1Uラックマウント可能なサーバを自作する

この新しいサーバ、例えてみるなら長身でスリム、おしゃれも気遣うイケメンだぜ……?とにかく今すぐどこかに自慢しにいきたい。そういえば、データセンターをお借りしているさくらインターネットさんとはお互いに勉強会を開く仲。さくらインターネットさんも「自前主義」を掲げサーバを自社で作っていらっしゃるとか。そこで、お互いの自作サーバを持ち合い、お披露目と情報交換をすることとなりました。

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さくらインターネットさん側の参加者は、田中邦裕社長(写真右端)、技術部主任の加藤直人さん(写真右から二番目)。
はてな側の参加者は、インフラ部部長田中慎司(写真左端)とサーバ設計担当吉田晃典(写真左から二番目)。ラックの前で記念撮影!


「自前主義」にこだわる理由

――IT業界における「自前主義」とはどんな意味があるのでしょうか? 素人考えからしたら、「買ったほうが面倒がないのでは?」と思ってしまうのですが……。

田中社長:「私たちがサーバを自作している理由は、単にハードウェアのコストを安く済ませるためではなく、全体の最適化を追求するにあたって必要だと考えているからです。基本的にITというのはモジュラー型が主流で、仕様の多くはオープンになっており、その仕様に合わせた既製品の組み合わせで、高い自由度を安価に実現できます。その反面、モジュラー型の組み合わせではオーバーヘッドが生まれ、必ずしも自社が求めているものが実現できるとは限りません。

ただ、自社で設計すれば、いらない部品を省略して調達コストの低減もでき、かつ電気代を削減することもできますし、その他にも有形無形の多くの最適化が可能です。たとえば、自社のサービスに合わせたサーバを作り、そのサーバに合わせたラックを設置し、それらを一番効率的に冷やすエアフローを設計すれば、空調コストを大幅に低減できます。また、サーバを小型化することによってラックへの収容効率を向上させ、サーバあたりのラックコストの低減も可能です。さらに、運用スタッフが扱いやすいように、電源の取り回しやコネクタの位置など、様々な改良を行なうことにより、作業の工数まで削減させることもできます」

田中(慎):「自前主義による全体最適化という話をすると、最終的にスケールメリットを生かせるかが重要。サービス規模が十分大きくなると価値が出てきますから。しかし、そこまで大きくないとむしろオーバーヘッドになってしまってコストが余計にかかります。はてなくらいの規模だとぎりぎりの段階ですね(笑)。それでもはてなはサーバの自作を選択している。なぜかと言うと現時点でも、小回りがきくということと、全体的なコストコントロールがきかせられるというメリットがあるから。

加えて、IT業界は垂直統合と水平分業の時代が割りと交互に来るんですが、これまでは垂直統合の波が来ているのでそこに乗って、垂直統合の一環として自作サーバを作っている。スケールメリットが出てくる分界点は、昔に比べてハードルが上がっていると思うんだけど、どこが分界点になるか見極めながら、それを上回る勢いではてなが成長してくれれば今後も垂直統合を目指していくと思う。ただし、最近クラウドコンピューティングと言われていますが、あれは水平分業の考え方ですね。これが使い勝手が良くなって普及してくると、垂直統合のメリットの分界点のレベルがあがってくると思うので、そこも見極めが必要だなと思っています」


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互いのノウハウを分かち合う勉強会

――前述しましたが、さくらインターネットさんとはてなでは、定期的に勉強会を開いているそう。業種が違う両社ですが、どんなことを話し合っているのでしょうか。

田中(慎):「はてなが運用しているインフラはまだそこまで規模が大きくない。だからさくらさんが持っているデータセンターやレンタルサーバなどホスティングサービスのノウハウは未知のものなんですね。われわれのほうもウェブサービスに特化しているノウハウがあるので、そのあたりの情報を交換しています。前回の勉強会は『ネットワークのルーティングの技術と冗長化の技術』だったのですが、とくに当社のようにコンテンツを扱っているだけでは得られない知識を教えていただきました。さくらさんには本当にノウハウを惜しげなく出していただいていますね」

