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foursquare、MyTown、ケータイ国盗り合戦 2010年はジオメディアの年?



◇ ゲーム性の強い位置情報サービス「foursquare」

先日、 IDEA*IDEAの「foursquare」紹介記事が話題になった。「Twitterの次はこれじゃね?」という強烈なキャッチコピーのタイトルで、はてなブックマークでは既に1000を超えるブックマークが付いている。このfoursquareとは、現在ほとんどのモバイル端末に標準装備されているGPS機能を利用して、自分の位置情報を他のユーザーと共有できるSNS。「Dodgeball」(参考:Foursquare, Dodgeball Returns From The Grave Better Than Before)という、Googleに一度は買収された(そして、放置されてサービス停止になった)モバイル向けの位置情報サービスのメンバーが、それに改良を加えて作ったサービスである。


ロゴにはフォースクエアのグラウンドとボールが描かれている。

この位置情報サービスは、上の記事でも紹介されているように、単に地図情報を表示できるというだけに留まらない。一つの場所に何度も通うことでMayor(市長)の称号を得られるなどのソーシャルゲーム性を付与することで、ユーザーがサービスを続けるためのモチベーションを維持する工夫が為されている。こうしたゲーム性は、例えば英語圏では長い歴史を持つローカルレビューサイト「Yelp」にはない特徴である。

◇ 熱い視線を浴びる位置情報サービス

英語圏では、このfoursquare以外にも、位置情報にソーシャルゲームの要素を加えたサービスが人気を博している。それらは「ジオメディア(geomedia)」と呼ばれており、上の記事にも書かれているように、英語圏の投資家たちの間では随分前から熱い視線が注がれている。代表的なところでは、以下のサービスが挙げられるだろう。

三番目に紹介したMyTownは、昨年末にスタートアップした後発サービスであるにも関わらず、この分野でツートップを走っていた上記のfoursquareとGowallaを一挙に引き離して話題になっている。これはジオメディアがまだ黎明期の混乱にあることを示す出来事と言えるだろう。

■ 「位置ゲー」とジオメディアは単純に並べてよいものか?

◇ 恐るべしガラケー! 2000年代初頭からジオメディアがあった?

ところで、ユーザーの中にはこれらのサービスを聞いて、「それって日本では昔からあったものでは?」と思った人も多いだろう。その疑問はもっともで、日本では既に10年近い歴史を誇り、近年再び脚光を浴びている「位置ゲー」の文化が携帯ゲームの世界には存在している。

上の2番目のエントリーでは、「位置ゲー」の歴史が一枚の絵にまとめられている。これを見れば分かるように、J-PHONE(現ソフトバンクモバイル)では早くも2000年に「クリックトリップ」という「位置ゲー」の先駆けとなるサービスが登場しており、さらに著者は2002年~2003年頃までを「位置ゲー」の”第1次爆発”であるとしている。近年の「位置ゲー」ブームは、長い時間をかけて成長し続けてきたこの市場における、二度目のブームなのだ。


マピオンが`05年から提供している「ケータイ国盗り合戦」(現行版は`08年から)。期間限定のイベントなども用意されている。

◇ ジオメディアはスマートフォン時代の申し子?

だが、こうした「位置ゲー」と海外の「ジオメディア」は、単純に並列に並べられるものではないのかもしれない。

GPSで現在地を把握すると、その周辺のレストランやバーなどのリストが表示されるのは日本のロケーションサービスと同じ。ただ他のアメリカのソーシャルメディア同様に、他社のソーシャルメディアと積極的に連携しようとしているところが、日本の一部ジオメディアと大きく異なる。

この記事によれば、既にfoursquareはAPIの公開を始めているという。foursquareが目指すのが、オープン化戦略で他社サービスと連携しながら、位置情報の世界におけるプラットフォーマーのポジションを狙うことにあるとすれば、話は全く違ってくる。これはキャリアや機種の独自規格への対応に汲々とせざるを得ない国内携帯サービス市場のそれとは、全く異なるカルチャーから生まれてきた発想と言えるだろう。
とは言え、リアルタイム・ウェブの世界においてTwitterが獲得したような地位に、まだfoursquareは達することが出来ていない。実際、MyTownが1ヶ月でトップ2社のシェアを抜いてしまったことからも分かるように、この分野ではまだ到底勝者が確定しているとは言えない。

■ 地方店の希望の星? 位置情報サービスの強力な集客力

◇ 手数料は2割! 顧客を地方の店舗に流し込むビジネス
それにしても、ここに来て位置情報サービスが熱い注目を浴びているのは、なぜだろうか? もちろん、GPS機能の精度上昇やサービス開発に余計な手間がかからずに済むスマートフォンの普及がそれを促した側面はある。しかし、もっと卑近な理由を言ってしまえば、実は位置情報を利用したサービスは、意外と儲かるのではとの期待が高まっているのだ。それにはクリックレートの高いエリアマッチ広告、そして、やはりリアル店舗との連携が可能というところが大きい。特に後者のからくりについては、国内の「位置ゲー」における成功例を報告した以下の記事を見ると、分かりやすいだろう。

国内最大手の位置ゲー「コロプラ」では、地方の土産店と提携して、その店で高額の商品を購入することでレアアイテムを獲得できる仕組みを採用しているのだという。この記事では客単価の大きさについて非常に興味深い証言があるが、その仲介料の高さにも注目したい。そもそも地方において高額の土産物を買うためのモチベーションは、かなりの程度まで「コロプラ」が提供したものであると言える。2割という仲介料は、ジオメディアがヴァーチャル空間で生み出す、現実空間とは全く異なるコンテキストに基づく(そして、強力な)顧客の導線設計が可能にしたものであると言えるだろう。
とは言え、実際に地方店との提携をしていくのはかなりの困難を伴う場面があるようだ。”地方格差”が生み出す運営上の苦労は「ケータイ国盗り合戦」の製作者の方が書かれた以下の記事に詳しい。

2009年はiPhone などのスマートフォンの世界的流行に加えて、国内でもmixiやモバゲーが”オープン化”するなど、これまで無用な労力がかかりがちだったモバイル端末向けサービスに、開発者が容易に参入できる環境がようやく整い始めた年だったと言えるだろう。


`09年、日本でのスマートフォン普及を促したSoftbank社の「iPhone 3GS」。

2010年は、こうした開発環境の整備を背景に、モバイル端末の特性を活かしたサービスが次々に現れてくるに違いないし、ジオメディアは、そうした潮流の中で極めて大きなプレゼンスを持つことになるだろう。ジオメディアの特性は、リアルタイムに取得した位置情報で、ウェブ上のコミュニケーションを活性化するだけに留まらない。この新しいメディアの最も際だった特性は、何よりも私たちの生きる現実世界に新しいコンテキストを上書きしてしまうことにある。それがどんな風に私たちの生活に新しい価値を提供し、また私たちの現実感覚を変えてくれるのか、筆者はとても楽しみである。

文: 稲葉ほたて

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