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店舗経営を、テクノロジーによってシンプルでカンタンにしたい──飲食店も経営するエンジニアが新サービスに込める思いとは?

リクルートライフスタイルが提供する、お店の業務に役立つサービス「Airシリーズ」に、店舗経営の改善の仕組みを提供する「Airメイト」が加わりました。サービスの企画・開発の中心となったのは、当時入社1年目で、副業で飲食店経営をしているエンジニアでした。

株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部の甲斐駿介さん、山口順通さん

(上写真、左より)株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部の甲斐駿介さん、山口順通さん。

(※この記事は、株式会社リクルートライフスタイル提供によるPR記事です)

■ リクルートライフスタイルはなぜ、中小企業の経営・業務支援に力を入れているのか

株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 テクノロジープラットフォームユニット データマネジメントグループ 甲斐駿介さん

──まずは自己紹介をお願いします!

甲斐さん(以下、甲斐) 入社2年目で、新卒でリクルートライフスタイルに入社しました。現在は「Airメイト」の企画・開発全般に関わっています。

山口さん(以下、山口) Airレジのプロデューサーと、国内のAir事業における責任者をしています。

──リクルートライフスタイルの運営サービスといえば「じゃらん」「ホットペッパーグルメ」「ホットペッパービューティー」など、消費者向けのサービスが多くあります。それと並行して、「Airレジ」など、中小企業の経営・業務を支援するサービスを積極的に展開されています。この領域に力を入れるようになった経緯をお聞かせください。

山口 リクルートは紙の媒体を始めた頃からずっと、スモールビジネスの運営者の方々の課題解決を手掛けています。リクルートライフスタイルでは消費者向けWebサービスだけでなく、宿泊施設やヘアサロン、飲食店などの店舗をクライアントとして、「集客」という課題に対してその支援を行うサービスを長年提供してきました。

 集客の課題と向き合っていると、スモールビジネスの店舗さんが、集客以外でも困っていること、うまく解決できない課題などがたくさんあることが分かってきました。

──そこがAirシリーズにつながっていくんですね。

山口 もともとスモールビジネスや中小事業者さんとの接点はありましたが、そこで浮かび上がってくる課題に対して、業務支援とテクノロジーをさまざまな形で組み合わせることで、より大きな課題を解決できるのではないかと考えました。今春提供する「Airメイト」も含め、Airシリーズのビジョンは「商うを、自由に。」、ミッションは「お店をとり巻く煩わしさを減らし、自分らしいお店づくりができるようにする」です。その過程にある「お店を良くするために、お客様のために、本当はやりたいけれどそれを妨げるもの」の解決をサポートしていこうとしています。

■ Airレジからスタートしたシリーズの最新サービス「Airメイト」は、経営を改善するアシスタントに

──Airシリーズの最初のサービスは、2013年11月にリリースされた「Airレジ」ですね。

山口 「レジを作りたかった」というよりは、クライアントが困っていることを解決・解消すべく、これまでの経験×テクノロジーを生かすために生まれたのがAirレジでした。

株式会社リクルートライフスタイル ネットビジネス本部 Air事業ユニット ユニット長 Airレジ プロデューサー 山口順通さん

山口 レジという観点でいえば、既存のPOSレジ*1はいろいろなことができるけれど、どうしても操作が複雑になりますし、何より価格も1台数十万円、場合によっては100万円以上と高くなってしまいます。また、ガチャレジ*2は、価格は安いれけどできることは多くありません。ちょうどスマートフォンやタブレットのようなデバイスが普及してきた時期ですので、うまくテクノロジーを活用することで、「シンプル、カンタンに使えていろいろなことがスマートにでき、かつコストを抑えられる」というレジを提供することが、価値の一つになると考えました。