加藤さん:「以前に『仮想化技術の導入事例』についてお話いただいたのですが、これも当社では取り組んでいない技術だったので参考になりました。お互いに議題をリクエストしながら、交互に発表しあっています」

田中社長:「お客様とノウハウを共有したいという思いがある。それが勉強会の形になっています。当社でははてなさんのようなコンテンツのノウハウはないが、データーセンターに繋がる広い裾野のノウハウは持っている自負がある。下のレイヤーの最適化だけではなく、上のレイヤーとの接地面をより理解し密接にしていきたいので、お客様の要望を聞いたり、ノウハウを教えていただき、当社の技術力を上げながら密接にしていく。これも、当社が担っていない分野まで含めた全体の最適化を図るためですね。また情報をあえて公表することによって『これを踏まえてもっといいサービスが現れ、そこで当社発の標準化がなされ、コストダウンの恩恵を受けられるかもしれない』といういわばオープンソースの考え方に近い感じで当社はやっています」


はてなの「marqs-60」登場!

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左のL字型のサーバが、さくらインターネットの「1Uハーフ」、右のサーバがはてなの「marqs-60」


――いよいよ実物を前に……! はてな側からのお披露目です。

吉田:「これがはてなの新サーバ愛称marqs-60です! ちなみに僕のはてなIDと、1ラックに60台マウントできることからつけた仮称が結局愛称になってしまいました」

加藤さん:「おー。ここ(電源スイッチ部分)はユニバーサル基板で作ってますか?」

吉田:「プリント基板にしようかと思ったんですが、枚数が出ないのでコストに見合わなくて」

田中社長:「ルーマニアの基板メーカーが一枚500円くらいで作ってくれるんですよ! 設計してデータを送るとプリント基板をつくって、シルク印刷までして空輸してくれます」

卯月:「へえー」

吉田:「以前作っていたサーバはラックの規格に合わせて収められなかったので、1U(規格のラックの一段にちょうど収まるサイズ。更にラック全面に収まるものと、半分の奥行きに収まるハーフなどの区別がある)に対応したものを作りました。ちっちゃくできたので1Uハーフにしてしまおうと。マザーボード自体は前から使っているものなんですが電源やファンを小型のものに変更しました」

田中社長:「当社のサーバよりもコストダウンできそうな感じですね! うちのサーバもシャーシのカバーとかいらないんじゃないの!?(笑)」

吉田:「消費電力的にも有利ですしね。HDDはちゃんとホットスワップ(電源を入れたままパーツなどを着脱できること)可能なケースなんですよ。1TBの3.5inchHDDを載せるようなストレージサーバを作るときだけこれを2台重ねて二階建てにして2Uにしてます。ディスクはもうマジックテープでマウントするという。グーグルさんのサーバを見てテープでいいんだ! という結論に達しました。1U対応に変更しても、価格は以前と同じくらいに抑えろという至上命令が出ていたので、シャーシ自体も安く作ってもらって。最初に試作したときは1Uというより縦型のブレードっぽい奴だったんです。それをやっているうちにギリギリ高さとか調節すると1Uに入るんじゃないかと思いはじめまして。またケーブリングに特化していてフロントアクセスで、まとめられるんです。実際に自分で取り付けることが多いので、自分のやりやすさを実現したということですかね。あとは割り切ったところはたくさんあって、シャーシのカバーがないとか色々ですね」


続いてさくらさんの自社製サーバ「1Uハーフ」が登場

――やはりこちらは見た目にもきちんとした印象がありますね。L字型のデザインも特徴的です。

加藤さん:「従来のサーバが2Uハーフだったんですけど、やはり1Uハーフが効率がいいなと。以前は、1ラックあたりの収容量が最大40台までという上限があったんですが、それを倍増させたかったというのがそもそもの開発目的ですね。この1Uハーフであれば、1ラックに最大80台まで収容が可能になりました。サイズ以外にこだわったのは電源。電源の効率は非常に重要でサーバの消費電力が30%くらい変わってきます。そうなるとラックに収容できる台数も変わってきますし。安価かつコンパクトかつ効率の良いものを目指しました」

