日本で初めて“本物の魔女”を多角的に紹介する展覧会「魔女の秘密展」が、ラフォーレミュージアム原宿(東京都渋谷区)で3月13日(日)まで開催されています。展示品の中には、魔女に関する書物や史料、魔女裁判で実際に使用された拷問道具なども。開催初日の2月19日には、東京展のオフィシャル・アンバサダーとして声優・上坂すみれさんが囲み取材に登壇し、同展をPRしました。
▽ http://majo-himitsu.com/
「魔女の秘密展」は、これまでうかがい知ることができなかった“本当の魔女”を多角的に紹介する展覧会として、2015年3月から日本各地を巡回しています。これまでの来場者数は延べ約14万人。東京での開催は、大阪、新潟、名古屋、浜松、広島に次ぐ6会場目です。
■ 上坂すみれさん「魔女っ子アニメで育ってきた人にとっては衝撃的」
記者会見には、同展を監修したドイツ文学者の西村佑子さん、図録にコラムを寄稿した評論家の山田五郎さん、声優や歌手として活躍する上坂すみれさんが登壇。西村さんは「魔女というのは(日本のアニメやマンガに登場するような)かわいいものだけでなく、本展にあるようなヨーロッパの歴史が背景にあるというのをぜひ見ていただきたい。2009年に大規模な魔女展を開催したドイツのプファルツ歴史博物館による協力でヨーロッパから“本物”を集めているので、見応えがある」と述べました。
山田さんは、魔女裁判について「法律も通用しない中世の暗黒時代に起きたわけではありません。法律ができ、民主的な状況がそろい、印刷技術によって“魔女の条件”などが流通するようになった結果起きた悲劇です」とコメント。この構造は現代の日本にも通じていると指摘するとともに、「ネット上のバッシングも魔女裁判の構図と似ています。印刷技術によって広まったことも、今ではそれがインターネットに置き換えられる。一つ一つの展示品も見どころですが、魔女裁判や魔女という存在を通して、人間の心の恐ろしさや群集心理の残酷さを感じ取ってもらえれば」と語りました。
上坂さんは、全身を黒で統一したゴシック調のドレス姿で登場しました。魔女のイメージについては「魔女っ子アニメなどで憧れの存在として見ていて、私の中ではキュートなイメージが強かったです」と回答。実際の展示を見て、想像していた魔女像との違いに驚いたそうです。展覧会のタイトルと絡めて「何か秘密はありますか?」と記者に聞かれた際は、「どういうのが秘密に当たりますかね……口座番号とかですかね?」と困りながら回答し、山田さんに「それ、個人情報じゃん」と笑いながら突っ込まれるという場面も。最後は「私のように、日本の魔女っ子アニメを見て育ってきた人にとっては衝撃的な展覧会です。ぜひ歴史上の魔女に触れて、新しい事実をたくさん発見しに来てください」と締めくくりました。
■ 信仰、メディア革命、裁判……魔女の歴史をたどる
展示は「信じる」「妄信する」「裁く」「想う」の4章で構成。2009年にプファルツ歴史博物館が企画・開催した「魔女―伝説と真実」をもとにした内容となっています。
入り口には“魔法陣”が
中世(5世紀~15世紀)における魔女といえば、黒魔術を使って悪事を働く悪い存在とされていました。魔女は物語上の人物ではなく、本当にいると信じられていたのです。第1章「信じる」では、魔術や秘術が信じられていたころのお守りやお札などを展示。病気のときに飲むといいとされた切手サイズの「飲むお札」には、頭を傾ける聖母像が描かれています。人に譲ると効果が失われるため、持ち主を変えてはいけなかったそうです。
近世(16世紀~18世紀ごろ)になると、忌み嫌いながらも魔女を受け入れていた環境が一転し、魔女は次第に不満や憎悪の標的となっていきます。小氷期による飢饉(ききん)や伝染病の流行で行き場のない不安や苦しみが漂っていたこの時代、人々はこれらのすべてを魔女の仕業だと考えていたそう。同時に、活版印刷機の発明によって神学者や法律家が記した魔女論が広く流通するようになり、本に記載されている挿絵のイメージを通して、魔女のイメージが広く浸透していきました。第2章「妄信する」では、混乱の時代で徐々にかたどられていく魔女のイメージを紹介。特に絵画では、魔女の5つの定義とされる「魔女の飛行」「悪魔との契約」「悪魔との情事」「黒魔術」「魔女のサバト」のいずれかが描かれ、魔女という存在を印象付けています。
