慶応義塾大学医学部の大山学専任講師と岡野栄之教授らの研究グループが、マウスを用いた実験で、ヒトiPS細胞(人工多能性幹細胞)から髪を作る組織である「毛包」の部分的な再生に成功しました。研究成果は研究皮膚科学会の専門誌「Journal of Investigative Dermatology」電子版に掲載されています。
▽ http://www.keio.ac.jp/ja/press_release/2012/kr7a4300000betzy.html
▽ ヒトiPS 細胞を用いた毛包の部分再生に成功 ̶脱毛症治療薬の開発、再生医療へ道̶(PDF)
▽ Human Induced Pluripotent Stem Cell-Derived Ectodermal Precursor Cells Contribute to Hair Follicle Morphogenesis In Vivo(PDF)
毛包は、本体を構成する「ケラチノサイト」と、毛包の下端に位置し、毛髪の生成や毛包自身の再生を促すシグナルを出す「毛乳頭細胞」で構成されています。今回の実験では、ヒトiPS細胞からケラチノサイトになる手前の「前駆細胞」を作成。この細胞と、毛包を誘導する能力の高いマウスの幼若線維芽細胞を合わせ、ヌードマウスと呼ばれる免疫不全マウスに移植したところ、2~3週間後に毛包の構造が再現されました。再現された毛包からはヒト由来の細胞であることを示すシグナルも検出されたそうです。
今回の実験では、毛包の本体はヒトiPS細胞から作られていますが、毛包を作るシグナルを出す細胞にはマウスの細胞を用いています。これは、ドナーから採取するヒトの毛乳頭細胞の数が限られていることと、毛乳頭細胞は培養すると毛包を誘導する力を失うことが理由です。しかし、研究グループでは、失われたヒト毛乳頭細胞の特性を回復することに成功しているとのこと。また、理論的にはiPS細胞から毛乳頭細胞を再生することも可能だそうです。
今後は、完全にヒト細胞からなる毛包の作成、さらには、脱毛症の治療や毛包の発育を促す薬剤の開発などへの活用が期待されています。