吉田:「レールの設計とか参考になりますね」

加藤さん:「ないとシャーシの真ん中でたわむんですね」

吉田:「ちょうど僕もレール設計中なんです」

田中社長:「レールがあると作業効率もよくなりますね。持ちながら取り付け作業をするのは大変なので」

吉田:「あとはこの辺のメッシュ加工のフロントパネルもかっこいいですね」

加藤さん:「逆にはてなさんくらいすっきりさせてもいいかなと思ったんだけど」

吉田:「一部ポートへのアクセスを捨ててしまった(シャーシの設計の制約上、オーディオポートにアクセスできなくした)ので……」

田中(慎):「ラベル(ホスト名、IPアドレスなど貼るためのラベル)を貼るスペースの確保に苦心した結果なんですが。最近の高密度系のサーバはラベルを貼るところがなくて困るんですよ」

田中社長:「そうですね、これは運用現場じゃないと分からない悩みですよね。ただ、自社製作してると、細かな仕様部分のフィードバックが非常に早いのがいいところですね」


製作から、完成まで

加藤さん:「このサーバの製作に取り掛かったのが去年の4月で、投入が11月くらいなので半年ですね。実際の開発は4ヶ月くらいで、量産の発注をかけて2ヶ月かかったという感じです。試作は2回。最初の設計段階はメーカーさんと試行錯誤しながら行いました」

吉田:「はてなでは、最初に、縦型から1Uという大きな変更があったので。結局2~3ヶ月くらいですかね。試作回数は3回くらいかな。今回は僕の中で明確にこういうものが作りたいという構想が固まってたので、図面を書いてすぐに板金工場のおっちゃんのところに持っていって。オフィスから近い品川の工場に自転車で7、8回通ったかなぁ」

田中社長:「自社内にプレス機とか置かないんですか」

一同:「プレス機!」

田中社長:「最近20万くらいで売ってるみたいですよ。でも板金工場に持っていくというのは一番いいですね!」

吉田:「それは僕が大学でハードウェアをやっていたので、慣れていたところもあるかと。でも最終的にはケーブリングが一番苦労しました」

田中社長:「さっきからここのケーブルのまとめ方すごいな、と、はてなさんのサーバを見て感心してるんですけど!」

吉田:「実際作ってみたらタイラップで留められる台座が欲しいなと思って、でも穴を開けるとタイラップが下に出てしまうのでスポット溶接でとお願いしたんです」

田中社長:「工場のおっちゃんにとってはぴぴっとやるだけだし技術的にも手間的にもわけないことですよね。それが作業する側にとっては大きな効率化ですよね!」


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田中社長が感嘆したオリジナルの台座&タイラップ


気になる外販?

田中(慎):「さくらインターネットさんのサーバは外販したことはあるんですか?」

田中社長:「過去に一度販売して、アフターケアが大変だったことがありました。現在は外販していないのですが、今でも『売ってほしい』という声は多いです」

田中(慎):「まだ未定ですが、このサーバも外販できてもいいなと考えたりもしています。その場合は、例えばサポートは初期不良対応のみにして、あとは公開ブログで情報交換してもらうのもいいかもしれません」

加藤さん:「最近はオープンハードウェアというのもありますもんね」

田中社長:「共同で電源の設計とかしちゃったりしてね。オープンハードウェアにしてブログとかにのせておいたら、『いやこのトランジスタはこっちのほうがいい』なんてコメントが来て、改造して……。別にそのままそっくり真似されても、安く作ってもらえればそれを買えばいいだけですし結局お得ですよ」


グーグルの自作サーバから伝わるメッセージ

――自作サーバといえば、少し前にグーグルのものが発表されて話題になりました。それぞれどのように感じたのでしょうか。(参考:グーグル、自社設計のサーバを初公開--データセンターに見る効率化へのこだわり

