマッチする仕事をやってほしいということを考えています。お金は稼がないといけない。メンバーが成長することで組織の成長につながり、結果的に将来の売り上げは伸びる。そういう観点で時間を使ってほしいと思っています。
大石 基本的には、プログラムを書くのが好きで、向上心があれば、こちらが何かを言わなくてもエンジニアは勝手にやります。うちのエンジニアのいいところは、毎日仕事じゃなくてもプログラムを書くし、勉強もしているところです。もちろん、がむしゃらにやればいいという話ではありませんが、普通にやっている人が追いつけるかというと、差は開く一方なんだろうなと思います。
■ ゲームAI大会を転機に、チームの雰囲気がより技術追求型に
上田 あと、最近は社内で競技プログラミングが流行っています。「この問題を2時間で解かないといけない」とか、瞬発力を試されるような。
阿部 ベテラン陣が若手に負ける、みたいなこともありますね。有名な“爆弾で戦う某レトロゲーム”をAI(人工知能)にさせて、AI同士を戦わせる社内イベントをやったんです。あれが転機になって、会社の雰囲気が変わりました。
上田 アルゴリズムを使う「機械学習大会」を新人がやり始めて、最初のうちは「データを処理する」「バナーのCTR†3を上げるには」といった“普通”の内容だったのですが、なぜかクリスマススペシャルとして某レトロゲームが題材になって。最初は静観してたんですが、普段こういうイベントに顔を出さないスーパーエンジニアがなぜか参戦して無双してました。それを見て「彼と戦える機会は二度とないぞ」と思ったら火がついてしまいました。動画を見てみますか?
一同、AIによる“爆弾で戦う某レトロゲーム”プレイを記録した動画を鑑賞。上田さんによる詳細な解説付き。
上田 人間がプレイするとやられるようなところを、コンピュータはぎりぎりで避けられるんです。
大西 確かに全然やられない。これは動画を見れば分かりますけど、準備に時間がかかってますね。
阿部 イベントを2週間くらいやって、結局上田さんが優勝したんですよね。ディープラーニング†4で挑んできた相手に、上田さんは確率で戦って撃破してました。
上田 「どれだけ未来を先読みできるか」の勝負だと思ったので、分岐する未来の数を抑えるために、各ロボットを「このエリアのどこかにいる量子みたいな存在」で表現するとか、必死でした。
大石 みんな熱中しすぎて仕事止まってたもんね。
阿部 あれは、業務影響が出ましたね(笑)。仕事を終えた後からチャットが盛り上がったりして。
山家 お題設定がキャッチーでうまいですね。“爆弾で戦う某レトロゲーム”、だいたいの人は分かると思うので。動画までできるなんてすごい。
棚橋 会社に入った頃に「先輩のコードを見たい」と言ったら、この大会に出場したゲームAIのコードを見せられました。全部1枚のファイルに書かないといけないから、ディープラーニングで作ったのが8,000行ぐらいあって。上田さんのコードもint(整数)がなくてビット演算ばっかりで。入社したての時期にそういうコードを見て衝撃的でした。
■ 新しい領域の技術に挑戦する風土が定着しつつある
――このイベントが雰囲気を変える転機になったということですが、どう変わったのですか?
阿部 それ以前から、エンジニアが技術的に遊ぶことはありましたが、本気で必死になって“遊んだ”のはこのゲーム大会が最初でした。業務影響が出るぐらいに本気でやって、しかもその結果が業務に全く反映されていない(笑)。でも、「そういうことが、できるんだ」という意識が生まれました。その後で、みんながどんどん新しい領域に手を出し始めて。そうした取り組みに必要ならAWS(Amazon Web Services)の料金は会社で出す、というように、技術に挑戦する風土が定着しつつあります。この本気で技術を使って遊ぶ感じが、以前に比べてすごく変わったと思っています。
大西 康裕
株式会社はてな 執行役員 サービス開発本部長 チーフエンジニア
大西 勉強会や機械学習大会以外にもエンジニア特有のイベントはあるんですか?
上田 開発合宿に行きましたね。一晩でものを作って、発表をして、誰が一番良かった、とかやりました。飲む時間になってもみんな飲まずに開発をしていて。この前は新人がドローンを制御するプログラムを作ってました。
棚橋 ドローンが世間で話題になっていて、じゃそれをやろうと。僕は入社したばかりの時期でしたが、新人同士でペアを組みました。市販のドローンのデバッグ用シリアルポートにArduino†5を挿して、センサーを付けて。超音波センサーを付けると距離が分かるので、それとモーターを組み合わせて、首を振りながら壁との距離を測るようにしたら、モーターのノイズでシリアルポートの通信に影響が出てしまって。最終的にはモーターの首振りを却下して前方の距離しか見ないようにして、ドローンそのもので首を振るような動作をさせて飛ばしました。
山家 ドローンをソフトウェア制御できるように改造したわけですね。
棚橋 屋内でドローンを飛ばすと壁からの「吹き返し」があるので、制御が難しかったですね。
ドローンが飛ぶ様子を収めた動画を見せてもらう大西と山家。
大西 その開発合宿の目的は何だったのでしょう?
