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祝アニメ化!森見登美彦×上田誠が語る『四畳半神話大系』と京都【前編】


■一話目を読んだときに、戦慄を覚えた

**――『四畳半神話大系』が生まれたきっかけは何だったんですか?
 『太陽の塔』を出した後、太田出版の編集者さんに「ウチで『太陽の塔』みたいなくされ大学生が出てくる作品を書いて欲しい」と言われたのが、『四畳半神話大系』(以下『四畳半』)を書いたきっかけですね。当時は『太陽の塔』で出し切った感覚があったので、「もうネタがないです」と返事をしたんですが、「『太陽の塔』だけ出しても世間一般には届かない。同じ路線でもう1本書いておくといずれ届くだろう」みたいなことを言われたんですよ。それで「なるほど」と思って、くされ大学生の話を構想し始めました。
 くされ大学生(笑)
 同じパターンだと面白くないので、何かしら『太陽の塔』にはない構造をいれたいと思って、たまたま別の話で考えていた並行世界を取り入れようかな、と。その話は、昭和の歴史で『四畳半神話大系』みたいなものだったんですが、壮大すぎて挫折したんですよ。そこで、大学生のちんまい話だったら並行世界でも書けるかもと思って、書いてみたらいけたっていう。
 僕は初めて『四畳半』の第一話を読んだとき戦慄を覚えましたよ。まさかこれは全四話で複雑な相関をしているのではないか、と。
 戦慄(笑)
 第一話ではまだわからないことがたくさんあって、第三話、第四話とドキドキしながら読み続けました。例えば、羽貫さんは第一話で夜の街でちょっとすれ違うだけじゃないですか。「きっとこの先で何かあるんだろうな」というのはわかってるんですが、まだ小出し。あの感じが興奮しましたね。
 全体を書きあげた後に書き直す作業を繰り返して、網の目を複雑にしていったので、最初、羽貫さんは第一話に出てこなかったんですよ。その後、第二話を書いた時に出てきたので、後付けで登場させて調整しました。
 僕、最初に『夜は短し歩けよ乙女』(以下『乙女』)を読んだんですけど、あっちは一話ごとにパチッと完結してるじゃないですか。でも『四畳半』は断片的なシーンが多くて、読み進めるにつれて他の話にもつながるんだろうなあという余地を残している気がしましたね。
 『四畳半』は「実は4つは並行世界でした」って最後にわかる展開ではなくて、全部が並行していることを前提にしているんですよね。第二話を読み始めたら、第一話の冒頭と全く同じテキストが並んでいて。全体の並行を俯瞰したところから見て、とにかく繋げられるだけ繋いで、という感じで作ったので『乙女』とは違って、第一話を読んだときには割り切れないモノがたくさん残るんですよね。
 うん、たしかに。


■原作者にしかわからない“意図”を汲み取る

**――この作品をアニメ化するという話がきたときどう思いましたか?
 「正気か」と思いましたよ。
 はははは(笑)
 正直にそう思いましたね。と同時に、僕に脚本の話をいただけたのはすごく嬉しかったです。「この作品を誰か別の人がやるのは嫌だな」と思いました。僕は実際京都にも住んでますし、自信とまではいかないですが「きっと悪いものにはならないだろうなあ」と。いやはや、僭越な思いが…
 いえいえ!僕は上田さんが書くと聞いて、安心しました。
**――もともとおふたりはお知り合いだったんですよね?
 ええ。なので『四畳半』のアニメ化制作陣に上田さんの名前を見つけた時は「もう大丈夫だな」と。
**――子を嫁に出す感じで。
 そうですね。安心してお嫁に(笑)でも、実際に脚本を書くのは大変な作業だったと思います。
 いやあ、難しかったですねえ。うん、難しかったですよ。
 繰り返しましたね(笑)
 何が難しかったのかな…。例えば、恋愛シミレーションゲームの「ときめきメモリアル」ってそれぞれにエピソードがあって、それはそれで読めるというより、一個一個のエピソードを串刺しにしたお団子のようなゲームなんですよね。
 それぞれがパーツになっている?
 そうなんです。ジャンルもストーリーも全く違うんですが『四畳半』にも似たモノを感じたんですよ。どう並び替えてもいいというわけじゃないんですけど、お団子のパーツ、一つ一つが重要だなって。小説だと全4話のストーリーをアニメでは11話構成にしなくちゃいけないときに、ぼんやりと「お団子を並び替えないといけなんだろうなあ」と考えました。そして、原作を何度か読んでいるうちに、エピソードをバラバラにして別の順番に入れ替えて、かつ全体の印象を損なわないようにすることは、きっとできるんじゃないかなと思えるようになって、全4話の並行世界を全11話の並行世界にする大体のイメージがまとまって。で、ミーティングで提案したらけっこう好感触だったので、「それで行こう」と。

