2010年1月、噂の「iPad」が満を持してAppleから発表されました。iPadではFlashが動作しないことが明らかになり、AppleのFlash対応について議論が過熱しています。Flashをめぐって、AdobeとAppleが歩み寄るかと思われた時期もありましたが、もはやその気配はなさそうです。批判や反論はセンセーショナルにクローズアップされるものの、なかなか議論の大筋が見えにくいAppleとAdobeの一連の確執について、HTML5への流れも合わせてまとめていきたいと思います。
■ 実は歩み寄ろうとしていた時期も…
Appleのタッチ系デバイスでのFlash対応をめぐって批判と反論の応酬を繰り返しているAdobeとAppleですが、2009年の年初にはAdobeがAppleに歩み寄ろうとしているとみる記事がありました。
▽ アドビ、アップルと組んでiPhone用 Flashを開発中
ただ、この記事の中でも実装や規格、サポートしはじめる時期や形態などの詳細は不明とされており、この動き自体を疑う見方もありました。
▽ iPhoneでいまだFlashがサポートされないのは…… - ITmedia アンカーデスク
「AppleはFlashをサポートすることでApp Storeの優位性がなくなってしまう」という、技術面以外でのAppleの思惑が指摘されています。結局、2009年も年末に近づいてくると、Adobeも業を煮やして、iPhoneに対して辛辣なメッセージを表示するようになりました。
▽ iPhoneのFlash Playerに関してAdobeがAppleへ攻撃的なメッセージ発射! : ギズモード・ジャパン
このAdobeの"抗議"は現在も続いており、iPhoneで"http://get.adobe.com/flashplayer/"にアクセスすると記事中で紹介されている画面を見られます。
2009年の初めにはFlash対応について歩み寄りの可能性も報じられた両社ですが、年末に近づくにつれ、Appleのタッチ系デバイスでのFlash対応に暗雲が立ち込めてきていたのでした。
■ iPad発表後からの確執
2010年1月末にiPadが発表されてFlash非対応が明らかになり、以下のエントリーのタイトルにうなずいた人も少なくないでしょう。「FlashもUSBもなくても大丈夫なの…?」と。
▽ FlashもUSBもないiPad――Apple製品じゃなかったら売れない (1/2) - ITmedia アンカーデスク
Adobeと、Apple…というよりジョブズの主張をコンパクトに要約したよいエントリーがあります。
▽ iPad / iPhoneのFlash非対応について、Adobeとジョブズの言い分
▽ せかにゅ:Flashは「死にかけ」 スティーブ・ジョブズ氏が批判 - ITmedia News
Flashのオープン性や動作速度への懸念、FlashのせいでMacがクラッシュする問題などを指摘するAppleに対して、時に検証し、Flashがないことでどれだけユーザーの体験が損なわれるか示すAdobe。日本語圏ではそこまで大きな話題にはならなかったようですが、両社のいつものやりあいとはちょっと違った事件も起きました。
▽ FlashをめぐるAdobe対Appleの闘い:ポルノサイトも登場 | WIRED VISION
AdobeのエバンジェリストがFlash非対応のiPadで見たウェブページを具体例をまじえて解説しているのですが、その中にポルノサイトがあり、これが物議をかもしました。Appleの元エバンジェリストからTwitterで「Adobeはポルノカードまで使おうとしている。終わりだな」と応酬されたり、身内のAdobeに怒られて記事を取り下げたり、Wiredに魚拓をとられたり、と盛り上がりました。ギャラリーも結構楽しんだのではないでしょうか。
ここまでAdobeとApple両社の表面的な確執についてまとめてきました。次は、このように両社の思惑が平行線をたどる中、どうしてAppleがFlash非対応を決め込むのか、Adobeはこれにどう対応しようとしているのか、技術的な知見も含めて掘り下げていきましょう。
■ なぜAppleはFlashに対応しないのか?
まずはじめに、そもそも技術的にAppleのタッチ系デバイスでFlashを動かすことは可能なのでしょうか?
