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環境省が推進するがれき広域処理の意味――前編:大量のがれき



(※この記事は環境省の提供によるPR記事です)

「みんなの力でがれき処理」――。環境省は、東日本大震災で発生した宮城県、岩手県の災害廃棄物(がれき)の広域処理を推進している。広域処理とは、被災地で発生したがれきを、被災地以外の場所で処理すること。あわせて環境省は、テレビや、新聞、ネットで大々的に、この広域処理についての広報キャンペーンをしている(本記事もそのキャンペーンの一環として取材・執筆されている)。

テレビCMは環境省の広域処理情報サイトでも閲覧できる。以下に貼り付ける。

ナレーションは宮城県女川町出身の俳優、中村雅俊さん。プライムタイムの放送時間帯にオンエアされた。

新聞では、何回かに分けて全国紙の朝刊に見開き2面のカラー全面広告を掲載。ネットでもYouTubeのトップページや、各種ニュースサイトへ、広域処理促進のための広告が表示された。

■ がれき広域処理の必要性について広報を進める環境省

こうした環境省の広報姿勢に疑問を投げかける声もある。長野県の阿部守一知事(@shuichi_jp)は3月9日、環境省が2012年3月6月付朝日新聞に掲載した広告に対して、がれき受け入れを求める連合長野の中山千弘会長との会談で、この広告を「国が“情緒的”な広告を載せるのはいかがなものか」と批判した。
47NEWS - 52新聞社と共同通信の総合ニュースサイト

広告は、がれきの山の写真と、処理が長引くことから広域処理への協力を求めたもの。阿部氏は「国民が知りたいのは、政府が責任持ってがれき処理をやるということ。それを伝えなければいけない」と、政府の広報姿勢を批判している。

一方環境省は、広域処理の広報で強気の姿勢を崩さない。2012年3月5日、環境省はがれきの広域処理において、「平成24年度東日本大震災に係る災害廃棄物の広域処理に関する広報業務」というタイトルの企画競争を公示した。
調達情報(企画競争公示(請負業務))_h23-060

内容は、がれきの広域処理に関するPR案を募集するというもの。この広報業務の総予算は、上記ページに添付されている「企画競争説明書(PDF)」によると、15億円である。これは平成24年度(2012年4月~2013年3月)の予算で実行される。つまり、予算が成立すれば、すでにテレビや新聞、ネットで打たれている広告とは別に、最大15億円かけて広域処理のPRを行っていくということと考えられる。政府・環境省としては、広報宣伝活動を強化することで、国民に理解を求めていく構えなのだろう。

果たしてこれだけ大金を投じて広域処理を「広報」していく意味とは何か。

■ 大量のがれきと2014年3月末までという目標

環境省が推進する災害廃棄物の処理、その進ちょくは悪い。2012年3月5日時点での処理量は福島、宮城、岩手全体の6%で、94%が未処理だ。

現在処理を進める宮城県と岩手県のがれきの総量は、環境省の推計量で2045万トン。政府は2014年3月末までに、このがれき処理を完了させることを目標にしている。環境省の広域処理情報サイトのトップページにあるのは、全国の自治体にがれきの受け入れを求める以下のようなメッセージだ。

岩手県・宮城県の「災害廃棄物」の量は、通常の11年分・19年分にも達しています。現地では、仮焼却施設をつくるなど、全力で処理をしていますが、それでも、なお大量の災害廃棄物が残っています。一日も早い東北復興のために、全国の力を貸してください

環境省_災害廃棄物対策情報サイト

そして、2012年3月22日時点で、がれきを被災地外で受け入れたのは青森、山形、東京の3都県のみである。

■ 現地処理はできないのか、放射性物質は拡散しないのか

がれき広域処理に対する批判は根強い。批判の根拠は大まかに2つある。

1つは県外に搬出するかわりに、被災地でがれきの焼却場を建設し、雇用を促進した方が現地のためではないかというもの。さらに、わざわざ税金を利用して高いコストをかけて被災地から全国に運び、広域処理を進める背景には、産業廃棄物処理業者との癒着や利権があるのではないかといぶかしむ声もある。

