今年も9月1日(水)に発売される「ほぼ日手帳2011」。2001年の発売開始から10年目を迎えるほぼ日手帳は、今や35万人が愛用する大人気のツールとして成長しました。そこで今回は、ほぼ日手帳の産みの親、糸井重里さんに10年目の心境をお聞きしました。ほぼ日手帳に対する気持ちはもちろんのこと、紙にこだわる理由や使用している「アナログ」と「デジタル」のツール、Twitterなど、さまざまなお話を“イトイ目線”で語っていただきました。糸井さんが考える“紙”と“ネット”って、何なのでしょうか。
■ほぼ日手帳の製作は、いつも“必死”
はてな 今年で10年目という節目の年を迎えた「ほぼ日手帳」ですが、この10年の道のりを振り返ってみた感想はいかがですか?
糸井 笑いながらいうのも変なんですけど、“必死”ですよね(笑)
はてな 期待しているユーザーが多いからでしょうか?
糸井 そうですね。楽しみにしてくれている人が、年々確実に多くなっていて。最初は、自分たちだけが満足していればよかったんですが、それだけじゃなくなってきてるんです。ある意味では、自分たちの手を離れちゃっているところもあって。何だろう、例えば甲子園球児だったら、応援してくれる人がバスで試合にやってきてると思うと、エラーしたときに「うわーっ」て思うじゃないですか。
はてな みんなの期待を背負ってますもんね。
糸井 そうそう。彼らも最初は、ただ、野球していたと思うんですよ。ほぼ日手帳の製作も、ちょっとそれに似たところがあって。「うわーどうしよう」っていう気持ちはいつでもあるし、「目が覚めるとお客さんがいなかったら…」みたいなことは、毎年思うんですよ、やっぱり。その意味では今も変わらず、“必死”ですね。
はてな 年々、その必死さは増していくんですか?
糸井 危機感や必死さと同時に、落ち着きも出てきていますよ。「喜んでもらおうじゃないか」っていう自信みたいなものも、あります。
はてな 毎年、あらゆる改良が施されるほぼ日手帳ですが、10年目で変えたところはありますか?
糸井 これがね、あんまりないんですよ。
はてな そうなんですか。
糸井 「変えればいいっていうものでもないだろう」と思ったんです。どんどん上乗せすると、違うものになっちゃうんじゃないかな、って。でも、変えないことについて、変える以上に頭を使っているところには自信があります。
はてな では、いつも以上に、力を込めた“10年目”でしょうか?
糸井 集中して力を込めるというよりも、毎日やっている基礎練習のような感じ。工場で作るものって“ボツ率”みたいなものがあるんです。例えば、今朝も、「ある数のある品質を保証したものが、すごくいいパーセンテージでこんな風に進行しています」みたいな報告があって。それは人(ユーザー)には見えないことだけれど、僕らには、嬉しい話なんです。あるいは、お客さんから来た「僕のだけでしょうか、こんな風になっちゃうんですけど」っていう話をいちいち追究したり、戻したり、それに合わせて対処したり、そういう時間が圧倒的に長いんです。バックヤードでの仕事のほうがある意味では多いですが、そんなこと自慢してもしかたないからね。だから、楽しくやりたいとは思ってます。
はてな 今年も、別冊の1週間タイプは発売しますか?
糸井 実は、別冊じゃなくて1週間だけの本体を出します!ほぼ日手帳を発売して2か月くらい経ったときに。どうしても1日1ページタイプを買いたくない人を、追いかけようかと思って。 今までだったら、そういう人のことを嫌っていたんです。でも、抱きつきに行こうかな、と。「君たちが欲しいのは、これかな?」っていう感じで。
はてな なるほど(笑)
糸井 ライバルに負けるより、自分たちでライバルを作ろうと思って。そしたら、1日タイプと1週間タイプの戦いじゃないですか。そのほうがよくないですか?「セ・リーグも、パ・リーグもやります!」みたいな。プロ野球みたいに。
はてな それは、1週間タイプの発表も楽しみですね。
■今、紙の手帳を発売する理由
はてな 糸井さんはずっと「ほぼ日刊イトイ新聞」というWebサイトを作られていますが、手帳はその対照のようなツールですよね。ネットじゃない、紙のものを10年も発売し続けている理由は、何かあるのでしょうか?