──Airレジの提供で、お店の課題解決はうまく進んできたのでしょうか。

山口 レジ業務以外にも、課題があることが分かってきています。Airレジを導入したクライアント、例えば飲食店さんにとって、確かに安くて良いレジを使えているかもしれません。でもレジそのものはサービスの本質ではない。飲食店さんが提供するサービスは、当然、「お客様に美味しい料理を食べていただいて、スムーズに会計を終えて気持ちよく帰っていただく」という一連の流れですよね。その中で、レジはAirレジを使って便利になった、でもクレジットカード決済をしたいと言われた瞬間に、全く違う別の端末が必要になり、支払い金額をもう1回その端末に入力しなければなりません。結果として、お会計時にお客様の待ち時間がその分発生して、お店の業務も煩雑になってしまいます。そこにAirシリーズの一つである、クレジットカード・電子マネーなどに対応した決済サービス「Airペイ」を提供できれば、会計金額を二度打つ必要はありません。

 Airシリーズのそれぞれのサービスは、同じような使い勝手・デザインでそろえていますので、手順を一つずつ覚え直す必要はありません。つまりお店にとって、Airレジだけを使うのではなく、Airペイなどいろいろなサービスと組み合わせることによって、点で存在するお店の業務──予約を受ける、注文を取る、配膳する、会計する──それらを一連の業務として線にしてつなげていけるんですね。単体で課題解決するよりも周辺サービスを充実させて提供することで、お店の煩わしさを解消できるということが見えてきています。

──新たにリリースする「Airメイト」は、経営改善のためのアシスタントサービスとのことですが、着想はどこからだったのでしょうか。

甲斐 僕は入社した当初、データ分析の部署でAirレジのアクティブユーザー*3を増やすためのグロース施策をしていました。3~4ヶ月くらいした頃、Airレジに日々たまってくるデータを見ていて、「これらをなぜ利活用しないんだろう?」と思ったんです。蓄積されたデータを加工すれば資産になると考え、実際にサービスを作ってみて、それがAirメイトの構想につながりました。

──甲斐さんが入社1年目から主力エンジニアとして「Airメイト」の企画・開発に関わったというのは、本当にイチからなんですね。山口さんはその時どのような立場だったのでしょうか?

山口 ちょうど僕も、甲斐と同じころにAirレジに関わり始めたんです。甲斐から「データをうまく活用してこういうことやりましょうよ! やらせてくださいよ!」と言われたので「OK、やろう!」と言いました。Airシリーズを始めたころからそういうことをやりたかったので、「やっとやれる、ぜひやろうやろう!」って。

山口 もちろん入社したばかりのエンジニアが一人でやるのは難しいので、人的リソースの相談、営業を巻き込むところをサポートしたり、周囲の人もサポートに入ったり。どちらかというと彼が何をしたいのか、それはなぜなのか、その目的のために何が必要なのかなどを整理して、必要なものを用意するという関わり方でしたね。

──Airメイトにおける「経験×テクノロジー」はどんなものですか?

山口 飲食店や美容院では、経営だけを考える人は少ないし、そもそも時間もありません。日々お店を回していくので精一杯です。一方、売上分析や丁寧なCRM*4などをもっとやっていきたい、生産性をよりよくしていきたいと考えていることが分かってきました。

甲斐 ホットペッパービューティーなどの既存のサービスでは従来、リクルートライフスタイルの営業担当がメニューを考えたり、そのエリアで流行っていることをお伝えしたりすることで、経営改善に関する部分を担保・実現していました。人がやっていたことをAIやデータ分析などのテクノロジーに置き換え、リクルートライフスタイルが運営する他の媒体のデータも併せて集約して、営業力でサポートすることによって、「店舗の経営状態を見る」ということをある程度コンピューターに任せられるのではないかと思いました。

山口 Airシリーズを使うことで少しでも時間が生まれたら、空いた時間で「お店がどうあるべきか」「今お店で何が起きているか」「次に何をしなければならないか」をもっとスムーズに考えられます。

■ プログラミングと店舗経営とGoogleのインターンをやって分かった、飲食店とテクノロジーの乖離

山口 店舗経営というのは、どうしても人的リソースに依存しがちです。売上が低下すると、他の店舗にいるスタッフを引っ張ってきたり、アルバイトを追加したり……中小の事業者さんが抱える課題というのは、生々しく言えば「家に帰れない」「休みが取れない」などで、それが常態化してしまっています。そのあたりは、甲斐が大学時代から飲食店経営をしているので、リアルで詳しい話が出ると思います。では甲斐くんお願いします!