東京二十三区清掃一部事務組合 中央清掃工場の前で、女川町のがれき焼却の反対を訴える人

もう1つは受け入れ候補地の住人が反対する大きな理由となっている放射性物質の拡散問題だ。放射性物質に汚染されたがれきが広域処理によって全国に運搬され、現地で焼却されることで放射性物質の濃縮が起き、居住地での空間線量が高くなり、自身や家族の健康に悪影響がある――そうした懸念を持っている人が少なからずいる。

そこで記事を前編と後編に分ける。この前編ではがれきの量と、処理方法の実際、各自治体の事情を見ていく。現地の大量のがれきを見ると、政府が望む3年以内のがれき処理には広域処理が必要に見えてくる。後編では放射性物質の拡散の問題を取り上げる。環境省は放射性物質拡散によるリスクを検討し、安全を配慮しているが、根本的には確率論と“病気になる”という個人の問題で、完全に割り切れる問題ではない。

■ 通常時の10年分を超える量、置き場所もない

まずは環境省が用意した批判への答えを見てみよう。環境省、広域処理サイトの「よくあるご質問」がわかりやすい。

http://kouikishori.env.go.jp/faq/

先頭にあるのは「災害廃棄物は被災地で処理できないのですか?」という質問だ。答えは「地震と津波の被害により、被災三県の沿岸市町村においては、約2200万トンもの膨大な量の災害廃棄物(岩手県で通常の約11年分、宮城県で通常の約19年分)が発生」したとして、「既存の施設に加え、仮設焼却炉を設置するなど、日夜その処理に取り組んでいますが、処理能力は依然として不足している状況」としている。

そして現在のがれきの状況は「既に仮置場に運び込まれて」いるとしながらも、「被災地の一刻も早い復旧・復興のためには、仮置場に積まれた災害廃棄物の迅速な撤去・処理が求められています」としている。迅速な撤去や処理が必要な理由は、(1)土地利用、(2)仮置き場の安全・衛生管理、(3)被災者の心情――の3つである。

(1)の土地利用の問題は、「例えば宮城県女川町では、町有地のほとんどが山林であり、限られた民有の平地に仮置場が設置されています。このため、仮置場に積まれた災害廃棄物の存在自体が復興の大きな妨げ」となっているという。(2)の仮置き場の安全・衛生管理については、「火災の危険性や衛生上の問題がある」という。これは仮置き場近隣に居住する住民にとって、生活環境保全上の問題になる。

(3)の被災者心情は、「『積み上がった災害廃棄物を見ると震災当日と同じ心境になる』、『がれきを見ると心が沈む』といった地域住民の方々の気持ち」というもの。これらの全文は http://kouikishori.env.go.jp/faq/#anch01 で参照できる。

まとめると以下である。

  • 処理すべきがれきの総量は約2200万トンと多い
  • 2014年3月末に完了する政府の目標に対して処理の進ちょくは悪い
  • 仮設焼却炉を設置するなど現地の処理能力を増加させているが、それでも処理能力は不足している
  • がれきが片づくまで仮置き場の土地が利用できない
  • がれきを仮置き場に放置すると近隣住民の生活環境に問題がある
  • 仮置き場のがれき山は被災者の心情を悪化させる

問題は、大きく、複雑だ。

■ 普段の町内が排出する廃棄物の115年分――宮城県女川町

2012年3月1日、筆者は宮城県牡鹿郡女川町を訪ねた。東日本大震災でもとりわけ津波の被害が甚大で、沿岸部は壊滅的被害を被った。

宮城県牡鹿郡女川町 - Google マップ

2012年3月21日時点の宮城県がまとめた被害状況では、女川町での震災での死者は595人、行方不明者332人。死者と行方不明者の合計は927人で、人口のおよそ1割にもなる。町の建物の8割にあたる3270戸が全半壊した。

東日本大震災における被害等状況 2012/3/22 17:00公表 (PDF)

