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レアなチョコレートを求めて世界を飛び回る フェリシモのバイヤーみりさんに聞く原動力


■ きっかけは「仕事で担当だったから」

フェリシモが展開するチョコレートコンテンツ「幸福のチョコレート」

幸福のチョコレート|幸福のチョコレート|フェリシモ

──みりさんは、2016年でバイヤー歴20年目を迎えたとお聞きしました。この仕事を始めた理由は、やはりチョコレートが好きだったからなんでしょうか?

“チョコレートが好き”でこの仕事を始めたのではなく、実は“仕事が好き”という思いの先にチョコレートがありました。チョコレートバイヤーは、もともと担当として頂いた仕事だったんです。

最初は今よりもずっと浅い関係性だったんですが、チョコレートと向き合っていくうちに、だんだんとチョコレートの深さが分かるようになってきたんです。フェリシモのお客様に楽しくお買い物していただくにはどうしたらいいだろう、と日々考えるようになりました。目の前にあるものを好きになることには自信があったので、熱中しましたね。そこから紆余(うよ)曲折して、じわじわと今のスタイルにたどり着いた形です。きっかけは本当に一般的なものでした。

──カタログを読んでいると、ここでしか知ることのできない情報の多さに驚きました。普段はどのようにチョコレートの情報を仕入れているんですか?

今はお客様のリクエストと、ネットが圧倒的に多いです。昔はネットが普及していない上に、ここまでチョコレートがフィーチャーされることもなかったので、まず情報がありませんでした。当時は海外出張もしていなかったので、各国の大使館でお話を伺っていましたね。有名店は教えていただけても、小さなお店の情報はなかなか得られませんでした。

海外出張へ行けるようになってからは、現地の人にも情報を頂くようになりました。宿泊先のホテルスタッフにも聞きますね。「日本に紹介されていないチョコレートを探しに来た」と言ったら、大抵はおすすめのお店を教えてくれますから。

ヨーロッパは基本的に飛び込み営業がNGで、絶対に会ってくれないものなんです。でも、私の名刺代わりにもなっているこれまでのカタログを見せると反応が変わります。そのショコラティエの知人が載っていると「この人を載せているんだったら」と話が進む。大手じゃないけど光っているお店だけを載せているので、それが信用につながっているようです。私の英語は旅行英語レベルですが、相手も同じように話せないことが多いので、コミュニケーションとしてはちょうどいいくらいです。

これまでに発行されたカタログ。コレクターも多いという

──言葉の通じない土地で飛び込み営業をするという心意気がすごいなと思いました。

ここまでくると、コレクター的な感覚が芽生えるんですよね。少しでも新しい場所で、少しでもいいショコラティエに出会いたいという意識が働いているんだと思います。新種を探し当てたいという、発掘家のような気持ちというか……。自分でもオタク魂は相当あると思っています。

──この20年間で、手応えがあったなと感じた瞬間はいつだったのでしょうか。

転機となったのは、広報担当者の後押しです。地道に続けていくうちに、社内でも「これすごいよ」という声がぽつぽつと増えてきたんです。最近はTwitterやブログでお客様とつながる機会も増えて、そう言ってくださる方がますます増えてきました。

「チョコレートバイヤーみり」として表に出るようになったのもこのころです。自分の名前を出して売ると一気に責任が大きくなりますが、匿名の担当者でいることはただの保身になってしまう。今は振り切ってどんどん表に出ています。

フランス「ネギュス」のチョコレートキャンディー。「幸福のチョコレート」でも人気の商品。製造する職人が1人しかいないため、大量生産ができないそう

──独自のスタイルを築いてから、みりさん自身の活動がお客さんに伝わっているなと感じたことはありますか?

意識的に味の説明をあまりせず、おいしいと思うかどうかはお客様に委ねるようにしているのですが、それでも好評を頂いているというのは、このスタイルで良かったのかなと思います。固定のお客様もとても多いですが、新規の方も毎年増えています。

お客様には「チョコレートを買う」ということをエンターテインメントとして楽しんでいただきたいと考えているんです。フェリシモの場合は一般商戦よりも早い時期からチョコレートの紹介を始めているので、お客様の元へお届けするまでには時間がかかってしまう。わざわざ待っていただくお客様のための「幸福のチョコレート」でありたいと心から思っています。

──私が「幸福のチョコレート」を知ったのは“青いチョコレート”がきっかけでした。見た目のインパクトもあって、ネットでもたびたび話題になっていましたね。

フランスの「ケルノン ダルドワーズ」のチョコレートですね。最初、あのチョコレートはそこまで押し出していなかったんです。とても小さいですし、クレームが来るんじゃないかな……と不安になって、大きな字で「小さいです!」と書くほど(笑)。今はもう有名になって、東京の百貨店などでも販売されていますね。

スケッチブック。カタログに掲載されているイラストも、すべてみりさんが手掛けている

■ “シーラカンス級”の発見も 世界各国の買い付けエピソード

──20年間バイヤーとして活動してきた中で、印象に残っているお店はありますか?