甲斐 (笑)

──学生時代に飲食店を経営していたんですか?

甲斐 いえ、今もやっています。飲食店を友達と一緒に経営していて、あとはソフトウェア会社も……全部で3つくらいですね。本業は一応リクルートライフスタイルです。

──副業が3つですか?!

山口 何が本業なのかまったく分かりませんよね。リクルートライフスタイルは副業OKなんですよ。

──飲食店を経営していたから「Airレジの開発をやりたい」というわけじゃなかったんですね。

甲斐 そもそもAirレジの存在を知らなかったですね(笑)。

──なぜ飲食店を始めたのでしょう?

甲斐 友達の父親が飲食店を経営していて、そこの事務所でずっと寝泊まりをしていたんです。そのお父さんは結構ご高齢で、友達が大学を辞めて後を継ぐことになったので、僕は居候をしていたから手伝いを始めて……。気付いたら経営を一緒にやっていました。

──突然の始まりですね。

甲斐 僕の専攻はコンピュータサイエンスで、大学と大学院では機械学習と言語処理、AI系の研究をしていました。「店のシステムを作ってくれ」と言われたので、もう一人の友達にプログラミングを教えつつ、皿洗いをしながらシステムを作っていました。当時Googleでインターンをしていたので、ハイテク産業と店舗経営のリアルとの圧倒的な差を感じました。僕らが考えるようなシステムは、飲食店の人からしたら全然使えない、という当たり前の体験をずっとしていました。数字を入力する欄にコンマを入れるか入れないかとか、そういう細かい煩わしさがたくさんあって……。本当に直感的に、それこそ2秒以内で操作が完了しないとそもそも使ってもらえない。ずっともやもやしながら、最先端の研究をして、一方で飲食店経営の現場に携わって。

──大学で研究をしながら飲食店を経営してGoogleでインターンもやる、という3足のわらじは相当忙しかったのでは……。

甲斐 大学で研究はしていましたけど、試験期間の2週間ずつしか行ってないです。かなり自由でしたね。学校に行っていない分、朝から晩まで何にもやることがなく、店の事務所で起きて、プログラミングやって、昼ご飯を食べて、飲みに行って……基本的にそういう生活をしていました。

──自由な暮らしをしつつ、Googleのインターンに参加したのは、どんなきっかけからですか?

甲斐 プログラミングを完全に我流でやっていたんです。事務所に寝泊まりしている時に本を買ってきて、2~3個システムを作ったりはしたんですが、効率の悪い勉強の仕方をしていて「さすがに師匠が要るな」と気付いて、それはもうGoogleしかないんじゃないかと。ちょうど、日本とアメリカでアンダーグラデュエート(学部)のインターンが始まった年だったんですよ。それですぐ応募しました。

──専攻はコンピュータサイエンスとのことでしたが、プログラミングの原点は大学ではなかったんですね。

甲斐 学校では難しくてついていけなくて、つまらなくなったんです。Googleに応募する前に、大学の先生に「Googleに行きたいから鍛えてくれ」と頼んで、1ヶ月間みっちり鍛えてもらいました。そしたらやった問題がたまたま出ました。

──順番がすごいですね。

甲斐 Googleに行って、「こうやって勉強するんだ」って初めて分かりました。日本人は僕ともう一人だけで、周囲はアメリカの大学の人ばかり。「お前はスキルもビジョンもないし、いったい何なんだ」って年下の人に詰められる生活を送りました(笑)。

 でもそこで意識が変わって、初めてモチベーションのスイッチが入りました。学校でやっている話が、Googleのシステムではどう使われているかが分かったんです。Googleはアカデミックなものをうまくビジネスにつなげている会社なので、そこを生々しく見せてもらって、学校の勉強には意外と意味があるんだと思いました。大学に戻ってから、研究や勉強をきちんと始めたという流れです。試験でもずっと単位を落とす寸前だったのに、Googleから帰ってきたらほとんど満点という。

──その後にリクルートライフスタイルに入社されたんですね。

甲斐 母方の実家が、ロンドンで40年くらい続いた日本料理屋だったんですよ。店はすごく流行っていたけど、当時引き継いで経営できるような日本人がロンドンにいなくて、2005年くらいにたたんでしまったんです。全くシステム化もされていなくて、すごくもったいないと思っていました。大学で最先端の研究をしつつ、店でプログラムを書きつつ、これから働きに行って何か良いことってあるのかな、ってずっと悶々として、大学院を辞めちゃって。

──えっ!