女川町では、復旧における家屋の解体作業が進むにつれ、がれきの量が増大。現在も増え続ける廃棄物量は推定44万4千トンにも及ぶ。この数字は通常町内から排出される廃棄物の約115年分に相当する量だ。宮城県全体では「19年分」でも、人口が1万人程度と少なく、津波の被害が甚大な女川町では、発生したがれきの量が普段の処理能力に対して約6倍多い量になる。

女川町仮置き場のがれきの山。永遠に続いているようなとてつもない量に見える。場所はこのあたり

すでに町の仮置き場は飽和状態で、がれきが腐敗した結果発生するガスによる仮置き場の火災も心配されている。さらにこれらのがれきの仮置き場は、国有地ではなく、民有地を使用しているため、このがれきが処理されなければ、(元に戻す、という意味での)町の完全復興が不可能という事情も抱えている。

甚大な被害のなか、女川町はがれきの処理を進めている。その方針は、がれきを分別して、リサイクルできるものは再利用していくというもの。それでも最後に可燃性の廃棄物が残る。東京都は2011年11月24日、女川町の希望に応じて10万トンの可燃性廃棄物を受け入れを決めた。

http://www.metro.tokyo.jp/INET/OSHIRASE/2011/11/20lbo300.htm
http://www.asahi.com/national/update/1124/TKY201111240175.html

東京都は岩手県宮古市のがれきもすでに受け入れている。

■ 重機と手作業を併用して分別して運び出す

女川町でのがれき処理の様子を写真で簡単にまとめる。

女川町の1次選別エリア。重機や手作業を併用して、がれきを材質や、大きさ別に大まかに分別していく

「トロンメル」という回転式のふるいで粉じんを取り除きつつさらに分別する。分別しきれないものは手作業での分別へ

手作業の分別ライン。ベルトコンベア上のがれき片を手作業で、金属類、紙・布、廃プラ、電池などに分別する

分別した“木くず”をチップ状にして、コンテナに積み込み、処理地の東京へ送る。右上は積み込みを見守る監視員


なお、取材当日の筆者のTwitterでのつぶやきは、Togetterでまとまっている。動画もぜひみてほしい。

tsudaさん廃棄物選別処理施設からのtsudaり - Togetter

詳細は後編に譲るが、空間放射線量のほか、処理済みのチップ、積み込んだコンテナなどの放射線量を何度も計測していた。一連の様子を見た筆者は、少なくとも現地の自治体が救援要請を行っており、放射性物質の安全性が確保される限り、がれき処理を早める必要があるというのは理解できた。女川町にとって、がれきの山は抱えきれないほど大きい。

■ 阪神大震災と違うのは近隣の処理能力と、塩水、放射能

環境省 大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部 廃棄物対策課 課長の山本昌宏氏。がれき広域処理を担当する

そもそも震災によって発生したがれきの広域処理には前例があるのか。「災害時にお互い市町村が助け合って廃棄物を処理し合うことは以前から廃棄物処理の世界では行われてきた」と答えるのは環境省 大臣官房 廃棄物・リサイクル対策部 廃棄物対策課で、がれき広域処理を担当する山本昌宏課長だ。
「阪神淡路大震災でも広域処理が行われました。あのときは神戸が一番大きな被害を受けたのですが、あそこは港湾エリアだったため、そもそも土地がたくさんありました。それに加えて大阪湾には、大阪湾周辺の自治体が廃棄物を処分する大阪湾フェニックスセンターという大きな処分場がありました。まず、そういったところに港湾地域の廃棄物を移動させ、そこで分けたがれきをフェニックスセンターで処分した。阪神淡路大震災のがれき全体でいうと14パーセントは被害を受けた市町村以外の県外で処分をされたという実績があります」(同氏)
ところが東日本大震災のがれきは処理が難しいという。「阪神淡路大震災と違うのは、単にがれき量だけの問題ではないのです。阪神大震災で発生した廃棄物量は1477万トンで、岩手・宮城を合わせた量は約2000万トン。量だけで見ればそこまで大きな差はありません。放射性物質の拡散を防ぐための問題に加え、海底の津波の泥や、海底の堆積物と混じったような形で塩水に浸かった状態のがれきを処理する問題もありました。我々はこれまでこうした廃棄物処理の経験がなかったため、作業がなかなか進まなかったという状況もあります」(山本氏)。

