毎年秋、東京、埼玉、千葉、神奈川の高校の文化祭を巡り、軽音楽部のステージを観覧。その全コピー曲のセットリストや、そこで見つけた気になるバンドのインタビューなどを掲載したミニコミ「kids these days!~いまどきの10代に聞いたリアルな『けいおん!』の話。」の発行人・成松哲さんに、リアルけいおん!の魅力について寄稿していただきました。なお、成松さんや10代バンドが出演するイベントが東京お台場で5月12日(土)に開催されます。
▽ 「kids these days!」vol.2書誌情報&文学フリマ出展情報 - 三十路でアニメ
2011年12月に公開された劇場版アニメ『映画けいおん!』が、同年の松竹映画において屈指の興行収入を誇り、また、ヤマハの開催する「Music Revolution」や、TOKYO FMやソニーミュージックらの「閃光ライオット」など、10代~20代前半のバンドを対象にしたコンテストも花盛り。そこではステレオポニーやGalileo Galilei、ねごとなど、多くの若手バンドが見出されています。
これらの影響があるのでしょう。ここ数年、日本全国の高校軽音楽部では入部希望者が増加傾向にあるといいます。たとえば、さる都立高校の軽音楽部の今年度の入部希望者は実に70人。全員入部すれば、総部員数は150人に膨れ上がることになるそうです。
CD不況が叫ばれて久しい音楽シーンにあって、なかなか元気な“リアルけいおん!”界隈ですが、我々中年にはどうしても分からないことがあります。
「じゃあ、いまどきの子どもって、どんなバンドの、どんな曲をコピーしているの?」
この疑問の解消は、実はいたって簡単です。学校に行ってみればいい。
さすがにウィークデイの放課後にフラフラと近所の高校に行ったところで門前払いを食らうのがオチでしょう。しかし、この5~6月、そして秋に開催される文化祭の軽音楽部のステージであれば、私立の女子校や一部進学校でもない限り、たいていは観覧することができるはずです。
そしてそこで繰り広げられるステージは、まず間違いなく面白い。
ONE OK ROCKやRADWIMPSといった“新しいバンド”ももちろんコピーされているものの、彼らを凌駕せんばかりの勢いでELLEGARDENにGO!GO!7188、さらにはTHE BLUE HEARTSが大人気。言葉を選ばず言うなら、イマドキの軽音部員がプレイするロックは、なぜか微妙に古い。
ところがその一方で、この1~2年のうちにsupercellやDECO*27など、いわゆるボカロP系の楽曲をコピーするバンドが急増。また、「けいおん!」シリーズの劇中バンド・放課後ティータイムの楽曲や、「銀魂」「鋼の錬金術師」のテーマソングばかりをコピーするバンドも目立ちます。エアバンド・ゴールデンボンバーの「女々しくて」を楽器片手にコピーする、ある意味斬新な面々もちらほら。
さらに、ボカロをコピーする子に混じって、上記の音楽コンテストで好成績を収めるバンドが、プロ顔負けのプレイを披露してみせたりもする。
毎秋首都圏各校の文化祭の様子をレポートしたインディマガジンを刊行しているボクの目の前で繰り広げられるのは、我々オトナの想像や、CDの売り上げチャート、音楽誌の情報からは遠く離れた、しかしリアルな音楽模様なのです。
しかも入場料がタダ! いかにも初心者のアマチュアバンドらしい演奏を延々5時間にわたって見ることになるおそれもありますが、コストパフォーマンスは抜群です。どうせタダなのですから、フラッと立ち寄って、肌に合わなければフラッと帰ればいいのです。
この春と秋、もしお時間があるなら、近所の高校の文化祭に足を運んでみてください。きっとそこでは、まったく新しく、しかし、誰もがどこか懐かしさを覚えるショウが展開されているはずです。
■ お台場でもリアルなけいおん!「A kids these days! Night」
「kids these days!」vol.2の刊行を記念して、5月12日(土)には東京お台場の東京カルチャーカルチャーにて「A kids these days! Night」が開催されます。「kids these days!」誌上でインタビューした10代バンドのうち、3つのバンドのライブと、ウルフルズ、氣志團、ナンバーガールなどを発掘したEMI MUSIC JAPANのスカウト担当・加茂啓太郎さんらによる、バンドへの公開インタビューが行われます。
▽ kids these days! Night~(ほぼ)10代バンドがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!~ TOKYO CULTURE CULTURE:@nifty
- 成松哲(なりまつ・てつ)
- フリーライター。小学校用教材製作から江頭2:50の著書の企画構成まで、やたらな振り幅で活動中。主な著書に、古今東西200バンドの解散の経緯を追った『バンド臨終図巻』(河出書房新社)がある(速水健朗、栗原裕一郎、円堂都司昭、大山くまおと共著)。