甲斐 ふらふらしているところをリクルートライフスタイルに拾ってもらった……って感じですね。

──説明が追いつかない怒濤の展開ですね……。悶々としていたところから、あえてリクルートライフスタイルに入ろうと決めた理由は何ですか?

甲斐 大きく分けて2つあります。1つ目は「一緒に飲んでいた人が楽しかった」という理由です。もうちょっと掘り下げると、割とみんな小さい頃に苦労して、ぐれてしまってもおかしくないくらいなのに、意外と社会で真っ当にやっている人が多くて、それが素敵だなと。ベンチャーを立ち上げて自分の承認欲求のままに上場して、という生活をする人もいる中で、リクルートライフスタイルではそういう人も許容されながら、きちんと社会で生きているのはいいなと思いました。

 もう1つは、本格的に紙からネットに軸を移した会社がリクルートくらいしかなかったことです。Googleとリクルートを比べると、組織設計レベルでは全然違うんですよ。Googleはリクルートの100段くらい上にいる。でも、5年後はどうなっているか分からないですよね。完璧な組織を作ってしまうとなかなか変えられない。リクルートは変容できているというのがすごいと思ったんです。就職活動の雑誌を始めて、地方のクーポン誌がスタートして、気付いたらネットサービスになっていて、次は機械学習だとかAIだとか言っている。「なぜ組織としてそんなに変われるんだろう?」と興味を持っていました。そして、どうせまた変わるんだったら、その変わり目を自分の手でやってみたいと考えました。

──「自分の好きなことができる」というのはポイントにはならなかったのでしょうか。

甲斐 ちょっと違うかもしれません。エンジニアとしてそこを求めるなら、僕はGoogleやIndeedを勧めます。エンジニアとして働くなら本当にあんな良い企業はないと思います。でも、20代でその環境を「作る側」の人と一緒に仕事ができる可能性があるのはリクルートでした。

──環境や組織を作る側にいたい、ということなんですね。

甲斐 リクルートが周囲を巻き込み始めていたのも大きかったですね。Indeedの買収(2012年)、AIの研究機関「Recruit Institute of Technology(RIT)」にGoogle ResearchのトップリサーチャーだったAlon Halevy(アロン・ハレヴィ)を巻き込む(2015年)とか……外部のリソースに素直に頼れるのはすごいと思いましたし、その中で仕事をするのが面白そうだと感じました。

──会社の規模や資金があった上で「自分の好きなことができる」というのは大きそうですね。

甲斐 他の企業を巻き込みつつ世の中に何か大きいものを出すという仕事をするのは、ベンチャーでは厳しいし、Googleでやるには10年くらいかかる。リクルートライフスタイルはそういう課題に挑戦させてくれるし、ミスをしても「しかたなかったね」と言ってくれる余裕もあります。そういうところがとてもいいなと思っています。

──山口さんがAirメイトのスタート時に「やろう!」と言ったことも、そういう土壌があるからなんですね。

甲斐 はい。ビジネス面ではもともとありますし、エンジニアリングの組織でも今そこを作っています。国内企業の中ではトップクラスのエンジニアがいて、すごいスピードでエンジニアリングの体制が整っています。自分でベンチャーを立ち上げるならゼロから組織作りができますが、この規模の会社で変化できる会社は他にはありません。

■ 常に「今やっていることの目的は何か?」と自問自答

──変容や変化という言葉が先ほどから出てきていますが、大きな企業ではあえて意識しないと変われない組織もあるかと思います。「自分たちで変えていこう」という意識が常にあるということでしょうか。

