はてなブックマークニュースでは、特集「電子書籍マンガ/Webコミックの新潮流」と題し、2013年春~夏にマンガの電子書籍アプリやWebコミックのサイトをリリースした出版社へのインタビューを公開しています。第2回は、講談社の電子書籍アプリ「Dモーニング」です。
特集「電子書籍マンガ/Webコミックの新潮流」
- 第1回:目標は100万DL ジャンプ編集部が本気で作る電子書籍アプリ「ジャンプLIVE」の狙い
- 第2回:敵は“見放題”のWebサービス マンガのライトユーザーを狙う電子書籍アプリ「Dモーニング」
- 第3回:出版のプロによる“きもちわるい”Webコミックサイト「Champion タップ!」インタビュー
「Dモーニング」は、週刊マンガ雑誌『モーニング』の電子書籍アプリです。『モーニング』発売日と同じ毎週木曜日の午前0時に最新号を配信し、月額は500円(税込)。ダウンロードは無料で、1号分を試し読みできます。5月16日にiOSアプリとしてリリース。8月29日(木)から、読者の要望が多かったというAndroid版がスタートしました。
週刊マンガ雑誌が、電子書籍で定期購読できるサービスをスタートしたのは、「Dモーニング」が初めて。どの出版社も挑戦していなかった新たな試みは、どのように生まれたのでしょうか。「Dモーニング」の運用を担当している、講談社デジタル第一営業部の吉村浩さんと大竹弘樹さんに取材しました。
(c)講談社
有料登録後は、登録期間内のバックナンバーを何度でもダウンロードできる
▽ Dモーニング | 週刊マンガ雑誌「モーニング」の最新号が読める!
■ ライトユーザーの増加は、単行本の売り上げにつながる
――「Dモーニング」はなぜ生まれたんですか?
吉村 『モーニング』の編集長と、3年ほど前から電子書籍化について検討していました。ただ、雑誌のデータは重いし、かなりの量になる。当時はまだ、Wi-Fiの環境も整っていませんでしたし、スマートフォンやタブレットの普及率も今ほどではなかったので、「まだうまくいかないよね」と話していました。納得のいくものが作れるよう議論を重ねてきた中で、ようやく環境が整ってきたと感じ、リリースしました。ここ3年で電子書籍も増えて、著者の方々のご理解も得やすくなってきましたし。
――3年も前から!
吉村 編集長は、マンガのライトユーザーを増やしたいという意志がとても強くて。今のマンガ業界って、雑誌よりも、掲載作品の単行本の方が発行部数が多いケースが多々見られるんですね。しかし本来は、まず雑誌で作品に出会って、それから単行本を買うという流れだった。増加したライトユーザーがさまざまな作品に出会い、より単行本の売り上げが伸びる循環が起きると考えています。
――リリースから3ヶ月が経ちましたが、反響は?
吉村 Twitterやブログで「ビューワが読みやすい」「安すぎる」など、非常にいい評価をいただいています。無料ダウンロードしたユーザーのうち、12~15%が有料課金に移行しています。講談社ではさまざまなアプリをリリースしてきましたが、無料から有料への移行は1%を切る場合もあるので、相当数の方が気に入ってくださったんだなと。解約も想定していたよりも少ないですね。購読数も、着実に伸びています。ただ、もっと増やしたいとは思っています。
――「Dモーニング」の発売後、紙の『モーニング』の販売部数は落ちていないんですか?
吉村 まったく落ちていません。やっぱり紙には紙の良さがあるんですよね。通勤途中に「あ、今日発売日か」と気付いて、売店で買って、すぐに読みたいところを読める。「Dモーニング」では、プッシュ通知で最新号の配信を知らせていて、すぐにダウンロードして読みたいときに気軽に読める。それぞれに、いいところがあると思っています。
(c)講談社
表紙のイラストは一部を除き本誌と同じ。タイトルや文字情報はオリジナル
■ 徹底したこだわりが生んだ、ストレスのない読書体験
――どうして“アプリ”でリリースしたんですか?
吉村 読者にストレスなく読んでもらうための見せ方やデータの管理などを考えると、アプリの方が制御しやすかったんです。ブラウザビューワは、どうしてもそれぞれの環境に依存しちゃいますし。
――Kindle化の予定はないんですか?