糸井 他の人が出したいと思ってないみたいなんですよ。もしかすると、思っているのかもしれないんですが。
「何が便利なのか」という話し合いをしていくと、もしかしたら電子手帳やiPadみたいなデバイスになるかもしれない。僕はお客さんの目線で見ると、iPadに興味があるんです。iPhoneも使ってますし。だけど、「なんで紙を止められないんだろう」っていうことについては、iPadを使っている人たちも薄々気づいていると思うんです。やっぱり、何か止められない理由がある。それは僕もよくわかっていなくて、「みんな好きだよね、おれも好きだよ」っていう気持ちが、同時に仕事になっているんです。うちってまさしくWebサイトだし、全っ然電子にケンカ売ってないじゃないですか。「なんで」って聞かれると、どうしても対立軸になっちゃうんですよ。だから「わからないですね」って答えます。だって、本当にわからないんですよ。不思議ですよねえ。
はてな たしかに。
糸井 本がiPadで読めるようになって、これから紙と電子版の両方を手に入れる作品も増えてくると思うんです。その時、僕は“紙の本”を読むかな。それがどうしてかは、自分でもわからないです。いずれはわかるのかもしれないけれど。
まだまだ、ほぼ日手帳を欲しいと言ってくれる人はたくさんいると思うので、「欲しいんだったら作ろうよ」って。使ってくれる人がこんなに喜んでくれるんだったら、ねえ、やめられないですよ。増えてるんですもの。ちっとも答えになってないですけど(笑)。
■アナログとデジタル――糸井さんが使う“ツール”
はてな ほぼ日手帳以外で愛用しているツールはありますか?
糸井 こだわりを作ると不便になるので、あんまりこだわらないようにしているんですけど、好きになろうと思って、今年買ったボールペンがあります。
はてな どちらのものですか?
糸井 モンブランです。失くしたらダメなものを持つのってけっこう重要で、僕は傘も高いものを買うんです。「ボールペンを失くしたら大変だ」と思えるものを買おうと思って、今年はモンブランを使ってますね。それなりに大事にしてます。
まだまだピカピカな、糸井さんのモンブラン
はてな 今、好き度でいうとどれくらいですか?
糸井 うーん。5割5分くらいかなあ。
はてな 完全には好きになりきれていないんですね。
糸井 まだ僕との間に物語がないですからね。これから好きになろうと思って買ったので。
はてな 書きやすさはやっぱり違いますか?
糸井 そんなに違わないですよ(笑)
はてな (笑)
糸井 アナログなモノって、「正確さはどうですか?」って言っても、あんまり変わらないじゃないですか。「なんか好きなんですよ」としか言えない。そういう意味ではこれもわからないですね。ほぼ日手帳も、たぶんそうです。
はてな ちなみに、デジタルのツールで使っているものはありますか?
糸井 いっぱい使いますよ。会社全体はサイボウズで管理しています。でも僕はサイボウズは見ないです。面倒くさいから。
はてな 「東京糸井重里事務所」全体で使っているんですね。
糸井 そうなんです。サイボウズに僕の個人の予定も入っていて、事務所のみんなが「糸井いないな」とか確認しています。その他に、ひと月ふた月の予定をTextEdit(Mac OS Xに付属するソフト)に書いていて、それが毎日メールで送られてくる。PCにも入れているので、常に開いておいて予定を確認してます。主なものは、その2つかな。自分でその項目を写せば、ほぼ日手帳にも同じように予定が入ります。その時のあわただしさによって写すことさえもしなくなると、手帳は空っぽになって、ただのメモ帳になる。
はてな メモは毎日取っていますか?
糸井 毎日とは限らないです。今はどんなに何もしない日でも、朝晩の体重とTwitterのフォロワー数を書いてますが。
糸井さんのほぼ日手帳
■「あいつを、まだつかめていない」――糸井流Twitter論
はてな Twitterのフォロワー数を気にされているんですね。
糸井 何をするとどうなるか知りたいじゃないですか。
はてな 発言の後のフォロワーの増減を、ですか?