山口 周りからの見え方は分かりませんが、「変化している側」にはあまりそういう意識はないです。なぜ変化していけるかというと、基本的には方法や手段は「How」でしかなく、「How」を最重要視していないからではないでしょうか。僕らも会社も、常に「Why(なぜそれをやるか)」「What(何をやりたいのか)」に目線を置いています。会社のメッセージとしては「社会の課題を解決していく」「新しい価値を生み出す」「一人ひとりが輝く」などいろいろありますが、根底には常に「もうちょっと世の中を良くしたい」という外に向けてのこだわりがあります。紙の媒体でやっている時代だったら紙でこだわりを実現すればいいし、今までと同じやり方でうまくいかなくなりそうだったらやり方を変えればいい。そして、やり方を変えるために組織を変える必要があれば組織を変えればいい……。

 もちろん事業はサービス業ですから、お客様に対してきちんとサービスを提供して、その結果収益を生むビジネスとしてちゃんと成り立たせたいです。そのために「どうしたらいいんだっけ?」と常に問い続けている。目的は変わらなくても、時代、環境、テクノロジーが変われば、当然提供するサービスの形が変わったりはしますよね。

──甲斐さんはその辺りをどうお考えですか。

甲斐 リクルートライフスタイルの事業は基本的に「情報編集力が高く、付加価値を生み出せる」ということでうまく回っているんじゃないかと思っています。今は良い時代で、データがたくさんそろっています。Airシリーズのデータ、ホットペッパーグルメやホットペッパービューティーのデータ、市場のデータがある。AI研究所であるRITもある。Indeedのようにいろいろなデータをクローリングして情報を集める技術もある。その状況で今やるべきことは、業務支援のために集めたデータを編集して、付加価値を付け、お客様に使ってもらうこと。それをどう進めるかについては現場の営業にナレッジがたくさんあるので、それを吸収しながらソフトウェアを作っています。まだ自分たちの構想が完全に実現できているとは思っていませんが、ビジネスを成功させるためには付加価値を生み出すことが大事だと考えます。

──Airメイトだけではまだ不十分なのでしょうか?

甲斐 「チャレンジし始めている」というフェーズですね。例えば、(アプリを見せながら)「この人のシフトが大変そう」という情報には価値がありますね。その手前でデータを見て、みんなのシフトを見て、という作業が要らなくなります。「この人には10%くらい接客する時間がある→この人はこれくらいの時間働いている→じゃあシフト調整しようか」で、アプリをタップしてシフト調整できるところまで情報を加工できる。そこで生きているのが情報編集力です。

甲斐さんのスマートフォンで表示した「Airメイト」の実際の画面。

甲斐 飲食店の本部が時間を割けない、またはそこまでできない場合があります。他の例えで言えば、「売上が2,000円下がっている」というデータだけではあまり価値がないんですね。「売上が2,000円下がっている理由は、ランチの集客が減っているからだ」、これはちょっと価値がある。「そういう場合、別の店舗ではこんな施策を打っていた」、ここまでいくとだいぶ価値がある。一番価値があって、目指しているのは、「ランチの集客が減った場合に、同様の状況で別の店舗がやっていた施策を、アプリのボタンをタップしたら実現できる」ということです。コンピュータとエンジニアリングでデータ分析と情報編集を走らせて、そういうビジネスが実現可能になります。ビジネスのトランスフォーメーションをするために、会社も組織もエンジニアも変革しています。

──「情報編集力が大事」というマインドはチーム全員が持っているのでしょうか。

山口 先ほどの自問自答の話に近いんですが、「いろいろなデータがあるから、データをきれいに整理してグラフにしました!」だけだと編集の意味がないんですね。結局誰がうれしくなるためなんだっけ? 僕たちがやりたいことってデータを加工して見せることだっけ? と考えると、あくまでもデータ加工は手段で、「僕たちの目的は、お客様にデータをうまく使ってもらって経営を楽にする、もっと売上を上げる、もっと楽しく働ける環境にする」と立ち返る。目的を常に考えるというマインドはチーム全員がぶれずに持っています。

 だから、よく聞く「AIを使って売上予測しました! 来週はいくらになります! すごいです!」みたいな話も、これは何か良いことあるんだっけ? 占いじゃないの? みたいな(笑)。それ単体では価値を作っているとはいえないわけです。僕たちにとってテクノロジーは一つの手段で、それによってお客様や来店する人が喜ぶ形に加工・編集できてはじめて「情報編集力」というものを生かせている、と言うと、イメージが湧きやすいと思います。

■ ごく自然に、「やりたいこと」に関する質問ができる

──エンジニアが、自分の得意な技術については詳しくても、「情報編集力」を最初から意識できているかというと必ずしもそうではないケースもあるかと思います。その辺りはどう解決しているのでしょうか?