▽ アップル、iPadの「Flash対応」動画をこっそり修正
この記事では「iPadと同じARMベースの Nexus One や Palm Preでベータの Flash 10が動いていることからも、ハードウェアの性能的には問題がないはず。」としており、技術的には可能なようです。それならFlashに対応してくれればいいのに…、しかし、事はそう簡単ではないようです。
Flash非対応に固執しているかのようにも見えるAppleですが、その言い分にも一理あるのかもしれません。AppleがAdobeやFlashに不信感をいだくようになった背景を詳しく説明しているエントリーがあります。
Mac向けアプリケーションの開発でCocoaへの移行が遅れたこと、Mac向Flashのバグ対応がまずかったことなど、Adobeの問題もあるようで、Appleにも同情の余地があるのかもしれません。
また、実際的な問題として、Flashが動いたところで既存のFlashコンテンツをそのまま活かすのは難しいと指摘するエントリーがあります。
▽ なぜiPhoneはFlashをサポートしないのか? - Flash技術者視点での考察 | エンタープライズ | マイコミジャーナル
既存のアプリケーションで前提としているマウスによる操作と、手でタッチすることによる操作の取り扱いが異なることから、アプリケーションの作り直しが必要になったり、ユーザに特別な操作を要求するようになったりといった問題があるようです。
後述のHTML5シフトを必須のものとして、技術とマーケット両方の観点からiPhoneがFlashをサポートしない理由を考察するエントリーもあります。
▽ Life is beautiful: 「なぜAppleはiPadにFlashを載せるべきではない」のか
iPadのFlash非対応を、Appleの「Flashなんか重要じゃない」というメッセージとして、Apple、Google、Adobeといったビッグプレイヤーの思惑と動向を解説しています。
■ Adobeの懸命な対応
さまざまな事情からAppleのタッチ系デバイスで非対応の憂き目にあっているFlashですが、Adobeはこの状況を技術的に打破しようとしています。
▽ 待望のニュース!Flash CS5 で iPhone アプリが開発できる(Flash CS5最新情報の翻訳も) | ClockMaker Blog
▽ デベロッパーに朗報―Adobeの新CS5はFlashアプリをiPhone向けに自動コンバート
▽ Adobe:FlashアプリをiPadで動作させます。いずれフルスクリーンで
2009年秋のAdobe Maxでの発表から着々と準備が進み、Creative Suite 5(CS5)ではFlashアプリケーションをAppleのタッチ系デバイス用のアプリケーションに変換できるようになるようです。CS5を楽しみにしている開発者の方も多いのではないでしょうか。
■ 脱Flash?進むHTML5シフト
Adobeのツールやプラットフォームのクオリティの高さ、既存のFlashアプリケーションの存在もあり、現在はまだ過渡期であるものの、脱Flash、HTML5へ標準がシフトしつつあるのもまた現実です。
ウェブページを提供する側でも脱Flashがはじまりつつあるようです。大きなところではヴァージン・アメリカ航空がサイトリニューアル時にFlashコンテンツをすべて取り去ったというニュースがありました。
▽ Tech Wave : 米航空のサイトがFlash削除。恐るべしiPhoneの影響力
「iPhoneを含めあらゆる機器上で表示できるサイトを作りたかった」とのこと。コンテンツ作成者の率直な反応を変えるのは難しそうです。タイトルの通り「恐るべしiPhoneの影響力」。
そして、忘れてはならない業界の巨人、MicrosoftもW3C SVG Working Groupへの参加を表明、IE9ではHTML5を強力にサポートするようで、脱Flashの流れを加速するのに十分なインパクトとなり得ます。
▽ Microsoft が W3C SVG Working Group に参加 « HTML5.JP ブログ
▽ せかにゅ:「IE9はHTML5を強力サポート」のうわさ Flashの未来は暗い? - ITmedia News
脱Flash、HTML5シフトが進んでAppleは順風満帆かというと、必ずしもそうではないようです。自身が推奨するHTML5は両刃の剣でもあったのです。
▽ Google、iPhone向け「Google Voice」をWebアプリとしてリリース - ITmedia エンタープライズ
AppleがApp Storeで差し止めていたGoogle VoiceがHTML5で実装され、ブラウザで使えるようになってしまったのです。このGoogleの技術的すり抜け作戦は鮮やかといえましょう。
■ おわりに
AdobeとAppleの確執から見てきましたが、どうやら単なる二社のFlash対応争いとしてとらえる以上の広い視野が必要そうです。HTML5のインパクト、各プレイヤーの動向を詳しくまとめたエントリーを最後に紹介します。
▽ HTML5のインパクト ? それを巡るAppleとGoogleの呉越同舟:in the looop:ITmedia オルタナティブ・ブログ
必要であれば手を組み、不都合があればやりあうまさに「外交」状態。各社入り乱れて次の時代へ突入しはじめているようで、この戦いしばらく目が離せません!
The Photo by 1Happysnapper (photography).