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祝アニメ化!森見登美彦×上田誠が語る『四畳半神話大系』と京都【後編】



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祝アニメ化!森見登美彦×上田誠が語る『四畳半神話大系』と京都【前編】 - はてなニュース

■京都で過ごした大学生時代

**――森見さんの作品は、ほとんどが京都を舞台にしていますよね。
 ええ。ただ、特に意味はなく、自分が京都に住んでいたから、っていうだけ。京都って日本全国の人が大抵1回は行っていて、想像しやすい街なんですよ。あと京都の外にいる人は、京都に幻想を抱いていることが多くて「京都だったらこういう変なことが起きるかも知れない」ってに受け入れてもらいやすいんです。それは何作か書いている内にわかってきましたね。割と理由は後付けです。
 京都って、老人の街っぽい感じがしませんか?と言うのも、僕、時間と空間を提供してくれる喫茶店がすごく好きなんですけど、京都はいいお店が多い。ちょっと忙しい街だと、「何時間以上の方はご退席ください」という紙が貼ってあったり、イスに背もたれがなかったり小さかったりして、時間空間の価値が高いんですよ。京都はそういうのがなくてゆったりしていて。若い時って時間に追われているというか、何かにつけて急かされることが多いですけど、年をとるにつれて時間の使い方がわかるようになるじゃないですか。そういう意味で“老人の街”。
 学生も大人も、お金持ちじゃなくて、時間持ちが多い。その人たちが持ってる雰囲気が、街に溢れてる気はする。
 時間泥棒に侵されていない街ですよね。


**――お二人って、大学生の時はどう過ごされてましたか?
 僕は18歳から劇団を始めて、それから劇団一色の毎日で、ずっとあくせくしてました。劇団メンバーの家を転々と渡り歩いているうちにヨーロッパ企画が始まって、そこからも忙しかったですね。
 僕は上田さんと違って、ライフル射撃部というクラブに所属していたんですけど、練習なんてほとんどしてなかった。理系の学部だったので、実験や講義でそこそこ忙しくて。でも、それ以外は四畳半でグダグダしていることが多かったですよ。たくさん本を読んで小説家になるために勉強してたのかと言われるとそうでもないし、アルバイトもしたくなかったし。あのころの自分が何をしていたのか、今でもよくわからないですね。特に4回生で研究室を辞めて休学した謎の1年があって、その時が一番ヒマでした。ヒマと言うか何もしていない。
 創作活動をするための1年間だったんですか?
 いやいや。そんな積極的なものじゃなくて、どうしたらいいかわからなくて途方に暮れていた1年でしたよ。
 へえー。
 小説家になるってはっきりわかってたら、もっとアクティブだったと思うんですけど。一応その年に書いた小説を応募してみたんですが、何もなくて。『太陽の塔』でファンタジーノベル大賞をいただいたのも、大学院に入ってからなんですよね。アルバイトで寿司を配達して、ココイチでカレーを食べて、自室の四畳半へ帰る毎日でした。本当に何をしていたのやら。
 ははは。
 なので、クラブとかサークルに対する憧れが強かったんです。今から思えばライフル射撃部も面白かったんですけど、そこにいるときの自分は「もうちょっと派手なことはないんかな」と思ってました。ただ、根が引っ込み思案なので…だから劇団とかそういうのはすごいなあと。
 活動量は多いですね。2回生のときなんて、ヨーロッパ企画の公演が年3回、劇団で5回と1年に8本の公演をやってました。ずーっとBOX棟*1にいて芝居を作っていると、軽音楽部とかすごく楽しそうなんですよ。他所のサークルBOXほど楽しそうなものはないというか。でも、たまに友達の友達に誘ってもらって他のサークルに遊びに行っても、結局いつものBOXに帰ってくるんですよね。楽しくて女子も多いんですけど、ノリがそぐわなくて。
 僕も、結局自分はそういう空間に入っていけなくて、そういうのが積もり積もって今学生モノを書いた時に、あたかも自分がそこに混じっていたかのような作品を書いちゃうんですよね。

■“左京区”という一つのサークル


**――『四畳半』の舞台となる左京区の思い出ってありますか?
 僕は、森見さんの作品を読み始めてから左京区に行く頻度が増えましたね。この作品の脚本も、ほとんど深夜の「からふね屋」で生まれました。
 へえー。
 あと、一時期出町柳に住んでいたこともあります。出町柳駅近くの「柳月堂」ってご存知ですか?
 ああ、あの名曲喫茶の。
 そうです。あの辺りに少しだけ住んでいて。憧れの場所だったので住んでみたんですけど、住んでも住んでも憧れでしたね。
 住んでも住んでも憧れ?
 はい。住んでもずっと楽しかったですね。まだまだこの街には何か埋まってるんじゃないかって。
 上京区や下京区は平坦で突き抜けていけるんですけど、左京区ってぽわーんと浮いちゃってる気がしますよね。距離的に見てもちょっと離れてるし。
 たしかに。鴨川が分断している気もしますよね。
 そうだね。街中にみんなでお酒飲みに行くことがイベントというか。わざわざ出かけていくっていう感覚。
 木屋町に行くときに思いますね。
 単純に距離の問題なのか、それとも京都大学とか哲学の道が絡まって左京区の空気を出しているのかはわからないんですが。あと、道が山に向かって斜めになっていて。街中の道は平坦になっていてどこにでも行けるんですけど、左京区は同じ京都でも、半分山に入りかけている気がする。