デンマークの老舗「ピーター バイヤー」です。2016年に日本へ初上陸して、フェリシモでのみ取り扱っています。

チョコの桃源郷がデンマークにあった話|幸福のチョコ部

デンマークといえば、注目を集めているレストランがあちこちにあるグルメの街です。ピーター バイヤーもデンマークの空港にお店があるほどの大手なんですが、サロン・デュ・ショコラのような大きな催事には一切出ていません。「こんなに有名なのにどうして?」と思いつつ、市内から電車で約2時間かけて本店へ行ってみると、地平線まで何もない場所に小さなお店がありました。店内には自家栽培しているカカオの木が十何本とあって……相当やばい人だな、と(笑)。ドミニカ共和国にもカカオ農園があって、社員全員で行くんだと言っていました。

ピーター バイヤーは、デンマークに近いスウェーデンに1店舗ある以外は、一切海外で展開していません。店主のピーターさんもとても寡黙な人。こんなにすごいチョコレートを日本のカタログに載せてくれる意味が、実は私にも分からないんです。商談に行った時も絶対に無理だと思ったんですけど、私の仕事を認めてくれたのは分かりました。

──いつものように、ただカタログをお見せしただけ?

はい。しかも、延々と試食が出てくるんです。この時もピーターさんはチョコレートを置いていつの間にか部屋を出ていってしまうし、ふらっと戻ってきてはまたチョコレートを置いて出ていって……の繰り返しで、ずっと不安でした(笑)。いい職人のチョコレート店は、ひたすら試食が出てくるんですよね。ピーター バイヤーは、本当にシーラカンス級の発見だと思っています。チョコレートを作品として扱っている職人さんという印象でした。

──2017年版のカタログには、日本初上陸のブランドを14社紹介しているとのことでした。買い付けに行ってみていかがでしたか?

今回は「幸福のチョコレート」で初めて紹介するハンガリーが印象に残っています。若い職人に勢いがあって、カフェを経営している人もすごく多い。もともと海外へ輸出しようと考えているようで、エネルギッシュですし、日本へ来てパッケージの勉強をされている方もたくさんいます。

「幸福のチョコレート2017」カタログ

デジタルカタログ | FELISSIMO フェリシモ

おすすめは、ハンガリーの「チョコミー」。首都・ブダペストにあるお店なんですが、若手のチョコレート店で、今回が日本初上陸です。賞をたくさん獲得して輸出もされていたので、最初はスルーかなと思っていたんですが、実際にお会いしてチョコレート作りへの情熱に驚きました。原料からかなり自信を持っていて、どれだけ素材にこだわっているかを話し出すと止まらないんです。ここまで説明に力が入っているのは初めてでしたし、素晴らしいチョコレートであることは間違いないです。

あとは、カナダのトロントにある「ソマ チョコレート」。ここはもう、純正のシーラカンスです! このレベルでまだ日本に紹介されていなかったなんて、と驚きました。夫婦で立ち上げたお店で、パッケージはイラストレーターの奥様が手掛けています。1粒1粒にかける手間とオリジナリティーが特徴です。夫婦で仲良くお仕事をされて、これだけ成功していて、幸せなオーラに包まれていました。

アメリカやカナダは都会なので、実はとても競争が激しいんです。ヨーロッパの人たちはあまりオリジナリティーを追求しないのですが、アメリカやカナダの人たちは自分のアイデンティティーを持っていて、パッケージにしろ味にしろ、自分のスタイルというのを大事にしています。チョコレートという狭い領域の中でどんどん独自性を出していますし、仕事に対する姿勢として勉強になる部分が多いです。

──国によって違いがはっきりしているのは面白いですね。

そうですね。ですが、昔はチョコレートを食べたらはっきりと国名が言えたくらいもっと違いがあったんです。今はファストファッションと一緒で、価値観がどんどん画一化されてきています。寂しく感じることもありますが、チョコレートにとってはある意味進化なのかもしれませんね。

──チョコレートを日本へ輸出することについて、ショコラティエの反応はいかがですか?