大石 プロダクトを作るヒントになればいい、という趣旨です。2日頑張って誰もやっていないことにチャレンジしてもらっています。そこで一生懸命に取り組んだことが、どこかにつながるだろうと。
山家 エンジニアが熱中できるテーマを設定できているのはすごいですね。どうやってテーマ設定をしているのですか?
阿部 ノリで決まります(笑)。参加者がその時にやってみたい、面白そうだと思ったテーマを取り上げます。
大石 新しい取り組みは、マネージャー陣が考える範囲に閉じちゃいけないと思っています。思考のキャップ(上限)になっちゃいけない。多様性を大事にしています。
山家 雄介
株式会社はてな ブックマーク・アドテクチーム サブディレクター/アプリケーションエンジニア
――棚橋さんは、大学から会社に環境が変わって、どんな違いを感じましたか?
棚橋 戦略的に動かないといけないな、と感じました。
どういうことかというと――大学では高分子専攻だったんですが、高分子って熱揺らぎがあります。ランダムに、エントロピー†6が上がる方向に揺らいでいます。先ほど、ゲームAIによる社内コードバトル大会の話題が出ていましたが、私も大会に参加してみて、みんなのコードがランダムに動くことを想定して「相手のいそうなところ」を狙うアプローチをしました。それは僕にとっては当たり前のアプローチだったんですが、みんなが作ったコードは、「いそうなところ」には行かないようにしている。みんな意思を持って動いている。そこにびっくりしました。エントロピーが増大することを前提に考えていたら、増大しなかった。アドテクでもたぶんそうで、データが意思を持っている感じがします。
――「負のエントロピーを持っている生命体が背後にいる!」みたいな感じですか?
棚橋 そこまで言うとちょっと格好良過ぎなんですけど。アドテクでもターゲティング広告を考えるとき、ボットみたいな動きをする人もいるし、競合相手もいる。自分のことしか考えずに他はランダムだと考えていたら、実は別の意思を持ったものがいた、と感じる瞬間だったというか。そこに対してどう勝つか、を考えないといけないのが、学生時代との一番のギャップです。
山家 学生時代、エージェント工学†7を専攻していました。他の参加者がどういう行動をするかを含めて全体設計をするのですが、それがなかなか難しい。それぞれのエージェントの振る舞いが異なる中で、自分はこういう行動をすると一番“得”をする、みたいな泥臭い部分も必要でした。
■ エンジニアの価値を高め、ビジネスに結びつけていく
阿部 私たちの取り組みにも、泥臭い部分はやはりあります。エンジニアが時間をかけてデータの前処理をするなど、そこは従来と変わっていないところだと思います。ただ、アプローチのバリエーションが増えました。先ほどの量子アニーリングもそうです。
大石 バリエーションも、精度も質も変わってきたと思います。そこが優位性になるよう、徹底的に深めることにこだわっています。いい人材が集まりつつあるので、マネジメントする側の緊張感も上がっていますね。そこはマネジメント側のチャレンジでもあります。
山家 お話を聞いて、基礎研究寄りの取り組みをしていることが印象的でした。
大石 こうした取り組みは、実はR&D(研究開発)という位置付けではなく、あくまでもプロダクト開発の一部としてやっています。プロダクトではゴールが決まっています。プロダクトのゴールとエンジニアの価値が紐付くよう、さらに高い成果を目指せるよう、共同研究などの活動に取り組んでいます。
山家 研究と事業、距離が近くて両方できるのがいいですね。
阿部 アカデミックと現場で使うテクノロジーの距離感がすごく近くなっていますね。
棚橋 3ヶ月前に出たばかりの論文を業務で使っていることもよくあります。
大西 そうした取り組みで技術的な優位性を高めて、サービスの内製化で活かしていくということでしょうか。
大石 顧客のニーズで要件定義をしてもらって作るのでは、本当の内製になっていないと思います。エンジニアが価値を発揮して、それによってビジネスが大きくなっていくような、そういう枠組みを作っていくことを常に考えています。
――エンジニアの価値を上げて、さらにビジネスの競争優位性に結びつけようとしているのですね。今日は、どうもありがとうございました。
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取材・構成:星 暁雄
写真:赤司 聡