アルブレヒト・デューラー「空を飛ぶ魔女」
中世犯罪博物館
(c)Mittelalterliches Kriminalmuseum in Rothenburg ob der Tauber
魔女は「魔女族」という種族がいるわけでもなく、人々の“噂”から生まれます。不安定な時代を生きた人々が、その不安を解消するための手段として、魔女というスケープゴートを作るのです。第3章「裁く」では、“噂”によって魔女だと告発された人々の「魔女裁判」の記録を展示。疑いをかけられた被告人は、審問官による尋問を経て拷問を受けます。当時、告発された人物を魔女だと決定付けるのは本人による自白しかありませんでした。拷問に耐えられなくなった被告人は、自分が魔女であると自白し、処刑されます。現代の魔女研究によると、ヨーロッパでは15世紀半ばから300年間で約6万人の人々が魔女として処刑されたそうです。
「バンベルク重罪裁判規定」は、教会および国の裁判所に対して拷問による尋問を実行できるよう前もって定めたもの。魔術をかけると脅したり、疑わしい動作や言葉によって誰かに魔術を伝えたりした人は、この裁判規則に従って告訴された。この書には、魔術の罪の条項にのっとり、被告人は異端者と同じように火あぶりで処刑されるべきだと書かれている。
会場では、魔女の疑いをかけられ処刑された人が着用していた「魔女のシャツ(複製)」も展示されている。拷問を伴う尋問の際、魔術の力を防ぐために、被告人は髪の毛をそられ祓(はら)い清められた新しいシャツを着せられた。
「刺のある椅子」
中世犯罪博物館
(c)The Mainichi Newspapers
こうした魔女狩りは、18世紀に終息します。魔女のイメージは変化していき、近年に至るまで常に新しい魔女像が作られていきました。映画、マンガ、アニメなど、日本でもさまざまな魔女が描かれています。第4章「想う」では、絵画や彫刻、イラストで表現される新しい魔女像を紹介。東京会場では、安野モヨコさん、真島ヒロさん、渡辺航さんをはじめとするマンガ家が描いた魔女も展示されています。
大理石で作られた「魔女(複製)」は、テレーザ・フェオドロヴナ・リースの作品。1896年に初めて展示された際は「高貴な大理石で大胆にもこのようにひどく醜いものを作った」と、展覧会への出入りを禁止されたという話も。しかしオーストリア皇帝のフランツ・ヨーゼフが制作者に会いたいと希望したことで、世間の反応が一転した。
■ ミュージアムショップにはユニークなアイテムも
会場外のフロアでは、東京展限定品も含めた展覧会グッズを販売。展示品の紹介や魔女にまつわるコラムなどを収録した「魔女の秘密展 公式図録」は、全144ページで2,000円(税込)です。マンガ家とコラボレートしたポストカードやステッカーも用意されています。
展示作品にもなっている木版画の「魔女」がパッケージに描かれた「魔女カレー」は、魔女が手間をかけてじっくりと煮込んだカレーをイメージしたそう。「魔界の辛口!!!!辛い物好きの方にはたまらない辛さです」と紹介されていました。価格は648円(税込)。同展オリジナル商品なので、お土産にもぴったりです。
魔女の秘密展
- 会場:ラフォーレミュージアム原宿(ラフォーレ原宿6階)
- 会期:2月19日(金)~3月13日(日)
- 会期中無休
- 開館時間:午前11時~午後7時
- 入場は閉場30分前まで
- 最終日は午後5時閉場のため入場は午後4時半まで
- 観覧料
- 一般・大学生:1,200円
- 高校生・中学生:1,000円
- 小学生:200円