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あるある捏造、ロスジェネ、iPhone発表 2007年1月のはてなブックマーク



2007年1月――まだ政権与党は自民党で、総理大臣は4ヶ月前に前任の小泉純一郎氏を引き継いだばかりの安倍晋三氏。サブプライムローン問題もまだ発覚しておらず、新卒学生の就職市場はバブル期以来の「売り手市場」。マスメディア上では、もうすぐ日本が長く続いた不況から脱出できるのではという、いまやすっかり台無しになった期待がまだ語られていた時期でした。
しかし、その頃のはてなブックマークでちょうど話題になっていたのは、むしろマスメディアへの批判や、「ロスジェネ」と呼ばれた世代間格差でした。同時に、iPhoneやニコニコ動画のような新しいメディアを実現するプラットフォームが見えはじめた時期でもあります。いくつかのエントリーを紹介しながら、順に振り返ってみましょう。

■ ネットで高まるマスメディアへの批判

<毎日新聞「ネット君臨」特集への批判>

まず、マスメディアとネットの緊張した空気がよく見えてくるのが、この月に頻出した「マスコミ批判」の記事。この2007年1月には元旦から、毎日新聞の「ネット君臨」特集が大きな話題を呼んでいます。

「ネット君臨」とは、毎日新聞が2007年1月から実施した特集企画。ネットへの批判色が強い報道やネット規制を主張する提言などに、一部のネットユーザーから強い批判が集まっていました。また、このエントリーで話題になっている取材に対しては、後にITジャーナリスト・佐々木俊尚氏が関係者へのインタビューを試みており、その問題点を指摘しています。

<あるあるねつ造事件、不二家報道、グラフによる印象操作>
一方、この時期には関西テレビ制作「発掘!あるある大事典2」において、1月7日放映の「納豆ダイエット」放送でデータのねつ造が発覚したのも大きな話題を呼びました。

このエントリーは、ネット上ではもう何年も前から「発掘!あるある大事典」にはねつ造が指摘され続けていたにもかかわらず、それが現実に対して影響力を持てなかったことを書いたもの。今年2010年に入ってから、「ホメオパシー問題」や「岡崎市立中央図書館事件」など、ネットで話題になってきた事柄をマスメディアが取り上げるという事例がぽつぽつと出てきており、こうした状況は少しずつ変化しつつあるようにも見えます。

ちなみに、この月には他にも同時期に行われた不二家への過激な報道や、報道番組でのグラフの形を用いた印象操作などへの批判もユーザーから集まっています。これらのトピックもまた、現在も「マスコミ批判」の文脈でしばしば事例に挙げられていきます。

■ 「ロスジェネ」問題、ホワイトカラー・エグゼンプション~労働問題に注目集まる

<マスメディアが「ロスジェネ」に注目>

一方、ネットとマスメディアという文脈では、世代間格差、いわゆる「ロスジェネ」問題にマスメディアが注目しはじめたのがこの時期だというのも見逃せません。下のエントリーは、2007年元旦から朝日新聞に掲載されて大きな話題を呼んだ、就職氷河期に正社員になる機会を失った若者たちの生活実態を明るみに出した「ロストジェネレーション」特集を取り上げたもの。

また、同年1月号の論座には赤木智弘氏による有名な論文『「丸山眞男」をひっぱたきたい』(参考:「丸山眞男」をひっぱたきたい)が掲載されています。ネット上ではだいぶ前から当事者たちによってブログ等で議論されていたような、日本の若年層を取り巻く労働環境を巡る様々なトピックが、マスメディアにおける議論になりだしたのもこの時期です。「ロスジェネ」問題は、メディアの論調にネットの議論が接続された、国内で最も早い事例の一つではないかと思います。

<「ホワイトカラー・エグゼンプション」への労働者の不信感>

また、この月にはホワイトカラーに対する労働時間規制を適用免除する制度「ホワイトカラー・エグゼンプション」も、ネット上では大きな話題になっています。

いま当時のネット上での議論を読み返してみると、「残業代ゼロ法案だ」「最初は年収900万円以上と規制をかけているが、これは第一歩にすぎない」というように、提出予定だった法案そのもの問題点というより「いずれは悪用されるに違いない」という、雇用者に対する被雇用者の拭えぬ不信感が非難の声を呼んでいた印象を筆者は受けました。