吉村 定期購読してほしいという願いがとても強いので、まだ考えていませんね。作品やシステムに反映するため、できるだけユーザーとダイレクトにつながっていたいと考えています。
――なるほど。
吉村 出版ってB to C(企業と一般消費者の取り引き)に思われがちですが、紙の商売として考えると、取次業者としか向き合ってない。もちろん、読者の声は聞いていますよ。
ただ、物流も、読者の反応もすべてがダイレクトなのは、我々には初めての体験なんです。しかも「モーニング」という講談社の大看板を使っている。この新しい流れで、著者の方により多くの読者がついて、単行本がより多く売れて、最終的にマンガ業界がより広がっていけばと考えています。
(c)講談社
高解像度かつスムーズな操作性を実現したビューワ
――ストレスのない読書体験ということですが、UIにもかなりこだわられた?
吉村 はい、編集部が尋常じゃないこだわりを見せました。僕たち営業部は仕事柄、かなりの数の電子書籍ビューワをチェックしているので、「ここは技術的にしょうがないな」と割り引いてしまうところがあるんです。でも編集部は「こうじゃないと! 」という熱意がすごくて。結果、目次1つとっても見やすい、とてもいいものが出来上がったと思います。
大竹 よりよいものへブラッシュアップするため、Twitterや問い合わせ窓口に寄せられたユーザーの声も参考にし、リリース後も積極的にアップデートしています。
――ロード画面に横山キムチさんのシュールなイラストを採用されていますが、これもこだわり?
吉村 ロード画面は「ただ待つだけじゃ嫌だよね」という意見から生まれました。横山先生に毎週描き下ろしてもらっているので、もはや連載です。
(c)講談社
かわいい
■ 「島耕作」のモザイクは「お察しください」
――「Dモーニング」34号(7月25日配信)に掲載されていた、「島耕作スペシャル傑作選 大町久美子ベスト☆セレクション」で、見開きにわたってモザイクのページが掲載されていましたよね。あれはその……どうされたんですか……。
大竹 読んだことがある方ならわかるんですが、相当エロティックなシーンでして……。配信前に指摘されたわけではないんですが、少し怖いなと思い、予防線を張りました。話題になるといいなという思いも込めて。編集長も「お察しください」とツイートしてました(笑)。
吉村 意外とそういうところに時間かかったりするんです(笑)。
大竹 ただモザイクをかけただけじゃなくて、強さや濃さを試行錯誤して、かなりこだわっていますね。
(c)講談社
配信ギリギリまでこだわったモザイク
――『モーニング』は青年誌ですし、これからも直面する問題かもしれませんね……。
吉村 次にどういう処理をして切り抜けるかという楽しみがあります。
――ただ電子化するだけでなく、モザイク1つにもこだわると(笑)。「島耕作」シリーズの特別編のように、オールカラーの作品を掲載したり、ドラマ化された三宅乱丈さんの「ぶっせん」やかわぐちかいじさんの名作「沈黙の艦隊」などを復刻版で連載したりと、特典も豪華ですよね。
吉村 「Dモーニング」は雑誌のアプリなので、どうしても作品を途中から読むことになってしまう。復刻連載のような、どこから入っても面白い仕掛けを常に作ろうと思っています。入り口で立ち止まる読者に「いっぱい新しいことをやっているので、入ってくださいね」という仕掛けをどこまで作れるか、「Dモーニング」の存在自体をどうやって広げるかなど、これからもどんどん試行錯誤していくつもりです。
電子だからできないこと、電子でしかできないことがいっぱいありますが、カラー原稿や復刻連載など、今のところ“電子だからできること”がうまく売り込めているかと。
(c)講談社
東村アキコさんの「メロポンだし!」は、「Dモーニング」ではオールカラーで掲載。LINEマンガでも配信
■ ユーザーは選べない――見放題の罠
――週刊マンガ雑誌の電子書籍版を月額500円で販売するのは、かなりの英断だと思います。
吉村 月額500円と言い出したのは編集長です。営業部の人間として、最初聞いた時は「おいっ!」っと思いました。
――それは、そうですよね……。
吉村 しかし、議論していく中で、「敵が違う」と気付いたんです。僕たちは“出版”という枠の中で考えすぎなんじゃないかと。そこからさまざまな月額課金のWebサービスを調べて、500円が上限かなと。もう、意地ですよ。
ユーザーの時間を奪い合いしている敵は、「見放題で何円」という設定です。しかし、見放題には罠がある。ユーザーは、意外と選べないんです。最初は得だと思って登録しても、個々の嗜好性が広がることはあまりないんですよね。
一方で、雑誌はすごくオールドスタイルだけど、いいマンガもいい作家もたくさん存在する中で、「モーニング」が“いい”と思う作品だけを常に提示している。例えばかわぐちかいじ先生の「沈黙の艦隊」を好きな人が、まったくタイプが違うおおひなたごうさんの「ラティーノ」を面白いと思うかもしれない。“わけのわからないつながり”ができるわけです。たぶん、「沈黙の艦隊」が好きな人は、読み放題だと「ラティーノ」に出会うことはない。そんな出会いが提示できるのは、雑誌の良さだと思っています。
大竹 マンガや雑誌の購読をやめてしまった人って、けっこういると思うんです。そういう人たちが今何をしているかというと、みんなスマホを見ている。スマホを見ている人たちにもう一度、マンガを読む習慣が生まれたら市場が変わるはず。習慣化したら、より多くの物語が読みたくなるし、より多くの作品に出会いたくなるサイクルができる。『モーニング』の編集長は、そのサイクルが途切れる危機感が強かったんです。
――では、『イブニング』や『アフタヌーン』など、別の雑誌を「Dモーニング」のように電子書籍化する予定はありますか?
