出版のプロによる“きもちわるい”Webコミックサイト「Champion タップ!」インタビュー

特集「電子書籍マンガ/Webコミックの新潮流」

秋田書店は7月4日、Webコミックサイト「Champion タップ!」をオープンしました。「かっこいい、きもちわるい、大好き まんがは全部しってる。」という変わったキャッチコピーのもと、「空が灰色だから」などを発表している阿部共実さん、「花のズボラ飯」の作画を担当している水沢悦子さん、2013年にデビューしたばかりの新人・たばようさんら、多種多様な作家のマンガを掲載しています。すべて新作で、閲覧は無料。ユーザー登録なども必要なく、パソコンやスマートフォンなどから気軽にアクセスできます。

マンガの出版社が購読料も広告もとらず、“今のところ赤字”で望むWebコミックサイトはなぜ作られたのでしょう。「Champion タップ!」を担当する、秋田書店の秦洋一さんと坂井妙子さんに取材しました。

(c)水沢悦子(秋田書店)
マスコットキャラクター「タプ」は水沢悦子さんがデザイン

Champion タップ! Champion タップ!

■ 「きもちわるい」は悪い言葉じゃない

――オープンから2ヶ月以上が経ちましたが、反響は?

 当初の想定より、数倍のアクセスをいただいています。オープン直後はアクセスが殺到して、すぐにサーバーを増やしました。

――読者の反応は?

 Twitterやブログなどの反響を見る限り、大変良いと認識しています。「Champion タップ!」に設けた感想フォームにも、たくさんの意見を寄せていただいています。

坂井 こうしてほしい、ああしてほしいという要望はあまりなくて、作品の好意的な感想が多い印象です。

――「Champion タップ!」の企画はいつごろから?

 2012年の秋ごろでしょうか。2013年4月に秋田書店のサイトリニューアルが決まっていたので、新作のマンガが読めるサイトを併設しようと考えました。

(c)秋田書店
「Champion タップ!」PC版のトップページ

――阿部共実さんや水沢悦子さんなど、ネットユーザーやいわゆるサブカルチャー好きに響きそうな執筆陣を揃えていますね。

 すごく極端なことをいうと、「Champion タップ!」の執筆陣は、各編集者が好きな作家、注目している作家ばかりです。せっかく新しい媒体をネットでやるので、今までの雑誌の枠にとらわれない描き手を集めたくて。社内の全編集部に「掲載したい作家がいたら手を挙げてください」と声をかけました。

――なるほど。

 秋田書店の雑誌は、一般の読者に向けて、コンビニなどで手にとってもらいやすく、気軽に読んでもらえる作品作りを主にしているものが多いんです。長く続いている雑誌も多いので、読者層が固定していて。僕たちも、雑誌にとらわれて作っている節があり、雑誌で人気が出ること、雑誌で読者を呼ぶ人という観点で作家さんを選定しがち。

「Champion タップ!」ではその思考を1回止めました。ネット上で話題になり、既存の雑誌とは違う読者を引き寄せることを狙っています。とはいえ、『週刊少年チャンピオン』で書いてもらっていたことがある作者もいますし、雑誌そのものを否定しているわけでもない。紙から訪れる読者にも、もちろん期待しています。

(c)阿部共実(秋田書店)
阿部共実さんは「死にたくなるしょうもない日々が死にたくなるくらいしょうもなくて死ぬほど死にたくない日々」を連載

――秋田書店といえば“ヤンキーマンガ”というイメージがありますが、サブカル層を狙ったということですか?

 いえいえ、意識してサブカル方面に振っているわけではないです。「花のズボラ飯」のヒットや季刊誌『もっと!』の発刊で、サブカルのイメージが強くなっているんだと思いますが、イメージを払拭しなければいけないほど、ヤンキー色をネガティブには思っていない。サブカルの方面をやりたい編集者がいれば、そういう作品が生まれていくというだけですね。ただ、「花のズボラ飯」が「このマンガがすごい!2012」の1位に選ばれたことで、会社や編集者を後押ししたところはあると思います。

――キャッチコピーの中にある「きもちわるい」というフレーズが気になります。

坂井 キャッチコピーは、私の中でふっと思い浮かんだものをそのまま使用しました。作家陣がひとくせある作品を描く方ばかりだったので、「こういうの好きじゃないですか?」という読者へのメッセージを込めています。

「きもちわるい」は悪い言葉じゃなくて、「すき」だったり「すてき」につながる言葉だと思っています。そういう気持ちに賛同してくれる人もいて、読者の方から「コンセプトを表現する場所に“きもちわるい”が入っていてうれしい」と言われたこともあります。

(c)水沢悦子(秋田書店)
水沢悦子さんの「おしえて。ポコ先生」は『もっと!』掲載「ヤコとポコ」の出張版

■ マンガのコマを“合法”で共有

――閲覧無料は、最初から考えていたんですか?