甲斐 「とても問題解決力が高い人と優秀なエンジニアが組む」、または「とても優秀でAIなどのスキルを持っているエンジニアで、やったことはないけどちょっと問題解決をやってみたいという人をアサインして、会話の“壁打ち相手”をしながら機能を作っていく」の2つのパターンがあります。僕はエンジニアを単なる作業者にはしたくないので、後者の方がいいと思っています。例えば、もともと研究をしっかりやっていて、コーディングもできて、問題解決はしてみたいけど自分で手を挙げるのが苦手な人がいたら、一つ課題を共有します。「スマホで決められた期間の売上と客数の予測ができて、シフトの調整もできるという機能」まで落とし込んでみよう、という会話をその人として、考えていく感じですね。

──会話がすぐできる環境なんですね。

甲斐 チーム内ではとても会話しやすい環境ですね。さらに、僕たちのチームの場合は、お客様が非常に多く、ワンコールで話を聞けるお客様もいて、飲食関連法人の取締役の方が週に3人くらい会議のために訪問してくれるという状況があります。そういう環境があれば、エンジニアが何かちょっと思いついた場合でもすぐにお客様にヒアリングできるんです。これはリクルートライフスタイルだからできることです。客先に出向いて起案するほどでなくても、ごく自然に、それこそ社内を移動するくらいの労力で質問ができます。

甲斐 Airメイトで導入しているGoogle Cloud Platform(GCP)に関してはGoogleと一緒に定例ミーティングをしながら開発をしています。それに、ビジネスのためのロジックだけ書けばお客様にデータが加工された状態で届けられるようなライブラリもGoogleと一緒に作っています。課題についてはすぐ誰かに聞ける、それを反映するためにエンジニアが楽しくコーディングできる、それを使ってくれるユーザーもどんどん増えていく。そういう意味で、エンジニアリングにおいても楽しい環境です。

──GCPの導入については、Google Cloud Japanの公式ブログでも掲載されていましたね。技術面で大変だったところがあればお聞かせください。

甲斐 技術で苦労したところは大量にありました。まず、5人のチームで何千万、下手したら何億、何十億というレコードをさばいて、ユーザーに届けなければならないというのが大前提です。普通ならHadoopを使って大規模データの並列分散処理をするんですが、データがさらに膨大になる可能性があります。それが100万店舗分のデータになってもチームメンバーが共通で使えるように、データを取り出して加工して、それをWebから呼べるような形にして格納する……。こうした一連の作業を全部パッケージ化して、ちょっとコードを書けばそれが全部動くものをGoogleと一緒にまず作ったんですね。スケーラビリティはアクセス単位でも一緒で、Googleのアプリケーションのエンジンは、どんなにアクセスがきても、アクセスが来た瞬間にインスタンスが増えて、しかも低価格で利用できます。そのアーキテクチャや仕組みについて、誰かが他のサービスで使いたい場合に一からサーバを立ち上げなくてもいいように、コードベースで全部管理するといったような、少人数で素早く高度な技術を使えるようにする準備をたくさんしました。

──かなりしっかり「他社と組んで開発をする」という形だったんですね。

甲斐 うちのエンジニアと最近話したんですが、ここ5年くらい、技術の進化がすごく速いですよね。自分たちで作っていたらもう遅い。世の中に公開されているものをピックして、それを自分たちのクリエイティビティで組み合わせて便利なものを作っていくことが今後大事になってきます。リクルートライフスタイルではかなり速いスピードで、世界中で公開されているものを自分の発想で組み合わせて技術資産を作り、社会で求められるものを提供できる。こうしたスピード感のあるフロー自体がすごく面白いですし、クリエイティビティを磨く場としても面白い会社です。

■ グローバルスタンダードレベルを求めて成長していく環境

──エンジニア採用に際し、「スキルはあるけどクリエイティビティにあまり自信はない、でもそういう開発に興味がある」という人が門戸を叩いた場合は?