商談をしていると、いつも驚かれます。海外では2~3ヶ月もお客様が待つというのは考えられないそうなんです。各国で「本当に素晴らしいお客様がついてくれているね」と言われます。

──それはやはり文化の違いなんでしょうか。待ってでも欲しい、というのは日本人ならではという気もします。

そうかもしれないですね。海外では、日本ほどグルメ文化が発達していないんです。雑学を聞きながら食べる楽しみ方が最近になって広がりだしたという段階です。いろいろ食べたいのが日本人の感覚で、海外の人はすごく保守的。日本のように背景を知りながら食を楽しむというのは、食文化が進んでいる証拠だと思います。

カタログを作るに当たって、みりさんが手掛けたレポートの数々

──チョコレートを輸出するとなると、ショコラティエも日本人の反応は気にされますか?

まずは自分自身の仕事ぶりが日本人に選ばれて、食べてもらっているという誇りの方が大きいようです。いくつ買ってもらえるのか、という数字を気にされる人も多いですね。

──海外から見た日本のチョコレートの印象についてもお伺いしたいです。日本のチョコレートといえば、どういうイメージがあるのでしょうか?

もう「Matcha(抹茶)!」ですね(笑)。とにかく人気で、私が買い付けに行っているのに、なぜか「抹茶を輸出してくれ」とお願いされるほどです。あとは、ゆず。ショコラティエの中では素材としてかなり浸透してきています。日本のチョコレートの特徴としては、バリエーションが豊富ですね。海外でチョコレートのお話をさせていただいた時に「KitKat(キットカット)は20種類以上あります」と言うと、みんなびっくりしていました。「いろいろ食べたい」という日本ならではだと思います。

──日本のショコラティエの印象はどうでしょうか。

たくさん賞を取られて、有名になってきていますね。以前まで、日本のショコラティエは何でもできるけど特徴がないというのがネックだったんです。ですが、青木定治さん(パティスリー・サダハル・アオキ・パリ)が活躍して以降はその課題もクリアされました。きな粉をはじめ、日本の食材を取り入れたチョコレートをどんどん作っていますし、もう怖いものなしですね。みんな注目しています。

──ちなみに、みりさんが今気になっている日本のチョコレートはありますか?

今シーズンはコンビニチョコレートが素晴らしいと思います。話題にもなっていますが、明治の「meiji THE Chocolate」はすごいですね。あの値段であのクオリティーは本当に驚きです! コストパフォーマンスで考えると日本のチョコレートより右に出るものはいないと思いますし、リスペクトしています。

■ 実はプロレスも好き

──チョコレート以外に、熱中しているものはありますか?

プロレスは、ファンクラブに入っているほど好きです。ちょうど12月21日に、私の好きなDRAGON GATEというプロレス団体とフェリシモがコラボするという、趣味と実益を兼ねたイベントをやります(笑)。女の子100人くらいの前で、イケメンレスラーがチョコレートを食べるというクリスマスパーティーです。

──異色のコラボですね。 それはみりさんがチョコレートとプロレスが好きだからというのがきっかけで実現したんですか?

それがたまたまなんです。お話を頂いた際に「こういう団体がいて……」というのを説明していただいたんですけど、私はその時「もう15年くらいファンクラブに入ってますよ」と(笑)。そこで話がどんどん盛り上がって実現に至りました。プロレスは最近、女子人気がすごいんです。見てください、この写真。

Lazaris Mo&Athleteさんのツイート | Twitter

──す、すごい……! この組み合わせ、最高じゃないですか!

