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佐賀県×スプラトゥーン“イカした”コラボの裏側をプロジェクトリーダーが語る 「町に革命が起こった」

カルチャー ヘッドライン



サガプライズ!|おどろきの佐賀、ぞくぞく。

福岡県と長崎県に挟まれた、九州北部に位置する佐賀県。唐津市呼子町の漁港でとれる透き通るようなイカ、鍋島をはじめとする日本酒、長い歴史を持つ唐津焼や有田焼、大勢の観光客が集まるという唐津神社の秋祭り・唐津くんちなど、さまざまな特産物・行事があります。そんな同県の魅力を知ってもらうだけでなく、その先の行動を促せるようなPRをしようと、佐賀県は2015年に“情報発信”で地方自治体の活性化を目指すプロジェクト「サガプライズ!」を立ち上げました。

プロジェクトリーダーを務める金子さんは、県内で情報発信を必要とする企業にヒアリングを実施。そこで「顧客のニーズやトレンドをつかむマーケットイン視点」「他の話題に埋もれてしまわないような情報発信」「情報発信によって県外からどのような反響があったかをフィードバックする」ということが求められていると判明したそうです。「サガプライズ!」は、地元の企業から得たこれら3つの意見を事業スキームに当てはめて展開されています。

■ ゲームコンテンツとのコラボに注目 きっかけは「ロマンシング佐賀」

これまでに丸善ジュンク堂書店、森永製菓、BEAMSなど多くの企業とコラボ企画を進めてきた「サガプライズ!」。さまざまなジャンルと佐賀県の魅力を融合させていく中で、同プロジェクトが特にコラボコンテンツとして注目しているのは「ゲーム」なんだそうです。

その理由について、金子さんは「地方は若者との接点がないので、若い世代が多いゲームファンを佐賀県に呼び込みたいという思いがある。消費行動力の高いゲームファンに佐賀県を知ってもらい、誘客につなげていきたい」と語ります。そんな同プロジェクトがゲームとのコラボに注力するきっかけとなったのが、2014年にスクウェア・エニックスと進めた「ロマンシング佐賀」。1989年の発売から25周年を迎えた「サガ」シリーズとのコラボで、ユニークなネーミングや手の込んだ特設サイトなどが大きな話題になりました。

実は20年前に「サガ」シリーズから、10年前に佐賀県からお互いに「何か一緒にできないか」とラブコールを送り合っていたという両者。この「ロマンシング佐賀」は、20年来の願いが叶(かな)いようやく実現した奇跡のコラボプロジェクトだった

“サガ”つながりということで、もともとネット上では名前をいじられていたという「サガ」シリーズと佐賀県。それを実現させる形でスタートしたこのプロジェクトは、スクウェア・エニックス側からのオファーで動き出したそうです。「異業種とのコラボは、異文化同士なのでなかなかすり合わないところもあります。自治体とゲーム会社となると、普段からお付き合いがあるというわけではないので……」と金子さん。約半年にわたる企画会議では、佐賀県の観光コンテンツや名産品などを並べながら、どうすればゲームの世界観と融合できるか議論を重ねていったそうです。

『ロマンシング 佐賀』 小林智美氏 直筆の有田焼 制作風景 - YouTube

「ロマンシング佐賀」では、ゲームの世界観を通じて佐賀県の伝統工芸品や県産品に触れられるイベント「ロマンシング 佐賀 LOUNGE」を東京・六本木ヒルズで開催。「サガ」シリーズと有田焼のコラボ焼き物をはじめとするさまざまな展示や、「ロマンシング佐賀」のコラボグッズを用意しました。中には数分で完売するグッズもあるなど、大盛況だったという同イベント。コラボ期間が終了した後も、窯元とスクウェア・エニックスが連携して商品を継続販売するというケースもあったそうです。2014年3月13日から3月16日までの開催期間中に訪れたファンは約7,000人。入場規制をかけるほどのにぎわいでした。

金子さんが「爆発的に売れた」と表現したのが、竹八が販売した「『Romancing 佐賀』 伝承の逸品セット」。スーパーファミコン向けソフト「ロマンシング サ・ガ2」のパッケージを当時のサイズとデザインのまま再現し、「ロマンシング佐賀」仕様のロゴを組み合わせた。中には厳選された佐賀県の逸品が入っている