■ 通常時の処理能力が大きい大都市の協力が効果的

今回の広域処理は東京都をはじめ、被災地からかなり遠く離れた自治体で処理されるケースがある。この疑問も山本氏は明解に答える。「もちろん、広域処理といってもなるべく近い所で処分するのがよいのですが、今回は東北一帯が被災されたのでどうしても首都圏だとか、遠くに運ばざるを得ないのです。山がせまっていて海側にも平地が少ないところが多く、そもそも東北の海岸はリアス式海岸ですから、まとまった平地もなく、港湾エリアにもそこまでたくさんスペースがない。なかなか焼却場に適した土地が確保できないのです」
確かに女川町では民間の土地を借りて仮置き場や選別場を設置している状況である。

女川町の一次仮置き場位置図。赤い部分が仮置き場で、黄色い部分は中間処理施設。平地の多くを仮置き場が占めていることがわかる

元々平地面積が約14%と少ない地域であることに加え、地震で地盤も沈下して、有効利用できる土地面積は減っている。「その意味で大都市が果たす役割は重要で、例えば現状東京都は最大の受け皿になっています。東京都や横浜市などの大都市は(住民が多く、普段のゴミ排出量も多いため)焼却能力がすごく大きいので、彼らが持っている焼却能力の10%の余力を使うだけでも地方都市とはケタの違う処理ができます」(同氏)
さらに山本氏は続ける。「実は最終処分の部分も広域処理の必要性があります。というのも、現地はどこの自治体も灰の埋め場所に困っています。埋め立て処分場を作るっていうことはすごく大変なことで、これは放射性物質の問題とは関係なく、住民にとっては『迷惑施設』ということでどこも作れる場所がなかなかなくて困っている。しかし、今回そこにボーンと10年分20年分の廃棄物が出てきたわけですから、廃棄物の残骸とか灰を全部入れる場所もない。それをこれから作ろうとなると4、5年はかかる。この部分も広域処理できると自治体の負担が減るわけです。がれきを持っていってもらって、燃やして、燃やした灰をそこで処分していただく――これが石巻ブロックのようながれきにあふれている被災地にとっては一番ありがたいのです」(同氏)

■ 「自己完結型」で3年以内の現地処理を目指す仙台市

仙台市若林区荒浜字今切にある「荒浜搬入場」に仮設したロータリーキルン式焼却炉。1日300トンの処理量を誇る

しかし、これはあくまで津波の被害が甚大であった一部の自治体の話のようだ。現地での処理を目指す自治体もある。東北最大の都市、仙台市だ。
仙台市環境局は「自己完結型」のがれきなどの処理を目指し、1次仮置き場や2次仮置き場を一元化した「搬入場」を整備した。名取川から七北田川の海沿い、津波に襲われた松林を切り開き、宮城野区に1ヶ所、若林区に2ヶ所の搬入場を整備、仮設の焼却炉をそれぞれに設けた。焼却量は3ヶ所合計で1日あたり480トン。搬入場でがれきを分別し、50%以上のリサイクルを目指しつつ、リサイクル困難な可燃物を焼却している。
荒浜搬入場の様子を動画にまとめた。

環境省の山本氏は、このような現地での処理状況も正直に語る。「多くの自治体は自分のところでやると言っています。そして、宮城と言っても地域によって違う。宮城県全体ではがれきは1500万トン以上あるわけですけれども、石巻ブロックの自治体は、300万トン近くの広域処理を希望しています。岩手県が全体でも478万トンくらいですから、石巻ブロックだけで岩手の半分以上にあたるわけですね。もちろん相当大きな中間処理施設や仮設の焼却炉も作っていて、来年度早々から処理はできるようになりますが、それでも全部は燃やせない状況なのです」

