明和電機というアートユニットをご存知でしょうか。青い作業服を身にまとい作品を「製品」、ライブを「製品デモンストレーション」と呼ぶなど、日本の高度経済成長を支えた中小企業のスタイルで、ユニークな活動を展開しています。その明和電機の社長・土佐信道さんが2007年より続けている「~明和電機 社長ブログ~」。土佐さん独自の目線で、日々のこと、商品のこと、ふと感じたことなどを綴っており、鋭い観点とわかりやすい言葉選びがはてなブックマーク内でも度々話題になります。そこで今回は、数ある記事の中から、筆者が惹かれた、5つのエントリーを紹介します。
■アートの世界で生きる「不自由の中の自由」
「働きたくない。自由でいたい。」という理由で、アートを選択する人がいるが、アートで自由を獲得するには、メチャクチャ働かないと、いかんのだよ。
Twitterでのこのつぶやきが、たくさんの方にリツイートされたことから記したこの日のエントリー。土佐さんは「若い人の中に、モラトリアムを伸ばす口実として「アートやってる」と言ってる人がいることにカチンときてた」と、この発言に至った理由を説明。アートの世界で生きる厳しさ、覚悟の必要性を記し、そのまま年をとるとお金も手に職もない大人になってしまうのは悲しいと、「逃げ」としてアートを使うことを否定しています。
特に読み応えがあるのが、最後のまとめの部分。
芸術は人の発想やイデオロギーを開放して、ほんとに精神的に自由にしてくれます。それはそれは魅力的な世界です。しかし、その魅力の伝道師になるとするならば、そこには、たくさんの制約と向き合う現実があります。ピエロは人を笑わせますが、ピエロ本人が楽観主義者ではないのと同じです。
ただし。制約が多いからといって、自由ではない、ということはありません。むしろ制約の中で創意工夫して作品を作っていくことの方が、発想が膨らみ、「自由度」が増える、ということになります。それはとても楽しい世界です。モノを作る人間という生物の醍醐味だと思います。
自分の活動もふくめて、そうした面白さが、人々に伝わったらよいなー、と思います。
創作活動に真摯に取り組み、それを商売にする土佐さんの真意が読み取れる素敵なテキストだと感じました。
■夢を追う「ユートピア」
膨れ上がったユートピアを、棺おけまで持ち込むぐらい、
余裕のない人生を自分は送りたいぞ。
もともと明和電機という会社は、土佐さんの父親が作ったもの。しかし、大きな夢はあるが経営に落とし込むことが苦手で、あえなく倒産。両親は別居し、食べていくことに精いっぱいだったが、それでも父親が持っていたユートピアと、研究に没頭する姿には惹かれていたそう。
親は、自分の道を、たとえジジイになっても突き進むべきだ。
子供の未来に自分の夢をたくす暇があったら、
死ぬ瞬間まで、自分の夢にエゴイスティックに時間をかけろと思う。
土佐親子の夢への情熱がわかる、アツいエントリーです。
■演出が重要「歌と感情と機械」
肉体的な演出力があがれば、歌手は人を感動させることができる。これは、ひとつの答えだと思います。しかし本物の歌手は、それらを超えて、時に神がかり的に自分を超えるときがある
こちらは「歌と感情」という問題について疑問を抱いていた土佐さんが、作曲家の川井憲次さん、歌手の坂本美雨さんと話し合った時のエントリー。「歌にのせて主張したいものがない」と言う坂本さんと、「身内に不幸事があったときに楽しい曲を作らなければならず、それができた」と話す川井さん。この二人の話から、土佐さんは「どんなに感情が悲しくても、楽しい曲は作れる。感情と、創作は別である」と結論付けました。「歌に感動するのは歌手の感情によるものではなく、感情の演出によるもの」だと。自身も音楽活動をし、人工声帯で歌うロボット「セーモンズ」を手掛けた土佐さんならではの、ユニークな見解ではないでしょうか。
■納得!「のっけからフランチャイズを意識した飲食店はつぶれる」
▽~明和電機 社長ブログ~: のっけからフランチャイズを意識した飲食店はつぶれる
お客さんに「おいしい料理」を食べさせたいのではなく、「お店のビジョン」を食わせようとしているのだ。そこに、お客さんは、ズレを感じる。
足を運んだ飲食店が、内装、メニュー、看板などをキッチリとデザインしていたにも関わらず、味はイマイチ。なぜこんなことになったのかを独自に分析したのがこの日の記事です。
この中で土佐さんは、フランチャイズのように内装やメニューや看板のデザインを外注のインテリア・デザイン業者に任せることを「自分に店のデザインのビジョンがないから、人に頼む」と指摘。「一店舗しかない店なら、一店舗なりの個性の出し方があるはずだ。それを最初から捨てて、いきなり過酷な団体レースに飛び込むのだから、勝てるわけがない。」と辛口なコメントを残している。
確かに筆者も、コンセプトやデザインはしっかりしているのに、味がそれに追いついていない飲食店をよく見かけます。不況の折、消費者に外食を選ばせるには、個性と確かなおいしさを両立させることが大事なのかもしれません。
■作品と等価の言葉「商品のネーミングって、ほんと、大事です」
▽~明和電機 社長ブログ~: 商品のネーミングって、ほんと、大事です
だって、自分の子供に「無題」ってつけないでしょ!!
「オタマトーン」や「魚コード」など、そのユニークなネーミングも明和電機の製品のポイントですが、土佐さんはどういう気持ちでこのような名前を付けているのでしょうか。
作品の世界観を縛るからという理由で「無題」を付けることに対して、「作品と等価の言葉を、私たちの生きている世界の中から見つけてあげること」の重要性を語ったこの日のエントリー。多すぎず少なすぎず、ピッタリの名前を付けてあげることが作品に対する誠意だと述べています。
自分が生んだものに対して、同じ価値のある名を与える。そんなポリシーが、明和電機のヒットを支えているのではないでしょうか。
筆者の偏見で選んだ5つの記事。「~明和電機 社長ブログ~」には、この他にもハッと気づかされる言葉やテーマがたくさんあります。また、時折挟まれるイラストも、味があり絶妙。まだ読んだことのない人は、一度目を通してみてはいかがでしょうか。