糸井 うん。何があったんだろうなって。まだ、つかめてないんですよ、あいつを。Twitterっていうものがなんなのか。人が嫌がったり、「俺も見るよ」って言ってくれたりするのは、選挙の票みたなものだから、少なくともフォロワー数はチェックしておいたほうがいいかなと思って。
はてな 糸井さんがTwitterを始めたのはいつですか?
糸井 5月10日です。今で3か月ちょっとですね。
はてな ほぼ日手帳では1日に1ページがあてがわれていて、メモをたっぷりとれます。ある意味Twitterもそういうツールだと思うのですが、糸井さんはTwitterをどう使っていますか?
糸井 Twitterは、人がわいわいしているところに、立つイメージ。例えば、うーん、四条河原町の真ん中で「今イチゴのかき氷を食べたい!」っていうと、無関心に歩いていた人たちが「俺もかもー!」って言う感じ。
はてな なるほど(笑)
糸井 そういうことをやる場所って、今までなかったんです。ほぼ日の「きまぐれカメら」というコンテンツではやってはいたのですが、そんなにしょっちゅうは更新できないし。Twitterって下手すると、1秒くらいでリツイートがあったり、15秒で15件返信があったりする。「イチゴー!」「かき氷ー!」「うわー」「へえぇー」って。押し合いへしあいしている人と生で会う感じを持っていたい、っていうのはあります。
はてな では、メモ的なツールとしては切り離して使用されてるんですね。
糸井 うーん。ほぼ日手帳に書いていたことを、「一人で言うよりTwitterに書いちゃえ」と思って使うことは、あります。ほぼ日はメディアとしてある程度落ち着いてきてしまったので、一回定着液につけたものを出したいなっていう気持ちがあって。だから、Twitterのほうがワサワサしたこと書きますし、パンツ一丁とまではいかないけれど、素に近い下品さを出します。ほぼ日の「今日のダーリン」は、「いらっしゃいませ」を兼ねてるんですよ。パンツ一丁で「いらっしゃいませ」は言えないでしょ。
糸井 この間、Twitterで初めて商品について質問されたんです。その時に「お客さんとの接点はここではもたないようにしているので、すみません、ほぼ日に問い合わせてください」って言ったんですね。言って初めて気がついたんですが、Twitterでそれをやってしまうと、孫正義さんになっちゃんですよ。
はてな 「やりましょう」になっちゃうんですね。
糸井 そうそう、「やりましょう」になっちゃうんですよ。そうすると、またここにも居づらくなってしまう。Twitterでの自分って、最低限のルールは守るけどわがまま放題だし、「おならぷー」って言いたいんです。ほぼ日で「おならぷー」って言うと、クレームが来たときに、“クレームしてる人に「おならぷー」って言ってる人”になってしまう。「お宅のご主人ね、食中毒起こしといておならぷーって言ってましたよ」となる。だからほぼ日とTwitterは分けています。果たして、いつまでどうするかはわからないですけど。
はてな Twitterにツールとしての面白みは感じますか?
糸井 うん。くたびれますけどね。ほぼ日にメールで来るようなことを、人の目がある場所に放り投げる人もいますから。ちょっとだけくたびれる気持ちもあるけど、まあまだ3か月ですから。今はつわりです。「うえっ」って。
はてな もう少ししたら安定期に入るんですね。
糸井 そうですね。いや、どうなんでしょうね(笑)
■ほぼ日手帳を使う人へ
はてな 最後にほぼ日手帳をこれから使う人、これまで使ってきた人にメッセージをお願いします。
糸井 やっぱり、月並みですけど楽しんでください。ほぼ日手帳ってだいたい1日約10円なんです。10円払ってるんだから無駄にしないでおこうと思ってくれてもいいし、10円じゃ安いなと思ってくれてもいい。1日10円って感じいいでしょ(笑)。
最後に、編集部からオリジナルの「はてなTシャツ」をプレゼントしました。
喜んでいただけたようで、何よりです!
糸井さんがスティーブ・ジョブズの『驚異のプレゼン』を実現?8月18日(水)に行われた、「ほぼ日手帳2011発表会」のレポートはこちらでご覧ください。