**――確かに、アニメの第1話を見せていただいて、原作からかなり大きく構成を変えた印象を受けたんですが、森見さんはどう思いましたか?
 僕はもう全然問題なしですよ。というか僕、小説の『四畳半』の詳細を覚えていないんですよね。
 いろんな所で「森見さんが覚えていないんです」っていう話を聞きますよ。
 僕、初めて湯浅監督とお会いする時に、頭の中に『四畳半』の詳細があると思い込んでいたら、いざ向かい合った瞬間にほとんど覚えていないことに気付きまして。
 あまり出てこないんですがカギを握っている小日向さんという女の子がいて。打ち合わせの席では「小日向さんの使い方がカギを握っているんじゃないか」って何度も議論が交わされて、湯浅監督が「思い切ってご本人に聞いてみよう」って言って森見さんに尋ねてみたら、「小日向さんって誰でしたっけ」って。
**――予想外の返答ですね(笑)
 小津と関係があることはぼんやり覚えてたんですけど…それ以上は…出てこなくて。まあそれが小説のいいところですよね。読んだ人がみんな、それぞれに解釈できるっていう。
 まさかのエピソードでしたよ。
 いやあの時本当に恥ずかしくって。湯浅監督の役に立つことを、何も言えなくて…。
 僕も原作を預けたことがあるんですけど「ここ大事なのになんか違う」ってことが意外とあって。やっぱり、それって本人しかわからないんですよね。
 ニュアンスと言うか本人の思い入れと言うか。
 そうなんですよ。自分の中で繋がっている部分ってあるじゃないですか。例えば、『四畳半』に出てくる「図書館警察」が「図書館ポリス」って書き換えられたとして、もしかすると森見さんの中では、スティーヴン・キングの『図書館警察』と繋がっているかもしれない。そういうことって、物語のどこに潜んでいるかわからないじゃないですか。埋もれている情報を森見さんに聞きながら、注意して作業していましたね。
 僕は、上田さんがやってくれるということで安心していたし、いろんなエピソードを盛り込んで『四畳半』を膨らませてくれるだろうなあと思ってました。いろんな人と劇団をやっていた上田さんの方が、僕よりアグレッシブに大学生時代を過ごしていたはずですし。あと、自分で文章を書いたものしか“自分の作品”という思い入れがなくて。アニメ化やマンガ化とか、生んだ先はわりと希薄になる。
 他所に出すこともですか?
 そうですね。出した先でちゃんと面白くなってくれれば、それでいい。これまで、自分の手を離したものがどんどんわけのわからないモノになるっていう経験もないので、あんまり抵抗がない。
 なるほど。あと、『乙女』はすごく派手なイメージで、『四畳半』はちょっと落ち着いている感じ。色合いで言うと、バラ色の日々を目指しているのに全然バラ色じゃなくて、薄暗い感じがして。湯浅監督がアニメーションにするとき、そのおいしさをどう感じてもらうか、というところも難しかったです。でも、『四畳半』って「私」の妄想が多くて、それを絵にすると意外と膨らむことがわかって、そこはホッとしましたね。

■第1話を見終えて


**――実際に映像になったものを見て、どう思いましたか?
 すごかったです!本当に、すっごくおもしろかったんですけど、あれ初めてみた人はビックリするんじゃ…。
 いや、たぶんビックリすると思いますよ。僕、アニメなので20分くらいの脚本だなと思って書いてたんですけど、「全然足りない」って言われて。いや、正直ナメてました。書き直してみたら、1時間ドラマより文字数が多いんですよ。僕、いつもキロバイトを文字量の目安にしているんですけど…
 文字数じゃなくてキロバイトなんですね。
 そうなんですよ。ドラマの脚本って大体20~30キロバイトで、25キロバイトくらいで約60分なんです。でも『四畳半』は書いているうちに30キロバイトくらいになって、「あれー」っと思ってたら、映像ではあんな感じで。1話は特にヒドイと思います。脚本家と声優泣かせ(笑)
 確かに、「私」の台詞に圧倒されました。いや、本当に面白かったんですけど。特に、古本市で「私」と明石さんが話すシーンとかすごく綺麗ですよね。明石さんちゃんと可愛くなってるし!
 明石さんは本当にかわいいですよね。文字数に関して言うと、今までのアニメーションで最も多いかもしれないですよ。しかもしゃべっているのは、ほとんど「私」一人っていう。まだ先の話なんですが、10話もすごい。ほとんど小説の「八十日間四畳半一周」のままなので。
 それはかなり楽しみですね。

■登場人物に対する“憧れ”