■ 自治体によって異なる処理の仕方、スピード、量

仙台市と同様に、岩手県の陸前高田市(約86万トン)や、岩泉町(約3万トン)など、広域処理するのではなく、現地にがれき処理場を作ることで継続的に雇用や産業を創出したいと考える自治体もある。ところが、環境省、県との足並みがそろわない場合もあるようだ。
陸前高田市の戸羽太市長は、2011年8月に行われた日刊サイゾーのインタビューで「がれきの処理というのは復興へ向けた最重要課題のひとつなわけですが、現行の処理場のキャパシティー(受け入れ能力)を考えれば、すべてのがれきが片付くまでに3年はかかると言われています。そこで、陸前高田市内にがれき処理専門のプラントを作れば、自分たちの判断で今の何倍ものスピードで処理ができると考え、そのことを県に相談したら、門前払いのような形で断られました」と怒りを語っている。
被災地の本当の話を知るべし! 陸前高田市長が見た「規制」という名のバカの壁とは?|日刊サイゾー

同じく岩泉町の伊達勝身町長は、2012年2月29日付朝日新聞の記事でがれき処理についてこう答えている。「現場からは納得できないことが多々ある。がれき処理もそうだ。あと2年で片付けるという政府の公約が危ぶまれているというが、無理して早く片付けなくてはいけないんだろうか。山にしておいて10年、20年かけて片付けた方が地元に金が落ち、雇用も発生する」

asahi.com:復興に向けて 首長に聞く -マイタウン岩手(記事は現在閲覧できない)

石巻市、女川町のように広域処理を切実に必要としている地域もあれば、そうではない地域もある。この地域差がどれほどかは、復興庁のウェブサイトが公開する「災害廃棄物処理の進捗状況(PDF)」にあるデータを見るのがわかりやすい。2012年3月19日時点の状況をグラフにまとめた。

赤い棒ががれきの推定量だ。一口に津波被害を受けた自治体といっても、処理しなければならないがれきの量には大きな差がある。そして現地で処理できる量も、自治体がもともと備えていた焼却能力や、仮設焼却場の設置に利用できる土地事情などに左右される。

大船渡市は、2011年6月から市内のセメント工場で、がれきの焼却処理を実施している。陸前高田のがれきも、この大船渡市のセメント工場で処理されている。前述した日刊サイゾーの記事で県に対する怒りを語った陸前高田市の戸羽太市長は、2012年3月14日、自身のFacebookで以下のように書き込んだ。
おはようございます!...

1年も経ってから・・・との思いはありますが、それでも政府が実際に動き出そうとしてくれていることには素直に感謝したいと思います。
(中略)
ツイッターの中で私の書いた本の内容を引用?し、それを違った解釈をされた方々がいて、私が『瓦礫の広域処理を望まない』と言っている旨の書き込みが氾濫しているようです。
陸前高田市の瓦礫については、大船渡市のセメント工場で瓦礫の処理をしていただいているので、今のところ他の自治体にお願いする予定はありません。
しかしながら、瓦礫の問題は陸前高田市の問題ではなく、被災地全体の問題だと思っています。
被災地瓦礫の全体量が減少していくことで、復興のスピードは速まりますし、何よりも被災者の方々に元気を与えることになると思います。
したがって、私個人としても瓦礫の引き受けをしていただけるところがあるのであれば、どこの被災地の瓦礫でも構いませんの処理(編注:原文ママ)をお願いをしたいと考えています。
私の二人の息子の親として、子育てをされている方々や、妊婦さんたちの心配もわかります。
ですから、基準をさらに厳しくして、本当に安全が確認された瓦礫だけを限定で被災地以外で処理をしていただきたいと思っています。

被災地をひとまとめにして広域処理を考えることで、がれき処理を独自の復興プランをつなげたいと考える地方行政の足かせになる必要はない。重要なのは、がれきが処理できることだ。被災地には、広域処理が必要な地域があれば、そうでない地域もある。

■ 変えるために知る、知ってよりよく変えていく

原発事故を引き起こした東京電力と、その事故の収拾に追われた政府への不信は根強い。それはこの広域処理でも変わらない。放射性物質拡散の問題はもちろん、広域処理の必要性や、特定の産廃業者への利益誘導につながっているのではという疑いも、多くは不信からである。全国的な受け入れ反対運動がある中、“不信”をもとに勘ぐられ批判されるのは致し方ない。

