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謎のメニューに隠し部屋も―― 「BAR探偵」に行ってみた



さて、先日この店が、はてなブックマークにおいても話題になった。
:BAR私立探偵::喫茶探偵
京都の新名所!? 「喫茶 探偵」へいってきたよ | エキサイトニュース
実は、この店は筆者の家から歩いて3分ほどの距離にあり、普段から筆者はちょくちょくと足を運ばせてもらっている。確かに、そう言われてみれば、この独特の雰囲気を持った店が、京都の新名所になるのはちっとも不思議な話ではないように思える。遠方からでも足を運んできたいと思う人は多いのではないか。
そこで今回は、この喫茶店が夜になると見せるもう一つの顔、BAR探偵の方を紹介したいと思う。

いざBAR探偵へ


夜の京都の闇に浮かび上がる、この怪しい絵の看板。ビニール袋からネギを飛び出させた主婦が行き交うこの通りで、何というKYっぷりだろうか。窓の奥に見える店内の内装も、非日常的な空間がこの店の中に広がっていることを垣間見せてくれてドキドキする。

では、いざ扉の向こう側へ。

中の様子


中に入ると、真っ先に目につくのはこのカウンターである。まるで映画のセットのようだが、もちろん本物。
それにしても、中に入ってみて驚くのは、むしろ「怪しさ」よりも「懐かしさ」の印象の方が強いことである。店内のムードは、外観に反して(?)意外にも落ち着いているのだ。実は、この店は、元々この場所に古くからあった「純喫茶 三茶」なる喫茶店を改装して出来ており、その雰囲気をなるべく活かす形で店内の内装を作り上げているという。


懐かしの「壁掛け電話」。まあ、実はよく見てみると、意外にも本体そのものはハイテクなのだが。


また、BAR探偵という名前だけあって、店内の本棚にはミステリマガジンのバックナンバーや、探偵小説の名作が置かれてもいる。

『新宿鮫』に山風の『警視庁草紙』にスピレーン、サンリオ文庫のディック作品……そして、中井英夫の『虚無への供物』。『虚無~』は、故・宇山日出臣氏が手がけた旧い表紙の講談社文庫版であった。
ちなみに、筆者には、チャンドラーよりもスピレーンよりも、中井英夫が描き出したあの妖かしの世界こそが、この店の雰囲気にピッタリであるように思える。この店には、ある世代の日本人が探偵小説に対して抱いている、無国籍風のイメージを結晶化させたようなところがあるのではないか。


実は、この店のオーナーは映画監督にして、京都造形大学映像学科・学科長の林海象氏。映画版<私立探偵 濱マイク>シリーズの脚本・監督を手がけた方である。
彼の作品を知っている人ならば、一貫して氏が「探偵」という存在そのものに強い興味を惹かれていることは知っているだろう。実際、応対して戴いた奥様の話を聞いていると、海象監督は謎解きが好きというよりは、どちらかというと探偵の捜査する姿やその有り様に興味を持つタイプのようだ。
ちなみに、上の記事にも書かれているが、海象氏は探偵学校に通ったことがあるらしい。これはもう筋金入りの探偵好きとしか言いようがない。


「探偵十訓」なんてものも。濱マイクの事務所にかかっていたアレですね。

探偵カレーを注文する

ところで、筆者がこの店に足を運ぶのは、もちろん独特の雰囲気を味わいたいからと言うのもあるのだが、それ以上に、この店で出される「探偵カレー」を食べたいからというのが大きいのだ。筆者は、毎回この店に来るたびに注文しているのだが、これが本当に稀に見る絶品なのだ。この店を記事にして、このカレーを紹介しないわけにはいかない。


とは言え、まずはバーなのだからお酒を注文。この店には、ハメットやパーカーの作品にちなんだカクテルがあるが、今回は筆者は、米国ハードボイルドの巨匠・チャンドラーの生み出した名探偵・マーロウのカクテルを戴くことにした。

名前は、「早すぎるギムレット」。もちろんこれは、最近、村上春樹による新訳も発表されたチャンドラー畢生の大傑作『ロング・グッドバイ』(清水俊二訳の方の邦題は『長いお別れ』)に出てくる、有名な台詞から取られたものであろう。この苦みの利いた味を堪能するには、確かに年齢を必要とするのかもしれない。
そして、これが例の「探偵カレー」。

これが本当に、複雑な味わいがあって美味しいのである。こう書くと、スパイスを利かせた本格派インドカレーを思い浮かべてしまうかもしれないが、むしろ日本人好みのトロ味のあるルウである。おそらくは様々な具材をじっくり煮込んで作っているのだろう。どこか深みのある甘さが口中に広がっていき、辛いものが苦手な人にもお奨めできる。
ちなみに、これはオーナーの海象氏が独自に作ったカレーらしい。だが、海象氏の奥様に聞いてもレシピを教えては戴けなかった。謎は謎のままの方が良いということでしょうか……。うーん、でも、いつか絶対に解き明かしたい。


会計をしにレジに行くと、こんなオブジェが。いや、もちろん現金払いでいきますよ。
さて、実は「お別れのギムレット」は、実は注文した人が言い値で値段をつけることになっている。とりあえず今回は1000円を払ってみたが、ギムレットの値段の相場というのも難しいものである。皆さんはどんな値段をつけるのだろうか?

オマケ:奥の部屋


ところで、この店の奥には隠し部屋があるという。筆者は中に入ってみたが、分厚い扉の向こう側にあったのは、一度入ったら二度と忘れられないような、何とも不思議な雰囲気の空間であった。
興味のある方は、是非ともこの店に行って、私立探偵よろしく自らの力で隠し部屋への入り方を見つけてみてほしい。

アクセス情報

  • 営業時間:木金土のみ、18:00~24:00まで入店可。ただし、不定休。
    • 毎週金曜日、午後8時より隠し部屋にて映画の上映会。
  • 公式ブログ::BAR私立探偵::喫茶探偵


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文: 稲葉ほたて

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