ライブドア事件とともに、長らくメディアから姿を消していた「ホリエモン」こと株式会社ライブドア元社長・堀江貴文氏が、ネットを中心に、いま再び注目を集め始めている。
数年前、「ホリエモン」旋風が日本を駆け抜けた時期があった。従来の日本企業の慣行に真っ向から挑戦する、企業買収の手法を駆使した彼の経営術や「投資家にとって邪道かどうかは関係ない。ずるいと言われても合法だったら許される」などと言って憚らない彼の挑戦的な言動は、「単なるマネーゲームのプレイヤーにすぎない」などの批判を浴び、論議を巻き起こした。彼が望んでいたかどうかはともかく、この時期メディア上では、堀江氏は日本という国に起きつつある変化の「象徴」として扱われ、彼の一挙一動にテレビ局や新聞社は注目し続けていた。
だが、多くの人が知るように、「ライブドア事件」を境に、メディアから堀江氏は姿を消すことになる。そして、米国発のサブプライム・ローンによる、金融不況の到来。当時、「マネーゲーム」批判を繰り広げていた人たちからすれば、堀江氏は、もはや過去の人だろう。それなのに、一体なぜ今になってホリエモンなのか?
メディア報道への「徹底抗戦」
その直接的な理由は、彼が「ライブドア事件」における検察との戦いについて記した『徹底抗戦』が3月初旬に出版されたことだろう。初版3万部を刷られたというこの本の売り上げは好調とのこと。
だが、特にネットにおいては、このような注目の背景に、昨年の8月に開設された「六本木で働いていた元社長のアメブロ」で、堀江氏が書いているエントリーが注目を集めていることを指摘できるだろう。特に『徹底抗戦』発売の一月前からは、自身に対してこれまで為されてきた報道について、かなり踏み込んだ内容を書きはじめている。2月9日のエントリーで、堀江氏はこんなことを書いた。
私も3年前からずっと、私以外の関係者の人間に、死人に口無し状態で、彼らの我田引水で言われっぱなしだったので、そろそろ私なりの反論やら事実公開を少しずつやっていこうと思います。
白ごはん.com|六本木で働いていた元社長のアメブロ
黙っていれば、好きに言われてしまう。だったら、自分で情報を発信して闘うしかない。自身についてこれまで報道されてきたことに本格的に反論を始めた最近のエントリーは、堀江氏らしい論争的な記事が多い。はてなブックマークでも彼のエントリーは、しばしば人気エントリーの上位に上がってきており、コメント欄ではユーザー同士の議論も盛り上がっているようだ。
- 小沢氏が検察と全面対決している件について|六本木で働いていた元社長のアメブロ
- ショックを受けた宮内メール|六本木で働いていた元社長のアメブロ
- ちょうどよかったので株式100分割について語ろう|六本木で働いていた元社長のアメブロ
メディアがホリエモンバッシング一色であったときも、ネット上では堀江氏の経営手腕やビジョンを評価する人はおり、決して一枚岩ではなかった。ライブドア事件以降も、堀江氏の言葉を聞くことを待ち望んでいる人が多かったのだろう。加えて、このブログは、日本を揺るがした事件の当事者が自身を弁護する様をリアルタイムで見ることが出来るという、ちょっとしたエンターテイメントにもなっている。彼が注目を集めるのも、むべなるかなである。
マスメディアが伝えなかった「ホリエモン」の素顔
だが、いま堀江氏に注目が集まっている理由は、そんな話題性のみに拠るのではないかもしれない。そのことは例えば、元ライブドア社員によるロングインタビューや、ニコニコ動画における西村博之氏との対談動画を見てみると読み取れるだろう。ここでは、マスメディアの「ホリエモン」報道では見えなかった、堀江貴文氏の素顔を垣間見ることができる。
一方はテキストで、もう一方は動画だが、ともにノーカット。特に後者の動画では、マスメディアで「幼児性」と叩かれた堀江氏の「子供っぽい」偽悪的な態度が、対談相手の西村博之氏の会話の上手さもあって、「可愛らしさ」やある種の「純粋さ」に見えてくるから面白い。些か礼を欠いた質問をしがちなテレビ局のインタビュアーに向かって、苛立ちを隠せずに投げ遣りな受け答えをしている堀江氏の姿しか見ていない人は、憑き物が落ちたような彼の姿に、ちょっとイメージが変わるかもしれない。
また、堀江氏の仕事観や将来へのビジョンなどについて、話を聞いてみたいと考える人も増えているようだ。
- 「ホリエモン 吼える!」 堀江貴文氏単独インタビュー (1):Net-IB|九州企業特報|データ・マックス
- 沈黙を破ったホリエモン,ITを語る:ITpro
- 堀江貴文 エンジニアは誇り高くあれ/Tech総研
特にTech総研のインタビューでは、プログラマ上がりの経営者であった堀江氏ならではの、エンジニアへのエールを聞くことが出来る。そもそも、ホリエモンバッシングの頃にはマスメディアでは「虚業」呼ばわりされていたライブドアだが、実は当時からネット上ではその技術力を評価する声は高かったのである。
こうした記事からは、「虚業家」や「乗っ取り屋」と、非常に単純な「守銭奴」のイメージで語られがちな堀江氏の、あまりメディアでは語られない一面を見ることが出来るだろう。眉をひそめる人も多いだろうが、無視し得ない強烈な個性であることだけは間違いないようだ。ちなみに、上で紹介した対談で、西村博之氏はこんなことを言っている。
「堀江さんって、一周してるから、好きな人多いと思いますよ」
もう一つの現在
ホリエモン旋風が巻き起こった時期は、構造改革路線を主導する小泉政権の下で、多くの人が日本という国の今後の舵取りについて議論を重ねていた時期だった。そんなときに唐突に訪れたのが、ライブドア事件である。
堀江氏について語る時、「もしあの時、堀江氏が逮捕されていなければ……」と口にする人を見かけることは多い。では、あの時にライブドア事件が起きていなければ、日本はどうなっていたのか。とりあえず、ライブドアショックは起きなかっただろう。だが、サブプライム・ローンに端を発する金融不況で今我々が受けている傷口は、さらに広がったかもしれない。
いずれにせよ、私たちは堀江貴文という名前を通じて、現在の日本とは違った、別のあり得たかもしれない日本の姿について考えることができるだろう。そんなところもまた、堀江氏の記事に注目が集まっている理由かもしれない。