「ロマンシング佐賀」の反響はとても大きく、ネットニュースだけで約180件、テレビも含めると約500件近いメディアに取り上げられたとのこと。特設サイトのPV数も1週間で52万に達するなど、多くの人にコラボ企画が認知されました。金子さんは「県庁のPVはだいたい1週間で5,000PVほど。普段の100倍以上のアクセスがありました。サイトを訪れた人はゲームファンが多いと思いますが、企画を通じて佐賀県の県産品などを知っていただけたはず。行きたい、欲しいというTwitterでの反応が個人的に一番うれしかった」と振り返ります。

この盛り上がりを受け、2015年には“続編”に当たる「ロマンシング佐賀2」を展開。県産品を扱う県庁の流通課や観光課をはじめ、県内の企業からも参加したいという声があり、実現したそうです。「今度は佐賀県に来てもらいたい」と佐賀県内でさまざまなイベントを行い、ファンを誘致する形で進んだ第2弾。ラッピング列車を用意したり、プロサッカーチーム・サガン鳥栖とコラボしたイベント「ロマンシング サガン」を開催したりと、それぞれの企業が独自で企画を生み出したそうです。この第2弾も成功し、2016年7月30日(土)からはついに第3弾「ロマンシング佐賀3」が始まります。

「ロマンシング佐賀3」で開催されるイベント情報は、サイトで公開されている。「サガ」シリーズ過去最大規模の原画展「ロマンシング佐賀展」では、ここでしか見られない開発資料も多数展示するとのこと

■ 「ロマンシング佐賀」の経験を生かした「スプラトゥーン」コラボの裏側

「ロマンシング佐賀」の成功を受け、佐賀県が次に注目したゲームコンテンツが「スプラトゥーン」。任天堂が2015年に発売したWii U専用ソフトで、イカが主人公というアクションシューティングゲームです。国内出荷数が100万本を突破するなど人気を集めた作品で、子供から大人まで幅広い世代に親しまれています。この「スプラトゥーン」とのコラボでは、佐賀県から任天堂に声を掛けたとのこと。佐賀県の名物に呼子でとれるイカがあることから、イカつながりのコラボプロジェクト「Sagakeen」が実現しました。

任天堂のデザイナーが描き下ろしたイラスト。「スプラトゥーン」と佐賀県はどちらも頭文字に「S」があることから、コラボタイトルは「Sagakeen(サガケーン)」に

佐賀県での開催地は“イカの聖地”である唐津市呼子町。佐賀県の最北端にある人口約5,000人の港町で、金子さんは「国内史上、最もアクセスの困難な場所で行われたゲームのイベントではないか」と表現します。設定したゴールは「呼子を含めた佐賀県のことを若い世代に知ってもらい、消費行動を促す」「冬場における呼子の観光客の落ち込みを食い止める」というものでした。

「ロマンシング佐賀」で経験を積んだ「サガプライズ!」は、「Sagakeen」で2つの新たな取り組みに挑戦します。1つ目は、東京と佐賀の2ヶ所で開催するそれぞれのイベント期間に“空白”を作らない仕組み。東京で開催した「ロマンシング佐賀」から佐賀で展開した「ロマンシング佐賀2」までの間には約1年半の空白期間があったため、東京と佐賀で開催することになった「Sagakeen」では畳み掛けるようにイベントを行い、ファンの熱量を凝縮させることにしたそうです。

2つ目は、ゲームの中にも佐賀を取り入れること。金子さんは「ロマンシング佐賀」でもゲーム内コラボを要望として出したそうですが、ゲームシステムの問題上、実現には至らなかったとのことです。「スプラトゥーン」はオンライン環境で情報を更新できるため、念願のゲーム内コラボが叶いました。

Sagakeen(サガケーン)フェス映像 2015.11.21-22 山の幸 VS 海の幸 - YouTube

東京と佐賀でイベントを開催する間に、ゲーム内という新たな開催地を設けた「Sagakeen」。県外からファンを誘致する設計としては、メディアが多く集まる東京で最初のイベントを開催して認知を広げた後、ゲーム内コラボでファンによるSNSなどでの情報拡散を促し、その熱が冷めないうちに佐賀県でイベントをスタートさせてファンを呼び込む、という流れが組み立てられました。ここでのポイントとして、金子さんは「地元の人とも一緒に盛り上がれること」が重要であると説明します。