■ iPhone、Wii、ニコニコ動画~新時代のメディアが登場

さて、上に挙げたような話題を読んでいると、この時期のインターネットは何だか暗い話題ばかりの時期だったように思われてしまうかもしれません。しかし、必ずしもそんなことはありません。特にエンターテイメントやメディアの世界に目を移してみると、現在私たちの生活を豊かなものにしてくれている革新的な商品やサービスが、いくつも登場しているのがわかります。

<Apple社による「iPhone」発表>

まずは、何をおいても重要なのが、Appleの「iPhone」発表。日本時間10日未明に発表された直後から、この思い切ったデザインの斬新なデバイスの登場にユーザーは大興奮状態。

そんな発表直後のユーザーの反応をまとめているのが、上のエントリー。ユーザーたちがその大胆な美しさに感動して、興奮している様子が伝わってきます。また、この時期に書かれたエントリーでは、「iPhoneは日本市場で発売されるのか?」という議論もユーザーたちによってされていましたが、翌年2008年7月11日に3Gモデルが日本でも販売開始。今年2010年に発売された「iPhone 4」も大きな話題を呼び、国内のユーザー層もどんどん拡大し続けているようです。

<任天堂の新作ハード「Wii」の好調ぶり>

また、この月に発表された商品ではありませんが、前年12月に発売された任天堂の新作ハード「Wii」の好調な売り上げも、この1月には大きく話題になりました。当時のゲーム業界で「敵はユーザーの無関心」という言葉を掲げて、既存のゲームユーザーの外側に顧客を求めていった任天堂。「ニンテンドーDS」に続くこの大成功はマーケティングに興味を持つネットユーザーの議論を、強く喚起していました。

この記事は、そんなWiiブームにまるわる様々な議論を受けて、同時期に発売されて売り上げ不調が報じられていたPS3がもし大ヒットしていた世界が存在していたら……と、その場合の人々の議論をシミュレーションしてみせた、ちょっと皮肉な内容の記事。はてなブックマークユーザーからは「面白いシミュレーション」などのコメントがついています。

<「ニコニコ動画(β)」開始>

一方この時期には、2007年に国内インターネットの話題をかっさらった、あのサービスが15日にベータ版へと移行しています。

「ニコニコ動画(仮)」として前年12月から運営されており、一部新しもの好きなユーザーの間では既に話題を呼んでいた「ニコニコ動画」。まだこの当時は、ニコニコ動画のサイトがYouTubeの動画を読み込んで、その上にユーザーがコメントを付けていくという仕様でした。はてなブックマークでは、その発想のエレガントさに多くの注目が集まっています。

初音ミクの登場からはじまったボーカロイドブームに、「THE IDOLM@STER」や同年放映されて大きな話題を呼んだ『らき☆すた』などを用いたMAD動画の人気など、2007年の「ニコニコ動画」の大躍進ぶりは多くの人の知るところ。このベータは、YouTubeからアクセス遮断されるまでの1ヶ月半というわずかな期間でしたが、その後の大活躍の幕開けとなる、いまもファンの間で「ベータ時代」と語られる「カオス」な熱気に満ちた時間でした。

■ 2007年1月を振り返って

以上、はてなブックマークにおける2007年1月の人気エントリーを振り返ってみました。現在日本のネットで語られているトピックの多くが、どういう巡り合わせかこの時期に集中して話題になっている――筆者はそう感じています。もし最近Twitterなどで初めてこうした言説に触れて戸惑っている人がいれば、ここで紹介したエントリーを読んでみると、どうして現在のネットで人々がこうした話題を語っているのかが、少し見えてくるかもしれません。

ちなみに、他にもこの月には「海上独立国家シーランド」の売却とBitTorrentによる買収の名乗り(参考:「世界最小国家」買収にBitTorrentサイトが名乗り - ITmedia NEWS)や、2ちゃんねるドメイン差し押さえの騒動(参考:2chドメイン差し押さえ「現実的でない」と専門家 過去に例もなし - ITmedia NEWS)、あるいはNHKスペシャルでのGoogle特集の大反響(参考:グーグルは今のままでは日本人の人生を変えることはできない - GIGAZINE)など、まだまだ話題になったエントリーはたくさんあります。興味のある方は、ぜひはてなブックマークの過去の人気エントリーを見る機能を使って、確認してみてください。

文: 稲葉ほたて

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