素晴らしいでしょ? 合成写真みたいになっていますが(笑)。このYAMATOさんという方はナルシストキャラなんです。なので、写真でもキャラを崩さずにチョコレートとコラボしてくれています。プロレス好きの女子は「プ女子」とも呼ばれていますね。席も値段の高いところからすぐに埋まっていきますし、何万円もするディナーショーもとても人気です。DRAGON GATEはイケメンレスラーがそろっていて、女子受けもすごいです。

──プロレスといえば、投げ合って、倒されて……というようなイメージがあったんですが、それだけではないんですね。

DRAGON GATEのプロレスはサーカスのようですし、ルールを知らなくても楽しめますよ。とにかく動きが速くて、今どうやったの?って思うくらいくるくる回って……。しかもヒーローショーのようにきちんとストーリーがあるんです。物語があるサーカスですね。

見習わなきゃいけないなと思ったのは、観客を飽きさせないように、きちんと途中でハプニングを挟んでくるところ(笑)。しかも毎回同じではなく、少しずつ変化をつけてくるんですよ。何度行っても、すごいな、頑張ってるな……とプロレスラーたちの仕事に対する姿勢に感心します。

あとは、10年前から臨床美術にも取り組んでいます。臨床美術には「うまい」「下手」を軸にせず自己表現を伸ばすというメソッドがあって、私もすごく癒やされたんです。臨床美術士の資格も取ったんですが、習慣として「褒める」という感覚が身につくと、だんだんと人のいいところばかり見えてくるんですね。多様性を認めることができるんです。

チョコレートの会社をこれだけ見つけて、これだけ褒めることができるのも、この技術があるからだと思っています。臨床美術に出会ったこと自体、私にとっては転機でした。これがなければ、もしかしたらバイヤーの仕事も辞めていたかもしれません。

■ これからも“発掘”していくバイヤーに

──みりさんがチョコレート以外に熱中しているプロレスも、取り組んでいらっしゃる臨床美術も、すべてバイヤーのお仕事に生かされているという印象があります。

大人になって学ぶことって、ほとんど仕事からなんですよね。私は仕事が好きな人と仕事がしたいと常に思っているんです。各国のチョコレート店も、ちょっと大手になって分業が進むと、働いている人に少しやらされている感が見えることもあります。自分の中に、自分の仕事として落ちていないんですね。

そうなるとトラブルがあったときに大変です。急に担当が変わって「聞いてないから知らない」となることもあって……。仕事としてやりとりをしているにもかかわらず、取り付く島もない思いをしたこともありました。

──それでも20年続けてこられた、その原動力は何だったのでしょうか。

やはり、お客様の存在です。この仕事は珍しい上に個人事業者とのやりとりが中心なので、トラブルも多々あります。もう嫌だと思うこともあるんですが、助けてくれるのはやっぱりお客様でした。

以前、私の書籍『世界の果てまでチョコレート』(フェリシモ出版)を熟読したという当時大学を卒業したくらいの男性が、「どうしたらこんなに線が入れられるの?」と思うくらい本に書き込みした様子を見せてくださって。「チョコレート業界に就職します」と言っておられました。今は実際にチョコレート業界に入って、とてもご活躍されてるんですよ。他にも何人かそういう方が訪ねてきてくださって……20年続けるとこういうこともあるんだなとうれしくなりました。

順調なことばかりではないですし、しおれていた時期もありました。そんな時に、お客様がぼろぼろになるほど読み込んだカタログを持ってきてくださったこともありました。私がマイナスな気持ちでいるうちにもお客様はカタログを読んでわくわくしてくれていたんだと思うと、そんな気持ちで作ってはいけないなと、モチベーションが上がりました。

──これまで経験してきた出来事や縁が積み重なって、今のみりさんがあるのだなと思いました。あらためて、みりさんにとってチョコレートはどんな存在ですか?

私にとって「仕事って、何?」というのを絶えず語りかけてくれる存在です。人生において仕事はとても大事だと思うんです。ショコラティエは1粒のチョコレートを作るのに全人生を懸けている。私はバイヤーとして、そのショコラティエの人生を受け止めていると思っています。

この仕事をしていると、バレンタインデー前後の短いチョコレートシーズンに向けて、他のバイヤーさんもいろいろなところから情報を仕入れていらっしゃるのを感じます。その中でも、新しい場所をひたすら追っていくのが私の仕事かなと。カタログを読んだら「ここにも行ったのか」と驚いてもらえるような、そんなバイヤーでありたいと思っています。

語り手:チョコレートバイヤーみり

フェリシモでのチョコレートバイヤー歴20年。「チョコで世界中を笑顔にしたい」と毎年現地に足を運び、数々のレアなチョコレートを発掘。これまでに日本に初上陸させたチョコレート店は175ブランド。紹介したチョコレートは400ブランド、計2,000種以上に上る。

Twitter:@chocochoco_miri
ブログ:チョコレートバイヤーみりの世界の果てまでチョコレート!ブログ|フェリシモ

文: あおきめぐみ

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