東京のイベント会場となった東京タワー内では、2015年11月18日から11月24日までの7日間にわたってコラボショップを展開。「スプラトゥーン」に登場するイカを再現した唐津焼の箸置きや、呼子の名物「いかまんじゅう」のコラボバージョンといった数量限定商品を販売しました。結果、開催期間中の来場者数は約1万4000人を記録。メディアにも大きく取り上げられるなど、呼子への誘致に大きな影響をもたらしました。

初日から大勢の人が押し寄せたという東京でのイベント。ニュース番組にも取り上げられ、イベントや呼子のPRに成功した

東京でのイベントが終了する直前の2015年11月21日と11月22日に開催されたのが、「スプラトゥーン」のゲーム内イベント。ファンがTwitterなどで話題にしていたことから、SNSで盛り上がっているキーワードが並ぶ「Yahoo!リアルタイム検索」の「リアルタイム検索で話題のキーワード」には、いくつもの関連ワードがランクインしたそうです。金子さんは「『呼子』がランクインしていたことが一番うれしかったです。呼子に気付いてもらうというのが、次のアクションにつなげるための最初のステップ」と語ります。

そして「Sagakeen」の最終章として開催された呼子でのイベント。2015年12月1日から2016年1月31日までの開催期間中に、1万3000人以上のファンが訪れました。土日には500人以上が町で各イベントを楽しんでいたことから、金子さんは「冬場の観光客の落ち込みをカバーできた」と言及。東京はもちろん、北は北海道から南は沖縄までと全国各地からファンが訪れただけでなく、海外から来たファンも多く見受けられたそうです。「ゲームのインバウンド(訪日旅行)となると、多くの場合が東京です。しかし、こうして海外のお客さんを直接呼び込めたことは自信になった」と金子さんは強く語ります。

それでは、コラボイベントの重要なポイントとして掲げられていた地元の人々の盛り上がりはどうだったのでしょうか。金子さんは現地の写真を交えつつ、当時の様子を振り返ります。

Sagakeen(サガケーン) 呼子のイカすフェス 公式映像 - YouTube

観光名所・七ツ釜を巡る観光遊覧船「イカ丸」の場合、イベント期間中は特別なラッピングシップ「スプラ丸」として運航していました。金子さんによると、現地の乗船員がこの取り組みをとても面白がり、スプラ丸仕様の乗船券を作ってコラボを盛り上げていたそうです。また、町の広場に毎年設置されているというクリスマスツリーも、町の人たちによって“Sagakeen仕様”に変身。オーナメントに真空パックされたイカやアジの干物を飾るというユニークな見た目は、現地の子供たちからも大人気だったそうです。年が明けると、クリスマスツリーと入れ替えるように門松を設置。これも町の人たちが自発的に取り組んだそうです。

高さ約5mの「イカすクリスマスツリー」。魚網が張られているだけでなく、海をイメージした青いボールや約5,000球の電球も飾られている。オーナメントになっているイカやアジの干物は、観光客に限り1人につきいずれか1枚を持って帰れるというユニークな仕組みだった

金子さんが住民に話を聞いたところ、20代の若い女性がたくさん訪れたことに驚いたとの声が多かったそう。普段は釣りをしに訪れる男性客が多いため、女性の観光客は新鮮に感じられたようです。また「町を訪れた若い世代が、将来は家族でまた呼子を訪れてくれるとうれしい」という声もあり、金子さんも共感したと語ります。

観光客の数が落ち込む冬場にもかかわらず宿泊施設は予約が埋まり、中には「革命が起こった」との声もあったという呼子でのコラボイベント。例年にないにぎわいを見せた町の様子を見て、金子さんは自身が掲げていた一つの目標を達成できたと説明します。

「『サガプライズ!』は動画やアンテナショップのように作れば終わりというわけではなく、どんどんコラボレーションを生み出していく事業です。今後もゲームとのコラボはぜひやりたいと思っています」と金子さん。「Sagakeen」の取り組みで新たな経験値を獲得した佐賀県は、今後も積極的にゲームとのコラボを進めていくとしています。


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文: あおきめぐみ

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