吉村 あるかもしれませんが、今はとりあえず「Dモーニング」に注力していきたいと考えています。
――Web用の独自媒体を立ち上げる予定は?
吉村 現時点ではないですね。既存の雑誌には、「モーニングに載っている作品」「週刊少年マガジンに載っている作品」という、ブランディングされているものの重さ、クオリティの担保があると思っていますので。しかし、それを新しい見せ方で提示できる媒体が作れるのであれば、ぜひ試してみたいとは思います。
■ 電子書籍にはまだルールがない
――講談社は電子書籍化にとても積極的な印象があります。
吉村 電子書籍に関しては、社を挙げて取り組んでいます。コミックスにかかわらず小説などの文字ものも、発売と同時に電子書籍化する方針を掲げています。いろいろな向かい風を受けてはいますが。
――新しい分野に挑戦すると、向かい風は強いですよね。
吉村 でも、誰もやっていないことなので本当に楽しいです。出版というものは、100年ほど延々と積み重ねられてきた、すごくよくできた仕組みなんです。でも電子書籍は、まだルールも売れるための法則もない。その中で、いろいろと試行錯誤できるのは、本当にありがたいことです。
出版社は、作品というたくさんの武器をお預かりしています。マンガを読める機器が世の中にたくさんあるのですから、そこに向けて、お預かりしている作品をどんどん広めていくのが使命。より積極的に広げていきたいと思っていますし、他社がやっていないことを先にやってやるという意気込みがあります。
(c)講談社
モーニング、アフタヌーン、イブニングの合同Webコミックサイト「モアイ」も電子書籍の取り組みの1つ
――電子書籍を強化するにあたり、ネット上での海賊版の配布や無断転載などをどう捉えていますか?
吉村 「Dモーニング」を見てもらえるとわかると思いますが、僕たちは、海賊版にはできないクオリティーのものを出しています。製版データからやってるぜ、単なるスキャンとは違うぞ、と。当然、海賊版というものは出てきてしまうもので、排除するために動いてもいる。しかし、それ以上に“本物”をきっちりと見せることが必要なので、「Dモーニング」のようなサービスを展開しなくてはいけないし、電子書籍にも精力的に手を出していかなくてはいけないと思っています。
――たしかに「Dモーニング」に触れると、その意気込みが感じられます。本日はありがとうございました!
「Dモーニング」公式サイト
▽ Dモーニング | 週刊マンガ雑誌「モーニング」の最新号が読める!
「Dモーニング」iOS アプリ
▽ Dモーニング 週刊モーニング公式アプリ
対象端末:iOS 5.0以降
「Dモーニング」Android アプリ
▽ Dモーニング 週刊モーニング公式アプリ - Google Play の Android アプリ
対象端末:Android 4.0以降
特集「電子書籍マンガ/Webコミックの新潮流」
- 第1回:目標は100万DL ジャンプ編集部が本気で作る電子書籍アプリ「ジャンプLIVE」の狙い
- 第2回:敵は“見放題”のWebサービス マンガのライトユーザーを狙う電子書籍アプリ「Dモーニング」
- 第3回:出版のプロによる“きもちわるい”Webコミックサイト「Champion タップ!」インタビュー