**――作中の至るところで鴨川デルタが登場しますが、デルタにはよく行っていましたか?
 大学の新歓コンパは大体デルタでしたね。
 僕もです。演劇人の集まるコンパは、ほとんどデルタでした。
 僕らが新歓で集まっていると、クラブの先輩が対岸から花火で爆撃しようとしたんですよ。
**――『四畳半』にも出てくるシーンですよね。
 まさにそのままですよ。その企画は失敗に終わったんですけど、何となく覚えていて、『四畳半』に取り入れました。
 賀茂大橋の上と下のデルタって彼岸な感じがしませんか?上って交通量も多くてあくせくしていて、下はゆったりとしていて。『四畳半』の中にも出てくる、「私」が賀茂大橋の上からデルタを見ると、明石さんがいる構図がとても象徴的で。たどりつけない彼岸というイメージ。
 そういえば今思い出したんですけど、高野川と賀茂川ってデルタで一つになって鴨川にじゃないですか。『四畳半』も4つの話が最後一つになる展開なので、デルタに蛾の大群が来るシーンがクライマックスになるのはすごくいいんじゃないかって。
 ああーー!なるほど!!
 そういえばそういう設定だった(笑)自分では凝って作ったつもりでいても、意外に忘れちゃいますね。

毎回、ドラマが起こる鴨川デルタ  ℂ四畳半主義者の会

 
**――京都で一番好きな場所ってありますか?
 やっぱり鴨川沿いは好きですね。今出川から三条までの鴨川沿いを女の子と自転車で2人乗りをしたら、こりゃもう間違いなくうまくいくっていうウワサが、学生のころにあって。でも、女の子って鴨川に対してあんまり思い入れがないっていうのが、やっと最近わかってきました。
 最近(笑)
 鴨川神話が崩れたんですよ!女の子に「京都の男はよく鴨川につれて行くよね」みたいなことを言われて。
 ええ!?そんな扱いなんですか?
 意外と批判的なんですよ。男子が「女子は鴨川好きだろう」と思い込んでいて、鴨川に連れて行きたがるって。
 なんか恥ずかしいなあ、それ。でも川沿いっていいですよね。僕、四条大橋の界隈に行くと、いつも想像力が刺激されるんですよ。
 わくわくしますよね。
 菊水ビルがあって、南座があって、古めかしい橋がわっと架かっていて…
 3Dな感じ。
 あの並びに行くと、いつもいいなあと思いますね。
 でも、立体物にグッとくるのも男子なんですって。
 あれ?じゃあ「ワクワクするだろう」って女の子に言ってもダメなんですか?
 男は建築物とか模型とか山とか立体的なモノが好きなんですけど、女の子は壁面の模様とかカタログとか平面のモノが好きなんですよ。これ、なんで発見したかと言うと、ヨーロッパ企画の公演で本当に立体的な舞台を作った時に、一切女子からの人気がなかったんですよ。これは新法則です。
 そうだったんだ(笑)
 だから年をとって、旦那が「山暮らししたい」とか言って熟年離婚しちゃうんですよ。
 それが原因!?新たな上田さん説ですね。
 女子に立体物を勧めるときは気を付けた方がいいですよ。話が逸れちゃいましたが、僕は映画「ヒポクラテスたち」に出てくる喫茶店「リバーバンク」も好きですね。
 荒神橋の西詰のとこにある?
 そうです。あそこも立体的で(笑)
 あとは、南禅寺、蹴上、インクライン辺りのモコモコした感じも好きかな。なので、アニメでインクラインが出てきた時は嬉しかったですね。
 インクラインは実際に見に行きましたよ。湯浅監督がぜひ絵にしたいって言って。
 原作にない話も、僕がやりそうな世界を上田さんが作ってくれるので、本当に嬉しいです。
 インクラインの回は自転車サークルの話なんですけど、本当は軽音楽部にしようと思ってたんです。「私」と小津が2人でライブをするんですけど、だれもお客さんが来なくて、でもそこにダイブしなければいけないっていう展開で。けど、まったくはまらなくて。
 それはそれで面白いなあ。
 軽音編はけっこう押してたんですけど、ボツになっちゃいました。

■アニメの見どころ

**――それでは最後に、アニメ『四畳半神話大系』のポイントを教えてください。
 情報量が多く、かつ必要な情報が何一つないような作品です。見事なぐらい。
 ははは。
 とてもいい“意味のなさ”を描いた作品なので、ぜひ見てほしいですね。
 本来自分が書いていないことを、自分が書いた作品のようにねつ造されている作品です。『四畳半』の要素をいろいろわかってもらった上で、自由に遊んでもらっている。原作を読んだ人たちも、アニメを全部見終わる頃には、どこが原作にあってどこがアニメにあるところなのか、曖昧になると思います。その境地で楽しんでもらえればな、と。



<四畳半神話大系>

四畳半神話大系
原作:森見登美彦 『四畳半神話大系』(太田出版/角川文庫)
シリーズ構成・脚本:上田誠(ヨーロッパ企画
監督:湯浅政明
制作:マッドハウス

  • フジテレビ 4月22日より、毎週木曜24:45~
  • 関西テレビ 4月27日より、毎週火曜25:29~
  • 東海テレビ 4月29日より、毎週木曜26:15~
  • BSフジ 5月8日より、毎週土曜25:00~
  • サガテレビ 4月29日より、毎週木曜24:45~
  • さくらんぼテレビ 5月15日毎週土曜25:05~

 *1…サークルの部室(BOX)が集まった建物

文: タニグチナオミ

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