国や、県、自治体、住民、産廃業者と、それぞれ立場は異なる。重視する点が異なり、主張が異なるのも当然だ。ここで見てきた自治体ごとに異なるがれき処理の状況に加え、この記事の後編で述べる放射性物質の問題がある。前述したように問題は大きく、複雑だ。それでも前に進まないわけにはいかない。必要なのは情報の公開と、効率の良い伝達だ。

「知ることは、変えるためのきっかけ」――。筆者は環境省の協力をもとにした取材活動で、環境省で、女川町で、最終処分をする東京都中央区晴海の中央清掃工場で、限られた範囲ではあるが、がれき広域処理の実際を知った。知ったことで筆者の、少なくとも女川町のがれきを広域処理する必要性への認識は、明らかに変わった。この記事を読んだあなたも、筆者が見たいくつかの事実を知り、認識もいくらか変わったのではないかと期待している。

筆者が望む未来は、この「変えるため」の情報が、もっとネットで閲覧できるようになることである。広域処理を推進する環境省はもちろん、県も自治体も、この問題の実際を報じるメディアも、伝えることができる個人も、みんな、可能な限り伝えてほしい。

これらの情報をもとに、みんなでみんなを知り、各所のがれき処理が、各所が望む形でよりよく進むように、あらゆる障害を変えていくことができれば、それこそが「みんなの力」によるがれき処理ではないだろうか。

繰り返しになるが、被災地には、広域処理が必要な地域があれば、そうでない地域もある。重要なのは、その単純な事実を多くの人が知ることで、必要な地域に必要な手当てがなされていくように、現状をよく見て、うまく進むように変えていくことだ。

変えていくことは知ることから、知ることは情報の発信から始まる。これだけ大きく複雑な問題で、これだけ多くの国民の関心を集めている問題だからこそ、環境省が広域処理の広報に費やす15億円の使い方は、問題の理解と納得できる個々の判断に大きな影響を与える。

不信はウソと隠ぺいの裏に潜む。ウソをつかないのはもちろん、あらゆるデータを可能な限りオープンにして信頼を得てほしい。自治体各所の事情も、処理業者選定の基準もだ。環境省が今後推進する予定の「広報業務」の15億円が、多くの国民が「よく知り、よい判断をする材料にできた」と納得する目的で利用されることを願っている。

環境省とはてなブックマークニュースは、この記事に対するご意見、ご感想を募集しています。はてなブックマークのブックマークコメントや、この記事のURLを含むツイートでお知らせいただければ幸いです。
なお、本記事の後編「環境省が推進するがれき広域処理の意味――後編:広域処理による放射性物質拡散の実際」は、2012年4月上旬に掲載予定です。(編集部)

追記(2012年4月13日 12:45)

本記事の後編「環境省が推進するがれき広域処理の意味――後編:広域処理による放射性物質拡散の実際」の掲載予定を当初、上記の通り2012年4月上旬としていましたが、記事執筆の遅れにより、4月上旬中の掲載ができませんでした。申し訳ございません。現在も著者の津田氏は鋭意執筆中です。いましばらくお待ちください。(編集部)

追記(2012年5月29日 21:02)

本記事の後編「環境省が推進するがれき広域処理の意味――後編:広域処理による放射性物質拡散の実際」の掲載が遅れ、誠に申し訳ございません。津田氏が執筆し、はてなが編集した記事を環境省さんがレビューする過程で、いくつか新しい事実の発見や認識の変化がありました。はてなはこれらを読者の皆さまにとって価値がある情報だと判断し、現在記事へ反映中です。長らくお待たせして大変恐縮ではありますが、いましばらくお待ちください。(編集部)

追記(2012年6月8日 15:15)

本記事の後編を公開しました。長らくお待たせしてしまい申し訳ありません。掲載が遅れたことを深くお詫びいたします。(編集部)

文: 津田大介

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