甲斐 うちでクリエイティビティを磨いてもらう、で全然問題ないです。最初から「こういうビジネスがやりたい」というのはなくてもいいですね。サービスは開発していけば愛着が自然と湧くものなので。

山口 エンジニアリングをツールとして、サービスにも興味を持ってくれている方であればうれしいですね。

甲斐 僕らのチームにはやることがたくさんあります。技術だけを磨き上げるというよりも、僕たちの世界観を面白そうだと思ってくれて、好奇心が強くて、外へ学びにいけるスキルの高い人にぜひ来ていただきたいです。いろいろな技術を組み合わせて新しいものを作りたいという人の方が学ぶスキルが高いことが多いので、その環境を作るのが僕の仕事だと思っています。

──今、チームにエンジニアは何人くらいいますか?

甲斐 エンジニアは10人弱くらいです。あとは営業、プロダクトマネージャー、UXを見るデザイナーがいます。

山口 サービス立ち上げフェーズなので、少数精鋭で機動的に、いろいろなことにチャレンジしていっています。

甲斐 エッジが立っているメンバーが多いですね。現時点ではそういう人を中心に集めようとしています。僕はメンバーの中では唯一エッジがないです。

──副業で飲食店の経営をされているのは「エッジがない」のでしょうか……?

甲斐 あ、スキル的な意味ですね。ビッグデータ基盤にめちゃくちゃ強いエンジニアがいたり、アーキテクチャをちゃんと組める人がいたり、海外でいろいろなデザインを手掛けてプロダクトもブランディングもいろいろやってきた人がUXのデザイナーとして入ってきたり……みんな「一芸」を持っていますね。

──今後の開発のビジョンについてお聞かせください!

甲斐 まずは「中に閉じない」ことですね。Googleと一緒に開発していることは先ほど言いましたが、例えばUXだったら、「toB系向けのUXの最先端はどうなっているのか?」という知見はリクルートライフスタイルでは持っていないわけです。その知識を外部へ取りに行くためには、グローバルスタンダードのレベルでスキルを持っていないと話が通じないんですね。

甲斐 Googleのエンジニアとアーキテクチャについてきちんとディスカッションするためには、自分もそこそこのレベルにいなければならない。社内でのスキルレベルというよりも、グローバルスタンダードレベルでは自分はどうなのか、足りない場合にそれを外部へ取りに行けるのか、ということが重要です。UXでも機械学習でもAIでも全部そうです。社内でもこうしたマインドに変わってきつつあります。全員が全員、最初から共通したマインドで入ってきてくれるとは考えていませんが、ステップアップをしていける組織じゃないと、「0→1の開発」はできないと思っています。

──会社の環境や会社が持つリソースをふんだんに使いながら、外部の知見を獲得していこうとしているんですね。

甲斐 例えばIndeed Tokyoには、日本でもトップレベルのエンジニアリングが存在します。そのエンジニアたちといつでもディスカッションができるような環境は、ベンチャーではいきなり実現しないですし、他の国内企業でもできないと思うので。

山口 やはりそこは規模の大きい会社ならではの、既存の顧客接点や企業間の関係性は強いですね。会社のものをうまく使い倒しながら、自分がチャレンジしたいことや実現してみたいことをいち早くやりたい、その中で自分も成長していきたいという方には、良い環境だと思っています。

──ありがとうございました!

[PR]企画・制作:はてな

文:宮島三緒

*1:POSはpoint of salesの略で、販売時点情報管理システムのこと。

*2:一般的なレジスターのこと。

*3:主にソーシャルサービスなどで、ある期間内に1回以上のサービス利用があったユーザーのこと。

*4:Customer Relationship Managementの略。顧客との関係性を重視した経営手法。