国立天文台の天文シミュレーションプロジェクト(CfCA)は、天文学専用のスーパーコンピュータ「Cray XC30」を、岩手県奥州市の水沢VLBI観測所に設置しました。愛称は「アテルイ」。天文学専用としては世界最速(2013年5月現在)のシステムで、化粧板には仮想のコンピュータの姿が描かれています。
▽ 世界最速の天文学専用スーパーコンピュータ始動! | 国立天文台(NAOJ)
▽ CfCA 記者発表 Website
設置されたスーパーコンピュータは、アメリカのクレイ社が開発した大規模並列計算機「Cray XC30」システムです。水沢VLBI観測所での本格的な稼働は4月1日からスタート。CfCAが運用するスーパーコンピュータとしては第4世代に当たります。
演算に使用するコア(単体のCPU)の数は24,192で、2008年に導入された第3世代と比べると約8倍に。多くのコアを使用することで、システム全体の理論演算性能は502TFLOPSと高い性能を実現しています。今後の更新で、2014年9月までには1PFLOPSを超える予定とのこと。FLOPSは計算速度の単位で、1TFLOPSは1秒間に1兆回、1PFLOPSは1秒間に1千兆回の演算が可能です。
主記憶装置は、各ノード(複数のコアがまとまったもの)に64GB、システム全体としては94.25TBを搭載。さらに数値シミュレーションのデータを格納するため、820TBのハードディスクを搭載しています。
愛称のアテルイ(阿弖流為)は、約1200年前に奥州市水沢区付近で暮らしていた蝦夷の長の名前が由来です。アテルイは、蝦夷を制圧しようとする朝廷の軍事遠征に対し戦いました。新設したスーパーコンピュータには、アテルイのように果敢に宇宙の謎に挑んでほしいという思いが込められています。
天文シミュレーションは、宇宙の大規模構造や星の誕生など、幅広い研究分野で活躍しています。アテルイの導入で、さらに細かく構造を分析し、天体の進化を長く追えるようになることから、プロジェクトリーダーの小久保英一郎さんは「惑星系の起源、星の誕生と死、ブラックホール、銀河の形成,宇宙の大規模構造など、様々な天体現象の謎を明かにしてくれると期待しています」と述べています。