 そうですね。見てもらわないと始まらないですから。最終的には紙のコミックス、もしくは電子書籍化で採算を取る予定です。

――ビューアはオリジナルですか? ページめくりがスムーズで、スマートフォンでもストレスなく読めるのがとても印象的でした。

 自社サイトのコミックス試し読みでも使用しているビューアに、「Champion タップ!」オリジナルの機能を付けています。「Champion タップ!」へのアクセスを日常化してほしいという願いがあったので、ストレスなく、さくさくマンガが読めるよう意識しました。

(c)施川ユウキ(秋田書店)
ユーザーインターフェース(UI)は至ってシンプル

――拡大、縮小、ページ移動など、機能が最小化されているので、誰でもすぐに使い慣れそうですね。

 UIでつまずくと、読者が来てくれなくなるという危機感があって。通勤電車の中で、あるいはランチを食べながらなど、“ながら”で見られる気楽さ、手軽さが欲しかったんです。

今まで、パソコンで何かを閲覧するときって、マウスで“クリック”して見てましたよね。でも、タブレットやスマートフォンの普及で、多くの行動が“クリック”から“タップ”へ移行している。ワンタップでも減らして、目的のコンテンツにスムーズにたどり着けるようにしたかった。「タップ」という名前を付けたのも、そんなコンセプトからです。

――オリジナル機能の1つ、「1コマシェア」はマンガの“コマ”を共有できるユニークな試みですね。

 あれは、秋田書店のメディア部のアイデアです。作家と編集者が選定したおすすめのコマがTwitterで共有できます。

坂井 雑誌に載っているコマの写真を撮って、ネット上にアップするのって著作権的にはNGじゃないですか。でも、2ちゃんねるやTwitterなどに取り上げられたものが話題を集めて、出版社に利益を生むというパターンがある。なので、こちらが決めた1コマだけ“合法的”にシェアOKにしました。共有する際、マンガのリンクも自動的に投稿されるので、気になったコマがあったらすぐに作品を読めます。

(c)施川ユウキ(秋田書店)
シェアできるコマは毎話異なる

■ 作家と一緒に考えて、マンガを商品にする

――既存の雑誌の電子書籍化ではなく、新しい媒体を作った理由を聞かせてください。

 秋田書店の少年誌と少女誌の垣根を取っ払って、フラットなスタイルで企画を持ち寄り、作品を発表したかった。他社がやっているように、現行の雑誌をそのまま電子化して、付加価値を付けて商品として販売するのは、うちはまだ準備が整っていなくて。

今は「Champion タップ!」が、「秋田書店ってこういうことをやってるんだ」と知ってもらうための宣伝ツールになればいいと思います。いわゆる電子書籍ビジネスにつながるかといわれると、まだまだわかりませんね。

(c)秋田書店
狙い通り、掲載作品のジャンルは恋愛、SF、ギャグと多岐にわたる

――「Champion タップ!」は出版社によるWebコミックサイトですが、個人でWebコミックを発表している人たちもたくさんいます。無料で面白いマンガを生み出す作家に、思うことはありますか?

坂井 読者としてなら「ラッキーな時代が来たな」と思いますが、編集者としては「怖いな」と。編集者や出版社が不在でも、誰も損しない状態で読者にマンガが届けられますから。自分が担当している作家ももちろんですが、プロ作家の作品が個人のWebコミックよりちゃんと面白くないとダメな時代がきたと思います。クオリティと発表の頻度を保証してマンガを読者に届けるのは、商業誌にしかできないから。

 例えば「Champion タップ!」だと、「クオリティが高い」「読みやすい」「安定感がある」というようなコメントをよくいただきます。もちろん、作者の実績によるところが大きいですが、編集者と作家とのやりとりが生んだ声でもあります。生まれたままの作品を発信するのではなく、編集者が読み、作者にフィードバックして、ブラッシュアップされている。編集者の勝手な思い込みかもしれませんが、一応プロの読み手を自負していますので。

個人でWebコミックを発表している人たちを否定するわけじゃないですが、出版社は作品を商品にしなくてはいけない。読者の“フック”に引っかけて、お金をいただくに値する作品を作るのがプロの作家の仕事だし、作家と一緒に考えるのが編集者の仕事だと思います。

――「Champion タップ!」の目標は?

 1日でも長く続けることです。読者がいつ来ても楽しめるよう、何かしらの新作が常にあるサイトにしたいですね。

8月末には、新しい作品が登場しました。1つは、カラスヤサトシさんが『もっと!』で連載している「おとろし」の出張版。ほか、カレー沢薫さんの「国家の猫ムラヤマ」、サメマチオさんの「わっちゃんはふうりん」、マンガ・まるよさん、投稿MC・倉富益二郎さん/三平×2さんの「私たちの部にはまだ名前がない。なので今決めている。」の計4つです。

 

(c)カラスヤサトシ(秋田書店)(c)マンガ:まるよ、投稿MC:倉富益二郎/三平×2(秋田書店)
「おとろし」出張版と「私たちの~」のイラストカット

――ありがとうございます。これからも“きもちわるい”マンガ、楽しみにしています!

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