吉田:「グーグルのサーバが発表されたときは社内でも盛り上がりました。ディスクのマウントはこれくらい適当……というか簡素でいいんだ、という感じで。シャーシもシンプルな専用のハコで作っていて。自分たちの方向性と同じだったので、『これでいいんだ』という後押しになってくれました。逆にバッテリーを乗せるというのは出来ていない部分なので、乗せられたら確かにいいだろうなと思いました」

田中社長:「『これでいいんだ』と思うとともに、日本人ならもっとうまく作れるんじゃないかとも思ったんです。シャーシがここ、たわんでるでしょ?(とグーグルの自作サーバの写真を指差して)それと別にマジックテープでなくても、はてなさんのサーバで使ってるようなタイラップを使ったほうが簡潔になりそう。だから我々の方向性は非常に近いと感じると同時に、ITの世界でも日本のものづくりの細やかさ、優位性を出していけるなと思いました。このシャーシを日本の板金工場で作ったらもっと精度の高いものが同じ値段でできますよ。ただ、グーグルはやっぱり凄いなと思うのは、本当に作ってしまうところです。『いやグーグルと同じこと考えてたよ』という人は多いと思うんですが、実行した会社はほとんどないと思います。私もバッテリーをつけることは考えましたが、結局まだ実行には移していませんし。そういった意味だと、はてなさんのサーバも当社のサーバも今回紹介することで『お、すごい。でも、自分たちでも作れる』という印象を与えるかもしれませんが、国内でここまでやっている会社は少ないのではないでしょうか。このグーグルのサーバからは、何事もトライしてみるというメッセージが伝わってきますね」


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実際に稼動しているサーバの前で盛り上がる皆さん


モノづくりに対する熱意

――皆さん本気の眼差しで、お互いのサーバを讃えあったり、質問したりなど対談の場も非常に盛り上がりました。ところで、やはりプライベートでも「作るの大好き!」なのでしょうか。

吉田:「基本的に作りたいものは無限にあるタイプですが。昔は自転車も自分で組み立てていました。ハードウェアをどんどん自分たちで作れる時代になったらいいですね。3Dプリンターとか」

田中社長:「僕は、自宅でワンチップマイコンを使って工作してます。今はNゲージをデジタルコントロールするのにハマってまして。普通はレールに電気が走っていて、全て同じ動きしかできないんですが、デジタルコマンドで一台ずつ動かせるように細工を……この調子なので自宅の電気代がかさんで困っています(笑)」


――最後に、それぞれモノづくりに対するこだわりについて聞いてみました。

田中社長:「学生の頃の研究室で、ものづくりは美しくないといけないと教官に言われ続けていました。配線の丸め方やその方向、形などを指示されて……細かいことやっていましたね。しかしそのこだわりが全体でみると機能美に繋がってくると思います。当社の1UハーフサーバのL字型も機能美ですから。ちょっと奇をてらったところもなくはないですが(笑)これだとラックに互い違いに前後マウントできて、1Uのスペースに2台収容できますから」

吉田:「日々自分たちでオペレーションしていると、配線がぐちゃぐちゃだとうへあってなるんですよ。なので最初から理路整然としておくのが重要です!」



機械は美しくてなんぼ! ということで、場の意見が一致したよう。また全体を通して「自前主義」や「オープンソース」など、私のようになじみのない者にとっては「多少の自己犠牲や無駄があっても大事にしたい理想主義」のように捉えてしまいがちですが、むしろ徹底的に合理化を考えた末の結論なのだな、と考えを新たにすることができました。お互いの自作サーバを通して、その業種の違いによって重視するところは違ってきても、同じ志を持ってモノづくりをしている熱気が伝わってきました。


今回紹介したさくらインターネットの自社製サーバは、同社の専用サーバサービスのインフラとして提供されているそうです。
お話にもあったとおり、徹底した最適化で、高品質低価格を実現しています。