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マンガの最終回を“読む”より“体験”するということ 舞台「帝一の國」最終章、ラストダンスの結末



【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス- | Nelke Planning / ネルケプランニング

「學蘭歌劇『帝一の國』」は、古屋兎丸さんが2010年から連載しているマンガを題材にした“学園政権闘争歌劇”シリーズ。「総理大臣となって自分の国を作る」という野望を秘めた主人公・赤場帝一が、数多くの政治家や官僚を輩出してきた名門私立の男子校・海帝高校を舞台に、政界で最も影響力のある派閥に入ることが約束された「生徒会長」を目指す物語が描かれています。

第1作「【第一章】學蘭歌劇 『帝一の國』」は、2014年4月に東京で上演。その続編に当たる「【第二章】學蘭歌劇『帝一の國』-決戦のマイムマイム-」は、2015年7月に東京と大阪の2都市で上演されました。“歌劇”というだけあって、劇中には一度触れると忘れられなくなりそうな歌や踊りがふんだんに盛り込まれており、第二章ではサブタイトルの通り客席で「マイムマイム」を踊るなど劇場全体を「帝一の國」の世界に巻き込む演出も。シリーズを通してオープニングで使用されている舞台版の主題歌「日本」は、ロックバンド・PENICILLIN(ペニシリン)のボーカルを務めるHAKUEIさんがプロデュースしています。

原作の通り進んできた舞台シリーズですが、今作で銘打たれているのは「最終章」。いわゆる“完結作”になると明言されています。一方で原作でも最終回を間近に控えており、メディアミックスの形としては異例の「舞台で先に最終回を見せる」という展開に。原作ファンであればまずマンガの内容が頭にある状態で舞台を見る、という流れになるところを、同作においては誰も物語の行く末が分からないまま劇場でラストを知るということになります。「あの結末を舞台でどう表現するんだろう?」という考えも不要。まさに“予習”ができず、最終回を読むというよりも“体験する”という斬新な仕掛けを観客に提示しています。

赤場帝一を演じるのは、初演から座長として同作に携わっている木村了さん。聡明な見た目や時折見せる野心的な表情は、原作そのもの。「通常の舞台の倍覚えることがある」と話すように、ほとんどの時間をステージ上で過ごし、さまざまなシーンで歌い踊る――次第に汗だくになっていく様子ですら、原作の持つ濃厚でエネルギッシュな勢いを表現しているかのように見えます。木村さんは2012年の舞台「ライチ☆光クラブ」でも主人公を演じており、原作者・古屋兎丸さんの作品としては2作目の主演です。

木村さんだけでなく、作品の魅力を引き出すそのほかのキャスト陣も、驚くほど原作と瓜二つ。大多数は初演から3作続けて出演しています。帝一の恋人・白鳥美美子を演じるのは、乃木坂46の井上小百合さんと樋口日奈さん。2人も3作連続の出演で、Wキャストとしてそれぞれが舞台に華を添えます。

脚本は、声優としてアニメ「はじめの一歩」の主人公・幕之内一歩や「テニスの王子様」の海堂薫を演じたほか、映画「桐島、部活やめるってよ」でも脚本を担当するなど多岐にわたって活躍する喜安浩平さん。演出は、NHK Eテレ「みいつけた!」にも出演している小林顕作さんです。小林さんは劇中曲の作詞・作曲も担当しており、一度聞いただけで覚えてしまいそうになるキャッチーさが人気を集めています。今作を彩る劇中曲は全13曲。今回もすべて小林さんによる作詞・作曲です。

「學蘭歌劇『帝一の國』」の特徴といえば、とにかく物語や役者の放つエネルギーで満ちあふれている、といっても過言ではない濃密さ。一つ一つのシーンが印象深く、真面目かつユニークに描かれています。舞台上でどう表現するのかと思わせる原作の展開も、予想に反した演出であっと驚かされてしまうというのがこの作品ならでは。照明や小道具の使い方も鮮やかで、古屋さんの描いたマンガのコマを“そのまま”見ているような、濃厚で華やかなシーンの連続が待っています。

難しいことを考える必要もなく、たとえ原作を知らなくても舞台だけでストーリーを追えるというシンプルな分かりやすさも大きなポイント。序盤では前作までのあらすじをコミカルに演じてくれるので、今作から初めて舞台シリーズを見るという人でもしっかりと流れを把握できます。