**――主人公の「私」には、どういう感情を抱いていますか?
 うらやましいです。ああいう、非生産的でモヤモヤと遊ぶ経験をしたかったんですけど、常に公演の本番が迫っててなかなかできなかったので。
 僕はキャラクターを作るときに、自身の要素をいじっていびつな人間を作って、自分と違うものにしていくんです。『四畳半』の「私」って自分とかぶっている部分もあるんですけど、僕よりもずっと思いつめているし、僕よりもっと尖がっている。僕は「私」のように世間に嫌悪感もないし、むしろあれぐらいアグレッシブになれたらいいのにって。ダメ人間ではあるんだけども、ダメ人間なりにいろんなところに出て行っていろんな人に会って、何かをやっているというのは純粋に憧れますね。あそこまで歪みたいというわけじゃないんですけど、あの変な人たちと平気で交わっている部分はすごいと思う。

四畳半の主・「私」 ℂ四畳半主義者の会

**――一番好きなキャラクターとかシーンってありますか?
 好きというか、小津の暗躍ぶりは本当にすごい。小説でもアニメでも、そんなことは不可能だろうと思うくらい暗躍してますね。小津って僕の憧れなんですよ。小津みたいに得体のしれない人間になって、人をおちょくってみたかったです。あと、アニメは樋口さんのアゴにビックリしました。
  そうそう。樋口さんを美形にするかどうかで、かなり迷ったんですけど。
 僕は、樋口さんを「茄子のようにしゃくれた顔」って描写したことをほとんど覚えてなかった(笑)そういえばそんなこと書いたなって。中村さんのデザインを最初に見たとき、「このアゴちゃんと動くのかな」って心配していたんですが、アニメで樋口さんがちゃんとしゃべっているところを見て安心しました。
 ははは。確かに。
 樋口さんって、どんなお話でも不思議な出来事と主人公を繋いでくれる、“門”みたいな人なんです。なので『乙女』にも出すことができた。小津も別の作品に出してみたいんですけど、みっちり作ってやらないと暴れてくれない人なので、うかつに出せないんですよね。
  なるほど。
  『四畳半』って小津と「私」が離れがたいっていう話なので。もちろん明石さんもいますが。『四畳半』で2人がピッタリくっついているので、小津だけ離れさせるのがどうやっても難しい。
 バディみたいな感じですもんね。2人で1セットというか。
 2人の友情というか、よくわからないモノが『四畳半』のキーワードなので。
 悪縁ですよね。
 そうそう。使えるものなら、また登場させてみたいですけどね。難しいだけに余計気になる。
 僕は、ジョニーと香織さんがしゃべるところが好きです。ラブドールの香織さんとジョニーとの会話って、結局主人公の幻聴でただ一人でしゃべっているだけなんですよね。書いている途中で気付いて、楽しくなりました。
 楽しくなったんだ(笑)そっか、原作では香織さんはしゃべらないもんね。
 アニメでは香織さんしゃべるんですよ。ジョニーが香織さんを口説き出す回は、『四畳半』の中でもテンションの高めの、常軌を逸した展開になっていますね。
 それは放映が楽しみ。確かに、「私」とジョニーがしゃべるシーンは僕も書いててすごく好きだった。ジョニーって微妙にいいヤツというか男前な部分があって。僕、ジョニーを西部劇のカウボーイのイメージで書いたんです。
 あははは。この回「ラブドールだけでどうやって1話やるんだろう」と思ってたら、妄想だけでいけてしまったんですよ。

アニメではしゃべる!ラブドールの香織さん ℂ四畳半主義者の会

 僕はまだ1話しか見ていないけど、話を聞いてるとすごい内容になってそう。
 原作のテンションと湯浅監督のテンションが違っていて、かなり高めですね。とにかく情報をたくさん詰めて、それでも『四畳半』になる橋渡しを湯浅監督がきちんとしてくださって。当初、湯浅監督からもらっていたプランでは、四畳半のアパートと別のアパートが合体して、巨大ロボットになって戦うとかという話も出てましたよ。あとは、地下プロレスの話とかもありましたよ。結局、原作を膨らませて妄想の中で遊ぶ方向になったのでなくなっちゃいましたけど、面白い作業でした。
 ストーリーにならなかった断片だけでも、すごく面白そう。
 3話と5話が一番原作にない要素が入っている回かもしれないですね。
 昨日か一昨日に5話目の絵コンテを見て、やっぱり面白そうだなあと思いましたよ。自分が膨らませられなかった部分が膨らんでいて。早く映像で見てみたい。



お二人が語る京都の街――後編
祝アニメ化!森見登美彦×上田誠が語る『四畳半神話大系』と京都【後編】 - はてなニュース

<四畳半神話大系>

四畳半神話大系
原作:森見登美彦 『四畳半神話大系』(太田出版/角川文庫)
シリーズ構成・脚本:上田誠(ヨーロッパ企画
監督:湯浅政明
制作:マッドハウス

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文: タニグチナオミ

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