キャストの見た目が原作とそっくりというのも見どころではありますが、同作においてはキャストの持ち味にキャラクターが宿っているともいえるかもしれません。時にキャストの素が見え隠れするアドリブや時事ネタを取り入れたような演出も、作品の雰囲気にうまくなじんでいる――それも不思議な魅力の一つです。

キャストの中にいる「オールラウンダーズ」は、作品における全背景を担い、さまざまなモブキャラクターを演じるという「最も過酷な役」のこと。曲中にはバックダンサーも務めるなど、さまざまなシーンでその変幻自在な姿を見せています。

今作は、幕開けのオープニングテーマからどこか力強い意思のようなものを感じる展開に。拮抗した生徒会長選挙の行く末を軸とした最終章というだけあり、端々で重厚かつシリアスなシーンが描かれていきます。そんな中でも、思わず踊りだしたくなるキャッチーな楽曲は健在。前作までを知っている人なら懐かしさを感じられる粋な演出も用意されています。

前作で怪しい雲行きになっていた美美子との恋の行方も注目したいところ。三津谷亮さんが演じる、帝一の中学時代からの友人で良き理解者でもある榊原光明との友情にも胸が打たれます。

ゲネプロを終え、古屋さんは下記のようにコメントしています。

【第一章】【第二章】と続き、今回【最終章】ですべての物語が完結するわけですけれども、いつもにも増して、物語の完成度が高く、再現度も高く、原作者冥利に尽きるとはまさにこのことです。今回これで終わりかと思うと寂しい気持ちもあるのですが、これだけのものを創り上げた、演出の小林顕作さんはじめ、スタッフ・キャストの皆さんの熱量には、ただただ感服するばかりであります。【第一章】【第二章】を観ていない方にも、自信を持って薦められる内容になっております。みなさん是非、劇場に足を運んで、この最後のラストダンスを見届けていただければと思います。宜しくお願いいたします。

古屋さん自身も劇場に何度も足を運んでおり、舞台シリーズへの愛の深さを感じます。

物語が進むにつれ、どんな結末を迎えるのかという、マンガのページをめくるような緊張感。完結作ではあるものの、湿っぽいラストではなく、同作らしい波乱とエネルギーと華やかさに満ちた内容となっていました。

千秋楽に当たる3月27日(日)夜公演には、有終の美を飾る「卒業式」を実施。「學蘭歌劇『帝一の國』」らしく最終章を締めくくるとのことです。卒業式を含めた千秋楽公演のライブビューイングも決定しており、全国の映画館でもリアルタイムで舞台の熱を感じ取ることができます。上映劇場やチケットの販売スケジュールは、以下の特設ページをどうぞ。

ライブ・ビューイング・ジャパン : 【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス- ライブ・ビューイング

【最終章】學蘭歌劇『帝一の國』-血戦のラストダンス-

帝一の國

(c)古屋兎丸/集英社

<公演概要>

会場:AiiA 2.5 Theater Tokyo(東京都渋谷区)
期間:3月17日(木)~3月27日(日)

<キャスト>

赤場帝一:木村了
大鷹弾:入江甚儀
榊原光明:三津谷亮
東郷菊馬:吉川純広
根津二四三:谷戸亮太

成田瑠流可:細貝圭
光家吾朗:冨森ジャスティン
野々宮裕次郎:市川知宏
夢島玲:佐藤永典
久我信士:佐藤流司
羽入慎之助:原嶋元久
高天原蒜山:瀬戸祐介
森園億人:大河元気(映像出演)
赤場譲介:大堀こういち

白鳥美美子:井上小百合(乃木坂46)※Wキャスト
白鳥美美子:樋口日奈(乃木坂46)※Wキャスト

オールラウンダーズ:今奈良孝行、竹内寿、中谷竜、ぎたろー、平沼紀久

<スタッフ>

原作:古屋兎丸「帝一の國」(集英社「ジャンプSQ.」連載)
脚本:喜安浩平
演出:小林顕作
企画:漫画兄弟
製作・主催:ネルケプランニング
Twitter:@teiichistage1

文: あおきめぐみ

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